晴海フラッグ賃貸街区の契約開始で24年1月生活スタート、注目は大浴場など共用施設

川又 英紀
 

日経クロステック

東京五輪の選手村跡地で開発している「HARUMI FLAG(晴海フラッグ)」。その賃貸街区「PORT VILLAGE(ポートビレッジ)」で住宅の賃貸契約が始まった。

 事業主10社は2023年10月27日、一般賃貸住宅の内覧と契約締結を開始。まずは160戸を対象とし、順次供給戸数を増やしていく。同年9月末から申し込みが始まっており、既に100件を超える申し込みがあった。10月27日以降に内覧して気に入れば、本契約となる。契約の最初の山場は、人が動く23年末と23年度末になりそうだ。

東京五輪の選手村跡地で建設している「HARUMI FLAG(晴海フラッグ)」の賃貸街区「PORT VILLAGE」の北角。2023年10月27日に住宅の賃貸契約が始まった(写真:日経クロステック)

東京五輪の選手村跡地で建設している「HARUMI FLAG(晴海フラッグ)」の賃貸街区「PORT VILLAGE」の北角。2023年10月27日に住宅の賃貸契約が始まった(写真:日経クロステック)

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 入居開始は24年1月下旬を予定している。分譲街区の最速入居の人たちとほぼ同時に、いよいよ晴海フラッグに人が住み始める。

 PORT VILLAGEの敷地は約2万6300m2で、A~Dの4棟で構成する。一般賃貸住宅の総戸数は1258戸に上る。最初の160戸は全体の2割に満たない数だ。他に東急不動産のグループ会社が運営するシニア向け住宅や、京王電鉄グループが手掛けるシェアハウスも用意し、合計で1487戸を供給する。賃貸物件だけでも巨大なプロジェクトである。

賃貸街区はA~Dの4棟で構成する(出所:事業主10社)

賃貸街区はA~Dの4棟で構成する(出所:事業主10社)

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賃貸街区の南側に位置するC棟(左)とD棟。外装デザインを縦方向に分割して軽やかに見せている(写真:日経クロステック)

賃貸街区の南側に位置するC棟(左)とD棟。外装デザインを縦方向に分割して軽やかに見せている(写真:日経クロステック)

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 4棟とも鉄筋コンクリート造で、地下1階・地上15~17階建ての板状棟だ。階数は住棟によって異なる。設計は日建ハウジングシステム(東京・文京)と東急建設、施工は東急建設が手掛けた。晴海フラッグでは建物の外装デザインを様々な建築家やデザイナーが手掛けている。賃貸街区の4棟は日建ハウジングシステムが外装デザインを担当した。

東京五輪のデザインを施した街区内の標識(写真:日経クロステック)

東京五輪のデザインを施した街区内の標識(写真:日経クロステック)

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25人の建築家やデザイナー起用

 光井純氏を筆頭に、安田幸一氏や中村拓志氏、谷尻誠氏/吉田愛氏など参加した建築家は精鋭ぞろい。外装デザインに各自の持ち味を出しつつ、街全体の調和を保つという難題にどう向き合ったのか。

2020/03/26

 晴海フラッグにある他の3つの街区は、既に販売が進んでいる分譲住宅のエリアだ。こちらは総戸数が4145戸。分譲と賃貸を合わせると、約1万2000人が暮らす街が誕生する。

晴海フラッグの全体像。賃貸街区は最も東側に位置する(出所:事業主10社)

晴海フラッグの全体像。賃貸街区は最も東側に位置する(出所:事業主10社)

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 分譲住宅は抽選倍率が跳ね上がり、購入できない人が続出する人気になっている。抽選に外れた人が賃貸住宅を借りることも考えられる。賃貸住宅は分譲販売とは異なり、契約は原則、早い者勝ちだ。事業主10社の物件ページからエントリーすれば情報を入手できるほか、賃貸住宅は複数の不動産仲介会社を通して契約することもできる。312台分ある賃貸街区の駐車場も、契約は先着順になる。

晴海フラッグ「SKY DUO」の第1期販売は平均倍率15倍超え、最高倍率は142倍

 「HARUMI FLAG」の売り主10社は2023年7月8~16日、50階建てのタワー2棟で構成する「SKY DUO」の第1期販売を実施した。573戸を供給し、全戸に申し込みがあった。登録申し込み総...

2023/07/21

 賃貸契約の開始に先立ち、同年10月23日には報道関係者向けの賃貸街区内覧会が開かれた。メディアが晴海フラッグの敷地内に入り、実際の住宅に立ち入りが許されたのは初めてだ。東京五輪の1年延期を経て、ようやくここまでたどり着いた。訪れた報道陣の多くが、PORT VILLAGEの広さや住棟の豪華さに声を上げていた。

賃貸街区を初披露した報道関係者向け内覧会での記者説明会(写真:事業主10社)

賃貸街区を初披露した報道関係者向け内覧会での記者説明会(写真:事業主10社)

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住棟のエントランスホールはいずれも広く、4棟ともデザインが異なる(写真:日経クロステック)

住棟のエントランスホールはいずれも広く、4棟ともデザインが異なる(写真:日経クロステック)

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 間取りは1R/1DKから、1LDK~3LDK、さらにはメゾネットのペントハウスまで幅広く用意している。中でも、「夫婦世帯や乳幼児がいる家族世帯に向く1LDKが714戸と大多数を占める構成とした」(三井不動産レジデンシャル)。次いで2LDKが248戸と続く。

1LDKの住戸間取り図の例。専有面積は50.73m2、バルコニー面積は約12m2。バルコニーの奥行きは約2mある。バルコニー側の柱を部屋の中に入れず、凹凸が少ない居住空間にしている(出所:事業主10社)

1LDKの住戸間取り図の例。専有面積は50.73m2、バルコニー面積は約12m2。バルコニーの奥行きは約2mある。バルコニー側の柱を部屋の中に入れず、凹凸が少ない居住空間にしている(出所:事業主10社)

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メゾネットタイプで2層の高さがあるガラス窓を設けたペントハウスが2戸ある。家賃は未定(写真:日経クロステック)

メゾネットタイプで2層の高さがあるガラス窓を設けたペントハウスが2戸ある。家賃は未定(写真:日経クロステック)

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 気になる家賃は様々だが、

手が届かない高額物件ばかりではない。

 

 

10月26日時点で「三井の賃貸」に登録されている物件を見てみると、

 

B棟2階にある北向きで28.71m2の1Rは、

賃料が月額10万7000円(管理費・共益費が別途1万5000円)である。

 

 

契約時の敷金は1カ月分で、礼金はなしだ。契約期間は24カ月。

 

 

内覧した1DKの住戸例。部屋中央の可動式間仕切りを開けた状態(写真:日経クロステック)

内覧した1DKの住戸例。部屋中央の可動式間仕切りを開けた状態(写真:日経クロステック)

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同じ1DKの住戸例。中央の間仕切りを半分閉めた状態。部屋を分割できる(写真:日経クロステック)

同じ1DKの住戸例。中央の間仕切りを半分閉めた状態。部屋を分割できる(写真:日経クロステック)

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 最も戸数が多い1LDKでは、

D棟11階にある北西向きで43.94m2の住戸が賃料15万9000円(管理費・共益費が別途1万5000円)。

あとは同じく敷金が1カ月分で、礼金はなし。契約期間は24カ月。

 

 

内覧した1LDKの住戸例。可動式の間仕切りでLDKと寝室を分割できる(写真:日経クロステック)

内覧した1LDKの住戸例。可動式の間仕切りでLDKと寝室を分割できる(写真:日経クロステック)

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 選手村のレガシーとはいえ、内装を完全に新しくした「新築」の賃貸マンションとして、入居を検討する人は中央区の家賃相場と比較してみる必要がある。少なくとも、これだけの賃貸戸数が中央区にできる機会は多くない

 

 

 

一番驚いたのは賃貸街区の大きな保育施設

 内覧会で目を引いたのは、共用施設の充実ぶりだ。賃貸街区には入居者専用の大浴場がある。大きなお風呂に入りたい人や銭湯に通っている人は、大浴場の利用料が家賃と管理費・共益費に含まれていると考えれば、割安に感じるかもしれない。

 分譲街区に共用の大浴場はない。賃貸街区の入居者だけが使えるという意味で、分譲街区との大きな差異化要因になっている。事業主10社や仲介会社は、「大浴場を賃貸街区の大きな特徴の1つとしてアピールしていきたい」(三井不動産レジデンシャル)という。

A棟地下1階にある約350m2の大浴場。賃貸街区の入居者専用だ(写真:日経クロステック)

A棟地下1階にある約350m2の大浴場。賃貸街区の入居者専用だ(写真:日経クロステック)

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 在宅勤務やテレワークに便利なワークスペースも見逃せない。住戸はプライベートな生活空間と割り切って、仕事は共用のワークスペースを使えば、家賃が割安な狭い住戸でも暮らしていける人は大勢いるだろう。

入居者が使えるワークスペース。C棟1階にあり、分譲街区の住人も利用できる(写真:日経クロステック)

入居者が使えるワークスペース。C棟1階にあり、分譲街区の住人も利用できる(写真:日経クロステック)

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 賃貸街区で注目したいのは、A棟とB棟のそれぞれ1階に保育施設ができることだ。乳幼児がいる共働き世帯にとって、街区内に保育施設があるのは心強い。街区の中庭の一部は保育施設の園庭になる。保育施設狙いで賃貸街区への引っ越しを検討する世帯もいるだろう。

B棟の1階東側とA棟の1階西側に保育施設ができる(出所:ポピンズエデュケア)

B棟の1階東側とA棟の1階西側に保育施設ができる(出所:ポピンズエデュケア)

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街区中央の中庭空間から見たB棟。右上の青い部分が2層ガラス張りのペントハウス。1階の向かって右側が保育施設で、その手前に園庭がある(写真:日経クロステック)

街区中央の中庭空間から見たB棟。右上の青い部分が2層ガラス張りのペントハウス。1階の向かって右側が保育施設で、その手前に園庭がある(写真:日経クロステック)

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広々とした新築の保育施設。定員は約200人(写真:日経クロステック)

広々とした新築の保育施設。定員は約200人(写真:日経クロステック)

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保育施設の園庭が街区中央にある中庭空間の一部になる(写真:日経クロステック)

保育施設の園庭が街区中央にある中庭空間の一部になる(写真:日経クロステック)

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 運営するのは、保育サービスを手掛けるポピンズグループのポピンズエデュケア(東京・渋谷)。24年4月に、晴海フラッグ内に中央区の認可保育所を2つ開設する予定だ。そのうちの1つが賃貸街区にできる「ポピンズナーサリースクールHARUMI FLAG PORT VILLAGE(仮称)」である。B棟1階が本園、A棟1階が分園になる。

様々な素材や建材を使い、乳幼児が肌触りの違いを体験できる室内。柱や設備の角の面取りには細心の注意を払い、安全性を高めている(写真:日経クロステック)

様々な素材や建材を使い、乳幼児が肌触りの違いを体験できる室内。柱や設備の角の面取りには細心の注意を払い、安全性を高めている(写真:日経クロステック)

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 ポピンズナーサリースクールHARUMI FLAG PORT VILLAGEの入園対象は、0歳児から未就学児まで。保育定員は204人。ただし、初年度は定員が141人で、段階的に増やしていく。0~4歳児は本園、5歳児は分園で過ごす。

 本園の広さは約1000m2、分園は270m2、園庭が560m2となっている。なお、この保育施設は賃貸街区に住んでいなくても、中央区民なら応募できる

 

 

 

 

晴海フラッグ一番乗りで長短所が浮き彫りに

 ここまでは内覧会で見た賃貸街区の住戸や施設を紹介してきた。最後に、初めて晴海フラッグの賃貸街区に足を踏み入れた記者の個人的な感想を述べておく。

 目を引いたのは正直、住戸よりも共用施設だった。大浴場やワークスペースは魅力的で、他にも会議室やパーティールーム、フィットネスルームなどがある。エントランスホールや廊下も広い。ホテル住まいのような生活ができそうだ。

 選手村のレガシーであることを感じられるのは、共用廊下の幅の広さや住戸玄関の大きさである。パラリンピックを想定した車椅子でも生活しやすい広さを確保できているのは、晴海フラッグの強みである。

 賃貸街区の西隣には新しい小・中学校ができる。子どもの通学にも賃貸街区は便利である。

パラリンピックの選手村仕様のため共用廊下の幅が広く、住戸の玄関ドアも大きい(写真:日経クロステック)

パラリンピックの選手村仕様のため共用廊下の幅が広く、住戸の玄関ドアも大きい(写真:日経クロステック)

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 一方、デメリットはこれまで何度も指摘されてきた交通の便の悪さである。まず賃貸街区を歩いて感じたのは、想像以上に敷地が広いことだ。中庭空間は約7000m2ある。ぜいたくな悩みかもしれないが、街区内の移動だけでもそれなりの距離がある。そして最寄り駅の都営地下鉄大江戸線勝どき駅までは、徒歩14~16分とされている。賃貸街区は晴海フラッグの中では最も勝どき駅寄りにあるが、それでも実際に駅まで歩いてみると遠く感じた。分譲街区に住む人は、駅がもっと遠い。

 内覧会当日は天気が良く、勝どき駅まで歩くと汗ばむほどだった。駅近くに駐輪場を確保できるかが問題だが、生活に自転車は欠かせなくなる。晴海フラッグ内の移動だけでも自転車がないと大変かもしれない。

 入居が始まる24年1月は真冬なので、東京湾から吹き付ける海風はかなり冷たいと予想される。まだまだ建設途中の新しいエリアなので、屋根があるところは限られる。寒さや雨・雪・風の対策は必須だ。逆に、夏にまた23年のような猛暑が続くと、これまた徒歩移動がつらくなる。

 日常の買い物もしばらくは大変だ。晴海フラッグ内には、三井不動産が開発している商業施設「三井ショッピングパーク ららテラス HARUMI FLAG」が24年3月に開業する。入居者は何度も通うことになるだろう。だが晴海フラッグの中では比較的ららテラスに近い賃貸街区から見ても、ちょっと遠く感じる。それくらい、約18ヘクタールもある晴海フラッグは敷地が広いということを頭に入れておくべきである。

賃貸街区のA棟(左手)付近から見た建設中の商業施設「三井ショッピングパーク ららテラス HARUMI FLAG」(右手前)。その奥に見えるのが建設中の超高層ツインタワー「SKY DUO」(写真:日経クロステック)

賃貸街区のA棟(左手)付近から見た建設中の商業施設「三井ショッピングパーク ららテラス HARUMI FLAG」(右手前)。その奥に見えるのが建設中の超高層ツインタワー「SKY DUO」(写真:日経クロステック)

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 賃貸街区からは、西側で建設中の超高層ツインタワー「SKY DUO(スカイデュオ)」の現場も見える。場所はららテラスの先なので、歩くとさらに遠い。分譲街区の板状棟に至っては、賃貸街区の前面道路からは小さくしか見えないほど距離がある。ツインタワーが完成すると、ほとんど見えなくなる。東京BRT(バス高速輸送システム)の停留所は賃貸街区の近くにもできる予定だが、発着場になるマルチモビリティステーションは賃貸街区の北西側で、ららテラスの奥の海側。これまた遠い。

手前の賃貸街区から見た、SKY DYO完成後の晴海フラッグ模型(出所:日経クロステック)

手前の賃貸街区から見た、SKY DYO完成後の晴海フラッグ模型(出所:日経クロステック)

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双子の「晴海フラッグ SKY DUO」は驚きの免制震構造、販売開始直前に現場単独取材

 「HARUMI FLAG SKY DUO」は50階建てのツインタワーで、「免制震ハイブリッド構造」を採用している注目のマンションだ。装置の一部は日本最大級。人気が高いSKY DUOの建設現場を販売開...

2023/06/19

 分譲住宅は大人気だが、実際に暮らし始めると不便さも分かってくる。賃貸街区の最初の入居者も良さと悪さを実感することになる。24年の年明けには、晴海フラッグ一番乗りの入居者に本音を聞いてみたい

 

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