イスラエル支持の機運後退、ガザ空爆激化への怒り強まる
ハマスとの戦闘で破壊された家屋近くにたたずむイスラエル人男性(22日)
(ブルームバーグ):
ヨルダンのラニア王妃は、10月7日に起きたイスラム組織ハマスによるイスラエルへの攻撃に対する恐怖を表明する機会をCNNのインタビューで得た。「アラブ人として、パレスチナ人として、1人の人間、1人の母親として」どう感じたかと質問されたのだ。
それに対し王妃は、ハマスの奇襲攻撃に続くイスラエルによるガザ空爆と西側の「ダブルスタンダード」を痛烈に非難。イスラエル南部で起きたこととガザで起きていることを重ね合わせ、「銃を突きつけて家族全員を殺すのはいけないことだが、砲撃して殺すのは構わないというのだろうか」と語った。
イスラエル国内で大きな反発を招いたこのインタビューは、イスラエルと他の中東諸国などがこの紛争をどうとらえているかで分断が深まっていることを浮き彫りにするものだ。
イスラエルでは国民の64%が身の危険を感じているとの世論調査結果が新たに明らかになった。ハマスは連日イスラエルにロケットとミサイルを撃ち込んでおり、陸路や海路での侵入も試みている。治安当局者らは、10月7日に侵入した武装勢力の一部は、2度目の攻撃に備えて潜伏している恐れがあるとみている。
一方でイスラエル国外では、
多くの人が異なる見方をしている。
国連のグテレス事務総長は24日、
「ハマスによる攻撃が理由もなく起きたわけではないことを認識することも重要だ」とし、パレスチナ人は「56年間にわたり息が詰まるような占領下に置かれてきた」と述べた。
イスラエル、グテレス国連事務総長の辞任要求-安保理での発言に反発
イスラエルのエルダン国連大使はその発言に激怒し、
グテレス氏の辞任を求めた。
こうした感情は何も同国政界の右派に限ったことではない。
野党指導者ベニー・ガンツ氏はX(旧ツイッター)に
「国連事務総長がテロを容認するとは暗黒の時代だ」と投稿した。
ドイツは10月7日以来、
イスラエル支持を早くから打ち出していた国の1つだ。
そのドイツも、国連事務総長の辞任を求める声は否定。
「国連事務総長はもちろんドイツ政府の信頼を得ている」と政府報道官がベルリンで語った
イスラエルは、甚大な被害を受けた10月7日の攻撃には背景があることを認めている。しかし同国にとって、その背景とはパレスチナ人に対する不当な扱いではない。ハマスによる攻撃は何世紀にもわたる反ユダヤ主義的な攻撃の延長線上にあるとイスラエルは考えている。
エルサレムのホロコースト記念館はグテレス氏の発言を受けて声明を発表。10月7日の攻撃とホロコーストが違うのは「ユダヤ人が今は国家と軍隊を持っており、無防備で他人のなすがままになっている訳ではない」ことだとした上で、ここを訪れて「二度と繰り返さない」と誓う世界の指導者らの誠意が試されていると指摘した。
バイデン大統領ら西側指導者たちは相次いでテルアビブを訪れ、イスラエルへの連帯と支持を表明した。
各国指導者のテルアビブ参りを受け、イスラエル人は自分たちが理解されていると感じた。ネット上にはハマス自身が撮影した虐殺の動画も出回っており、イスラエルは自分たちのハマス壊滅計画が世界の共感を得られると信じた。
しかし、イスラエル軍のガザ空爆で数千人が死亡し、イスラエルが期待した世界の共感は予期せぬ方向に変わった。
トルコのエルドアン大統領は25日、「ハマスはテロ組織ではなく、領土と市民を守るために戦う聖戦士の集団だ。子どもたちを殺すことは決して許されない」とアンカラで発言。年内に予定していたイスラエル訪問をキャンセルした。
ハマスは解放者の集団、テロ組織ではない-トルコ大統領
イスラム教を国教とするマレーシアのアンワル・イブラヒム首相は、ガザでの出来事が簡単に解決すると思っているイスラム指導者はいないと発言。「イスラエルは米国と欧州の支援を受けて、あまりにも傲慢になっている」とし、「人々が虐殺され、赤ん坊が殺され、病院が爆撃され、学校が破壊されるのを許すのは狂気の沙汰だ。この世界における野蛮の極みだ」と語った。
イスラエルはハマスを新たなイスラム国(ISIS)と呼び、米国と欧州連合(EU)がテロ組織に指定しているハマスを壊滅させると宣言している
ロンドン大学東洋アフリカ研究学院(SOAS)のリナ・カティブ氏は「ハマスを新たなISISと呼ぶのは分析的に不正確であるだけでなく、ガザの全住民を無防備な標的にしてしまうリスクがある」と指摘。「アラブ人とイスラム教徒は、この単純で危険な描写を広く拒絶している」と述べた。
イスラエルでは、レバノンの親イラン民兵組織ヒズボラが参戦してくることへの懸念が高まる中、米国や欧州に一時的に出ることを考える人もいる。しかし、欧米の各都市で反イスラエルのデモが行われている状況を踏まえると、国内の方が安全だと考える人もいる。
多くのイスラエル人は、これはユダヤ人の祖国のための戦いであり、第二の独立戦争だと語る。しかし、それが最終的に国内で何を生み出すかは定かではない。当局者によれば、銃所持許可申請は3倍に増加する勢いだという。
息子がハマスに連れ去られたというレイチェル・ゴールドバーグ・ポリンさんは、国連での演説でこう問いかけた。世界はなぜ、拉致された人々のことをもっと騒がないのかと。
原題:Israel Is Losing Support as Fury Grows Over Its Strikes on Gaza(抜粋)
--取材協力:Sam Dagher、Gina Turner.
(c)2023 Bloomberg L.P.
Ethan Bronner