評価額は約6億円? 石原慎太郎さんの豪邸を4兄弟が手放した理由 良純氏は「死後の世界は“無”がオヤジの口癖だから」

デイリー新潮

石原慎太郎さん

 

 

 

 小説『太陽の季節』の作者にして運輸大臣や東京都知事を歴任した政治家、さらには4人の男児の父親と、その男にはさまざまな顔があった。そんな男のついのすみかも、ついに今月取り壊される運びに。その背後には、抜き差しならない事情もあったようだ。 

 

 

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 石原慎太郎氏が昨年2月、89歳で亡くなってから早くも1年半が過ぎ去った。翌3月には妻の典子さんも後を追うように84歳で死去し、東京・大田区田園調布にある床面積にして340平方メートルの豪邸は4人の息子たちに相続されたのである。  石原家は1981年にこの田園調布の自宅を新築する前は神奈川・逗子に居を構えていたのだが、その逗子の家もすでに手放している。  だから残された息子たち、すなわち長男で元自民党幹事長の伸晃氏(66)、二男でタレント・気象予報士の良純氏(61)、三男で首相補佐官の宏高氏(59)、四男で画家の延啓(のぶひろ)氏(57)の4名にとっては、父親との思い出を色濃くとどめる貴重な場所であるはずだ。

「久しぶりにオヤジの夢を見た」

 しかし4兄弟は先々月、すでに不動産開発業者に物件を売り渡していたというのである。なぜこうもあっけなく、実家を手放したのだろうか。  良純氏に尋ねた。 「死後の世界は“無”というのが、オヤジの口癖でした。ならば、残った者が残された物にとらわれることを望んでいなかったと解釈できます。オヤジの真意がどこにあったのかは分かりませんが、実家の建物が無くなることは自然なことだと思っています。先日、久しぶりにオヤジの夢を見ました。10年前の元気なオヤジと楽しく酒を飲みました」  なるほど、文学者の息子らしい“詩情”に満ちた答えである。

不動産の相続財産は「推計3億1千万円」

 もっとも、現実を考えれば維持費や相続税なども大変だったに違いない。この点、立正大学法制研究所特別研究員で税理士の浦野広明氏は、 「相続税はあらゆる遺産の総額に対してかかってくる。本来は不動産だけでは計算ができないものですが、今回はあえて、遺産が田園調布の不動産だけだと仮定して推計してみましょう」  そう前置きしながら、次のように解説する。 「土地は路線価をもとに計算すると、約1億5千万円。一方で、建築当時の政府統計による建築単価で計算すると、建築代金は約2億7千万円です。一般的に建物の評価額は建築代金の60%なので、約1億6千万円。つまり、田園調布の不動産の相続財産は合計で3億1千万円ほどという推計になります

 

 

 

 

末弟の延啓氏は…

 さらに続けて言うには、 「3億1千万円の相続財産に対する基礎控除額は5400万円ですから、最終的にはこれを差し引いた2億5600万円に相続税がかかってきます。結論としては、田園調布の物件を4人で相続する場合、相続税の合計は4880万円。1人あたりではおよそ1200万円を支払う計算です。また、4兄弟でそのまま不動産を保有した場合、年に数百万円程度の固定資産税や維持費もかかるでしょう」  一方で浦野氏は不動産を売却すれば約6億円の値がつき、不動産業者への手数料等を支払っても約1億1800万円が兄弟たちに転がり込むとそろばんを弾く。  延啓氏に実際のところを尋ねると、こう語ってくれた。 「固定資産税や維持費なんて払えないですよ。大き過ぎて誰も暮らせないあの家に、誰がお金を払うのかって話じゃないですか」  そしてこう打ち明ける。 「遺品の整理をしていた時に、叔父さんの裕次郎夫妻が来て食事をした写真が出てきたんです。ああ、こうして家族みんなでメシを食って、一緒に写真を撮ったこともあったなあって。忘れていたこともたくさんあったけど、実は思い出を積み重ねていた場所だったんだなあって。せっかちな親父が、ボロボロ食べこぼしたシミなんかがじゅうたんに残っていたりね……」  家を整理した際『太陽の季節』の第1稿をはじめ、貴重な生原稿が発掘されたという。延啓氏はいずれ、しかるべき場所にそうした貴重な文化的資料を寄贈する予定である。

「週刊新潮」2023年10月12日号 掲載

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