「蓄電できるセメント」、住宅に利用可能
米MITが論文「基礎に家庭1日分の電力貯蔵」
島津 翔
シリコンバレー支局
米マサチューセッツ工科大学(MIT)はセメントに炭素材料を混ぜた蓄電装置を開発した。住宅基礎に利用すれば家庭で使う1日分の電力を貯蔵できる可能性がある。電気自動車を充電できる道路など、活用が広がりそうだ。
蓄電できるセメントのイメージ図。セメント材が絶縁体、混合した炭素素材が電極となり、キャパシターとしての性能を発揮する(資料:米マサチューセッツ工科大学)
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「誰でも手に入る材料だけを使って、建築の新たな地平を開くことができる」。MIT土木環境工学科のフランツ-ヨーゼス・ウルム教授は、開発した「蓄電できるセメント」の可能性をこう言い表す。
ウルム教授の研究チームが発表したのは、一般的なセメントと水、そして炭素主体の微粒子である「カーボンブラック」を混ぜて硬化させた蓄電装置。塩化カリウムなどの電解液に浸すことで電力を貯蔵できることを実証した。論文は7月31日付で米学術誌「PNAS」に掲載された。
研究グループはこのセメントを厚さ1mm、直径1cmのボタン大に加工して電解液に浸し、太陽光発電パネルと接続。貯まった電気を使ってLED照明を点灯させることに成功した〔写真1、2〕。論文によれば、出力は1ボルト程度だった。
〔写真1〕貯蔵した電気でLED点灯
MITの研究チームによる試作品。太陽光発電パネルで発電した電気をセメントに蓄電し、その電気でLEDを点灯させた(写真:米マサチューセッツ工科大学)
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〔写真2〕暖房としても使用可能
上は研究チームが試作した厚さ数ミリの蓄電できるセメント。下のように蓄電すると表面温度が上昇するため、輻射暖房としての用途も考えられるという(写真:米マサチューセッツ工科大学)
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開発したのは大容量の電力を貯蔵できる「スーパーキャパシター」の一種。絶縁体を挟んだ2つの電極に電荷を貯める仕組みで、セメントが絶縁体、カーボンブラックが電極の役割を果たす。
最大の特徴は、劣化しにくい点にある。電池やバッテリーは化学変化を利用して電気を貯蔵する。この変化に伴って、長期間利用すると蓄電性能が低下してしまう。一方、スーパーキャパシターは化学変化を伴わず、電極間を電荷が移動するだけなので劣化しにくい。
蓄電性能が低下しないという特徴は、建物の構造材や道路などのインフラに使用しても定期的なメンテナンスが不要なことを意味する。
研究グループは論文で、住宅基礎への利用を提案した。米国で標準的な戸建て住宅で使用される45m3の基礎コンクリートにこのセメントを使い、スーパーキャパシターとして加工した場合、平均的な家庭が1日に使う電力量である10kWhが蓄電できると試算した。大規模な蓄電器を設置せずに太陽光発電パネルなどで発電した電気を効率的に貯蔵できる、と結論付けている