中国の不動産バブル崩壊するのか?人民に広がる悲観論
経営危機が指摘されている恒大集団の住宅地(CFoto/アフロ)
中国の不動産不況のニュースが日々報じられている。 2021年秋、真っ先に経営危機が表面化した大手デベロッパーの恒大集団(エバーグランデ)は、2年が過ぎた今、会社こそ存続しているものの実質的な破綻状態にあるとみられている。今年9月には創業者の許家印(シュー・ジャーイン)氏が当局に拘束され、取り調べを受けていることが明らかとなった。資金集めのための投資商品が詐欺として立件されるとの見方が広がっている。 同社だけではない。業界最大手の碧桂園(カントリー・ガーデン)も資金繰りに苦しんでいる。原稿執筆時点では正式発表はないが、10月18日期限の社債利払いが確認されておらず、債務不履行となった可能性が高い。 それも無理からぬところだろう。今年上半期だけで1兆円以上もの赤字を計上したというのだから。碧桂園のトップである楊恵妍(ヤン・フイイェン)は2007年に父である創業者・楊国強(ヤン・グゥオチャン)から株式を譲り受け、26歳という若さで中国長者番付1位の座を獲得したスーパーリッチだ。しかし株価はマイナス90%以上も下落しており、プライベートジェットの売却にまで追い込まれたことが報じられている。 他にも資金繰りに苦しむ不動産デベロッパーは多い。中国誌・財新によると、年内にデフォルトに陥る可能性がある企業は65社に達するという。 いったい、何が起きているのか。これから何が起きるのか。
中国不動産危機の現状
危機の引き金となったのは、20年夏の不動産規制だ。 コロナ対策の金融緩和によって不動産価格が急騰したため、中国政府は強烈な引き締め政策を導入した。そのうち、不動産デベロッパーに対して、債務を削減しなければ新たな融資を受けられないという条項が想像以上の波紋を広げた。 金を限界まで借りて、土地を取得し、経営を拡大する。アクセル全開だった不動産デベロッパーに急ブレーキを踏ませることとなったのだ。資金難から建設途中で工事がストップする物件が続出し、消費者には不安が広がった
10月18日に発表された23年9月時点の不動産関係統計と、コロナ前の19年9月時点の比較を表1にまとめた。 4年前と比較して不動産販売額は20%の減少となった。地域別にみると、経済先進地域である東部よりも中部、西部、東北部のダメージが大きい。中国では2010年代半ばから地方都市での不動産建設が加速したが、供給が需要を大きく上回ったとみられる。 中国の不動産バブルと言えば、北京市、上海市、広州市、深圳市の四大都市を中心に取りあげられることが多いが、今回の下落局面ではむしろ地方都市の傷が目立つ。中部や西部では省都クラスの都市でも中古物件価格が10~20%程度下落しているもようだ。より小規模な都市ほど下落幅も大きいようだ。 不動産デベロッパーの資金繰りを直撃してるのがデベロッパー・キャッシュインだ。デベロッパーが得た資金量を指す指標だが、売上が低迷している以上に、銀行融資や社債での資金調達が困難になったことに由来している。 不動産販売は21年7月以降、前年割れが続いている。1990年代末に不動産取引が実質自由化されて以後、中国不動産市場は数度にわたる下落局面を経験しているが、2年以上にわたり継続するのは初めて。過去の下落局面では底値を狙う買いが入って価格は反転してきたが、今回はまだ様子見している動きが強い。
住宅ローン融資残高減少が意味すること
それどころか、この不況は長期化するとの悲観論も広がっているようだ。 それを象徴的に示すのが住宅ローン融資残高だ。2021年後半から伸びが鈍化し、今年6月時点ではなんと融資残高が減少している。住宅ローンの繰り上げ返済が広がっていることが背景にある。 シティグループ中国首席エコノミストの余迎栄氏は22年だけで4兆7000億元(約94兆円)の繰り上げ返済があったと推計している。繰り上げ返済の申請があまりに多く、申し込んでも審査に半年以上も待たされるといった話まで聞かれたほどだ。 住宅ローンは個人でも低利で融資が受けられる数少ない選択肢だ。従来ならば、手持ち資金に余裕があったとしても繰り上げ返済するよりも、投資すること(理想はもう1軒住宅を購入するという投資となるが)が賢明な判断だった。しかし、住宅ローンの利子を上回る好条件の投資先が見つからないなかで、繰り上げ返済したほうが得になってしまった。 住宅ローンはいつでも借りられるものではない。足元の景気判断だけで繰り上げ返済すれば、長期的には損をすることも考えられる。それでも繰り上げ返済の規模がこれほど巨大に広がったのは不況長期化の悲観論が根強いことを示している
金を借り入れてまで投資するよりも借金を返済したほうが得になる……。企業から個人まで債務縮小に向かった結果としてデフレが長期化したのが日本の「失われた30年」だ。消費者物価指数(CPI)は3%以下に抑えるのが中国政府の目標だが、今年2月以降は1%以下で推移しており、7月には異例のマイナスまで記録した。 投資マインドの減退、物価の低迷……。中国も日本と同じ道に踏み入れたのではないかと懸念する声もある。
危機の脱出は目指さないが中国政府の目標
ことほどさように悲観論が広がっているが、一方で専門家の間では「最悪期は脱した」との声も上がっている。粤開証券首席エコノミストの羅志恒(ルゥオ・ジーハン)氏は18日、「経済低迷圧力の最悪期は脱した」とのコラムを発表した。不動産販売額や不動産投資はいまだに前年比マイナスが続いているものの下落幅は縮小しており、雪崩的な不動産危機のリスクは遠のいたとみている。 不動産価格の下落も鈍りつつある。北京市、上海市の不動産価格はすでに前年比プラスに回帰している。 中国政府は繰り上げ返済を減らすための既存住宅ローン金利の引き下げ、新規住宅ローン発給要件の緩和などの対策を打ってきたが、こうした対策がじわりと効果を上げ始めているようだ。 もっともこれをもってすべて解決にはほど遠い。過去の下落局面では対策が効いて上昇局面に転じると、爆発的に不動産景気が過熱するというジェットコースター的な展開を繰り返してきた。これを避ける目的もあってか、中国当局のハンドリングはかなり慎重であり、今後持続的に回復するとしても、劇的な転換とはならないのではないか。 また、中国政府は恒大集団や碧桂園など債務危機に陥った不動産デベロッパーを救済する意思はないようだ。下請け事業者への支払いや販売済み物件の完成はサポートするものの、投資家の損失は許容するという方針だ。そのため今後もデベロッパーの債務不履行というネガティブなニュースは続くことになる。 つまり、わかりやすい形での危機からの脱出は目指さない。これが中国政府の方針なのだろう。この判断が正しいのかどうか、現時点では判断しがたい。じんわりとソフトランディングを目指すやり方で悲観論を払拭できるのかは未知数だからだ。 今後もしばらくは不透明な中国経済にやきもきさせられる日々が続くことになりそうだ。
高口康太