中国企業 カンボジアの巨大リゾート建設を15年間放置 米国「別の目的」疑念
中国が支援するカンボジアのダラサコール・プロジェクトの建設現場=2020年1月3日、カンボジアココン州
カンボジア南部の海岸沿いの広大な土地を中国企業が、99年間にわたるリース契約を結び、巨大リゾート都市構想を進めている。だが、15年前に着工した同構想は、まるでとん挫したかのように高層マンションや高速道路、空港などが建設途中で放置されているという。この計画には別の目的があるのではないかと米国などは疑念を抱いている。
カンボジア南部に着工から15年経っても建設途中のまま放置されたような町がある。複数の中国企業が99年間のリース契約を結び、「ダラ・サコール海岸リゾート」と称される巨大リゾート都市が計画されているダラ・サコール経済特別区だ。
英BBC(電子版)は今週、「カンボジアの広大な土地を所有するいかがわしい中国企業」との見出しで、ダラ・サコールの現状を特集。「高速道路は黒いリボンのように森の中を通って海まで達し、さらには世界最大級の観光プロジェクトにつながっている」と同経済特別区を紹介した。
ダラ・サコールのリゾート構想は、「自己完結型の観光都市を建設するという中国企業による壮大な計画」だとし、同特別区は「中国の居留地であり、国際空港、深海港、発電所、病院、カジノ、豪華な別荘を備えた〝宴会とお祭り騒ぎ〟の場」と表現した。
だが、「空港は未完成で、5つ星ホテルとマンションが併設されたカジノが1軒だけ海の近くにぽつんと建ち、目の前は整備されていない道路が走り、周囲は建設現場に囲まれている。観光事業としてはまだ始まったばかりだが、アジアで最も豊かな自然環境に恵まれた地と、そこに住む数千の人たちにすでに悪影響を及ぼしている」という。
カンボジアにおける中国の経済的影響力は今や圧倒的で、中国は一国だけで直接投資の半分と対外援助の大半をカンボジア政府に提供している。同国は中国の習近平指導部が推し進める巨大経済構想戦略「一帯一路」の忠実なパートナー国で、その恩恵を受けている。だが、中国からの投資の多くは投機的で、性急なうえ計画性が不十分だとBBCは指摘する
例えば、ダラ・サコールの湾を隔てた、かつては静かな海岸沿いの町だったシアヌークビルは、中国のカジノ需要を満たすため、わずか数年で巨大な建設現場に変わった。それが治安を悪化させ、コロナ禍によりギャンブル経済の崩壊を引き起こし、町には建設途中の高層ビルがあちこちに放置されている。そのため、ダラ・サコールも同じようになるのではとの懸念が住民の間でくすぶっている。
ダラ・サコール構想は、今年8月に40年近く続けた首相の座を長男フン・マネット氏に譲ったフン・セン氏が好んだ種類の開発計画だとされる。援助と投資に関して中国の〝問答無用〟のアプローチは、〝タフな政治家〟と自称したフン・セン氏を魅了したのだという。
同氏は、1990年代に30年にわたったベトナム戦争と、その後の壊滅的なポル・ポト政権を終結させた後、自国の再起をはかるため猛烈な成長を推し進めた。だが、この成長の裏には、広大な土地をめぐって取り巻きや外国企業に寛大な優遇措置を与えることによって達成されたとされる。
BBCによると、ダラ・サコール構想は大規模で、ほぼ全ての計画は秘密裏に取り決められ、環境や住民に及ぼす影響については最小限のアセスメントしか行われていない。関与している中国企業は自社の情報をほとんど開示しておらず、中には胡散臭い実績を示す企業もある。さらに、このプロジェクトは中国にとって、別の目的があるのではないかと国際社会からは疑いの目が向けられている。
この構想は2008年にさかのぼる。当時、天津市北部に拠点を置く中国の民間建設会社UDGが、カンボジアの法律で認められている最長期間、99年のリース契約を一時保証金100万ドル(約1億4800万円)で確保した。これは当初3万6000ヘクタールを開発する権利のためのものだったが、後に9000ヘクタールが追加された。
カンボジア全海岸線の5分の1を使用する巨大な取り決めだったにもかかわらず、UDGは最初の10年間、リース料金を一切要求されなかった。その後は年間100万ドルという〝わずかな〟金額を支払っただけだという
また、この広大な土地はボツム・サコール国立公園内にあり、1つのプロジェクトにつき1万ヘクタールという法的制限を大幅に超えていたが、公表されなかったため、カンボジアのメディアにも取り上げられなかった。
世界資源研究所(WRI)が運営する世界中の森林伐採状況が地図上で把握できるアプリ「グローバル・フォレスト・ウォッチ」によると、2008年以降、同国立公園では原生林の約20%が失われている。また、1000世帯以上が同地を追われた。
一方、「UDGは手入れの行き届いたゴルフコース、整然と並ぶ別荘、海辺のレジャーを楽しむ幸せな家族などの魅力的な画像を掲載した投資家向けの素晴らしいパンフレットを作成した」(BBC)。ところが実際は、伐採された森林や中途半端なままの道路や建物など、パンフレットとは大きく異なっている。
2016年にダラ・サコールの詳細な調査結果を報告した中国の環境団体GEIによると、UDGがカンボジアの法律で義務付けられている環境アセスメントを実施した形跡はないという。
GEIのプログラムディレクター、リン・ジー氏は、「彼らは、関連する法律や規制をすべて遵守したと主張しているだけ。問題を理解していない。中国のイメージを悪化させているだけだ。多くの国は中国企業が資源を略奪するためだけにここに来ていると考えるだろう」とBBCに語った。
米政府もこの構想に警鐘を鳴らしている。米財務省は2020年、村から立ち退かされた人たちへの人権侵害だけでなく、中国が同地に建設中の新空港が軍事利用される可能性を理由にUDGに制裁を課した。
米国はすでに、中国の資金で改修中のシアヌークビル近郊の海軍基地について懸念を示しており、将来的に中国海軍が使用する可能性があると考えている。
習氏が経済計画において民間・軍事の二重利用(中国が「軍民融合」と呼ぶ)を強調していることや、中国の海外プロジェクトが軍事基準を満たすことを公式に要求していることなどから、米国は中国が建設したインフラに対する不信感を強めている。
TNL JP編集部
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