ロシア「GPS妨害装置」をウクライナが「GPS誘導爆弾」で破壊する皮肉

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ウクライナ南部に展開するロシア軍は、GPS誘導爆弾やドローンを誘導するための信号を妨害するように設計された強力な装置を設置した。 ウクライナ軍は先週、GPS誘導爆弾でロシア軍のその装置を爆破した。妨害電波を発信する電子戦システムPole-21だ。 独立調査機関コンフリクト・インテリジェンス・チーム(CIT)はこの皮肉を理解した。「電子戦システムは攻撃を受けたとき、稼働していなかったと推定できる」との見方を示した。 Pole-21システムはアンテナと強力な電波信号発生器から成る。発せられる電波信号は、ドローンや巡航ミサイル、そして米国の統合直接攻撃弾(JDAM)のような誘導をGPSに頼っている精密誘導爆弾と、GPS衛星との間の電波回線を妨害することができる。Pole-21がカバーする範囲は24kmほどだ。 米陸軍はPole-21について「戦略兵器とインフラを守るよう設計されている」と説明している。ウクライナ南部ザポリージャ州に設置されたPole-21が、どの兵器を守っていたのか正確にはわからない。だが、同州では4カ月におよぶウクライナ軍の反攻が展開されており、ロシアがPole-21を明らかに集中させていることは注目に値する。 ロシア軍は長い間、北大西洋条約機構(NATO)加盟国のドローンや精密兵器の優位性を鈍らせる手段として電子戦、特に電波妨害を優先してきた。 エストニア国防省は2017年の報告書で「ロシアは電子戦の在庫を新しいものと入れ替えて近代化を進めている」と指摘。「このような変化の影響は、ロシアのウクライナ侵略に表れており、電子戦がロシアの動的・非動的作戦の一部となっている」とも説明している。 ウクライナ軍が無人航空機(UAV)や西側式の軍需品を採用するにつれ、ロシア軍は占領地で電子戦インフラを増やしている。米シンクタンクの戦争研究所(ISW)は、ロシア軍が10月10日にウクライナ東部のアウジーイウカ周辺で開始した反撃は大規模な電波妨害から始まったと述べている

 

 

Pole-21は敵味方を問わず、すべての電波信号を妨害する

アウジーイウカ周辺などでの電波妨害の展開は「ロシア軍がウクライナ南部での作戦から得た教訓を戦線の他の場所に生かしていることを示唆している」とISWは指摘した。 ウクライナ軍がGPSに頼れば頼るほど、ロシア軍はGPSを妨害しようとし、そしてウクライナ軍は一層、電波妨害装置を標的にする。ロシアがウクライナに侵攻してから1年8カ月の間に、ウクライナ軍は少なくとも50近くのロシア軍の電波妨害システムを破壊した。各システムは数千万ドル(数十億円)するかもしれない。 ウクライナ軍のPole-21排除作戦は、ウクライナ情報機関の特殊部隊ホワイトウルブスによるドローンでの偵察から始まったようだ。ドローンがPole-21の特徴的なアンテナ配置を確認した後、ウクライナ空軍の戦闘機(スホーイSu-27かミコヤンMiG-29)がJDAMをシステムに落としたようだ。 この攻撃に使われたウクライナ軍のドローンも爆弾もGPSを利用している。空爆を完了し、Pole-21を破壊できたということは、攻撃時にPole-21が稼働していなかったことを強く示唆している。 これは珍しいことではない。Pole-21が抱える大きな問題は、敵味方を問わず、すべての電波信号を妨害することだ。米陸軍は「この妨害装置の影響がおよぶ範囲内にいるすべての(無線周波数)スペクトラムの利用者が同一チャンネル干渉を受けるリスクが高い」と警告している。 そのため、Pole-21を扱う兵士は、衛星誘導を必要とする自軍の部隊が近くにいないときだけスイッチを入れるなど、妨害装置の使用を慎重に判断しなければならない。「ロシアの電子戦は往々にして敵の装備だけでなく、自軍の装備も無力化するため、これらのシステムのスイッチは時に切られることもある」とCITは説明した。 ウクライナ軍は運が良かったか、あるいは偵察と爆撃のタイミングをPole-21のスイッチがオフになっており、まさに妨害するように設計されていたGPS誘導爆弾から自らをを守ることができない時間帯に合わせたかのどちらかのようだ。

David Ax

 

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