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英国で再び大物タレントの性加害疑惑、メディアも放置?ジャニーズと似た構図
長年にわたる性加害疑惑が報じられた英国の大物コメディアン、ラッセル・ブランド氏(写真:REX/アフロ)
英国で再び大物タレントの性加害疑惑が急浮上した。コメディアンのラッセル・ブランド氏についてだ。タイムズなど大手メディアが一斉に報道、ジャニーズ問題と似た構図が背景にありそうだ。 BBCの名物司会者ジミー・サヴィルの性加害問題に続く大物タレントに疑惑がかけられたことは、エンターテインメント業界にはびこる悪癖はどの世界でも撲滅に苦労していることを示す。 一方、加害者の映像や画像をセンセーショナルに報じることは、被害者のトラウマを呼び覚ましてしまう懸念もある。メディアは二次的被害を与えないよう、注意深く報じる必要がある。 (楠 佳那子:フリー・テレビディレクター)
英国時間の9月16日、2006年から2013年にかけてBBCなど大手メディアに出演し人気絶頂にあった大物司会者、ラッセル・ブランド氏(48)が当時、16歳の未成年者を含む少なくとも4人の女性に性的暴力を振るうなどした疑いがあることが大きく報じられた*1 。英高級紙タイムズと系列のサンデー・タイムズ、公共放送チャンネル4が数年をかけ共同で調査・取材した。 *1:Russell Brand accused of rape, sexual assaults and abuse(9月16日付、英サンデー・タイムズ) ブランド氏は現在650万人以上のフォロワーを有するYouTubeのチャンネルなどで、インフルエンサーとして活動している。報道が出た日の前日15日、同氏は上記メディアより連絡を受けたなどと自身のチャンネルで動画を投稿。現在(英国時間19日朝)までにすべての性的関係は同意の上だったなどと、疑惑を完全否定している。 YouTubeは19日一連の報道を受け、クリエイターの責任におけるポリシーに違反したとして、同氏チャンネルでの収益化の一時停止を発表した。 サンデー・タイムズによると、同紙がブランド氏についての性暴力疑惑を知ったのは2019年。チャンネル4が正式に取材協力し始めたのは2022年のことだという。被害を受けたとする女性らの他にその家族や友人、ブランド氏と共に仕事をしたスタッフや、放送業界幹部ら多数の人たちに取材したと記している。 コメディアンとして活動する中、たびたび性的なジョークを飛ばし性への執着を公言もしていた同氏への疑惑やこうした噂は、業界ではすでに数年にわたりささやかれた「公然の秘密」だったという。ブランド氏はハリウッド進出も果たしており、タイムズなどに告発をした女性らの中には、英国のみならず米国で被害を受けたと主張している人もおり、米国でも大きく報じられている。
週明け、被害者の1人とされる当時16歳だった女性を、学校からブランド氏の自宅に送るために手配された車がBBCから発注されていた、との報道もあった。
BBCはNHKの受信料に相当する、視聴契約料で成り立っている。
既報の通り、BBCには過去に別の大物司会者の性加害疑惑を数十年も見ぬふりをしていた経緯がある*2 。
現在は、米国から始まったエンターテインメント業界における性暴力に対する世界的な連帯も大きい。タイムズなどの報道後、各社も一斉に同疑惑を報じた。
*2:ジャニーズ問題報じたBBCも過去に大物の性加害疑惑を「見ぬふり」、教訓は? (9月12日付、JBpress)
ブランド氏が頻繁に出演していたチャンネル4も同氏への疑惑に関する内部調査を開始。BBCは同問題を「緊急的に」調査していると発表した。
この問題に英首相官邸までもが即座に声明を発表するなど影響は広がっている。官邸スポークスマンは同氏について報じられた疑惑が「非常に深刻かつ憂慮すべき事態」だとし、BBCおよびチャンネル4に同氏への疑惑に対する調査結果を、透明性をもって明らかにすべきだと指摘した。
官邸とは別に下院の文化・メディア・スポーツ特別委員会は、両放送局がどの程度ブランド氏の問題行動について把握していたのかを追及すると報じられている。 またロンドン警視庁は18日、サンデー・タイムズなどの報道について把握しているとした上で、2003年ロンドン中心部での性加害の疑いについて通報があったと発表した。上記報道はブランド氏の性加害疑惑が2006年からのものと報じており、報道各社は新たな証言ではないかと指摘している。
同警視庁は、疑惑の一報後すでにサンデー・タイムズなどと連絡を取ったことも明かし、もし被害に遭ったと感じている人がいるのなら、どんなに昔のことであったとしても連絡するようにと呼びかけてもいる。
日本で騒がれているジャニー喜多川氏の性加害問題をほうふつとさせる騒動になりつつある
■ 当時からテレビ現場は行動を問題視か ブランド氏はその奇抜な言動や行動、ルックスで人気を博し、一時はメディアに出ずっぱりの時期も存在した。記事によるとその陰で、番組に参加した観客の中から性的行為を行う女性を見繕ってこいと制作スタッフに命じるなど、彼の行動を問題視していた現場も少なくなかったという。 だが、ブランド氏の問題行動を目にしても、制作現場に携わるスタッフが自らの職を案じて沈黙せざるを得なかった構図は、これまでの同様の事件からも容易に察することができる。タイムズは今回疑惑を報じたチャンネル4で番組制作を行なったプロダクションの責任者なども、当時ブランド氏の問題行動に懸念の声が上がったにもかかわらず、追及しなかったとしている。 タイムズは、ブランド氏は数十年にも及び性加害を働いていた大物司会者ジミー・サヴィルとも親交があったと報じている。BBCは過去、サヴィルの性加害疑惑に目をつぶっていたことが明らかになっている。 そのBBCでもブランド氏がラジオ番組でBBCの報道キャスターに対するセクハラ的なコメントを行うなど、数々の問題行動は知られた話だった。しかし、内部の懸念の声にもかかわらず、対策は講じられなかったという。 騒動を受け、マネージメント契約を結んでいたエージェントや関係のあった非政府組織(NPO)、出版社などが次々と同氏との契約解除や一時停止を行い始めた。慈善事業に絡むショーの延期も決まった。YouTubeの決断は先に記した通りだ。一連のジャニーズ問題に通じる現象とも言える。 ブランド氏は現在、活躍の場をYouTubeやNetflixなどに移しており、報道の前日、上記メディア各社より連絡を受けたことを自身のチャンネルで明かしている。「確かに人気絶頂でメインストリームで活躍していた時代は性に関して『やんちゃ』だったが、全ての関係は同意の上だった」というのが、ブランド氏の主張だ。この投稿には英国時間18日夜までに10万件以上のいいね! がついている。 コメント欄には米国国家安全保障局(NSA)による大規模な市民監視の実態を暴いたエドワード・スノーデン氏の言葉を引用し、ブランド氏が告発されたのは彼が主流メディアを攻撃するなど反体制派であることへの報復だ、というニュアンスのコメントも上がっている。 筆者はまず、今回被害に遭ったとされる女性や、ジャニー喜多川氏から性暴力を受けた被害者らが、勇気を振り絞って告発したことに、揺るぎない敬意を表したい。力のあるタレントや業界関係者による性加害疑惑がエンターテインメント業界で繰り返し持ち上がるのは、こうした悪習が業界内に蔓延しているからだと考えて良いだろう。 もはや加害者に対するより厳格な法整備や業界への独立監視機関が必要だ。そして、多くが密室での出来事であることを考慮すれば、これらの告発がよりスムーズにできる連絡窓口なども設置しなければならないのではないかとも考える。 ただ、ブランド氏の事件に関してはいまだ明るみに出たばかりで、警察の捜査もこれからだろう。複数の勇気ある証言が行われていることを念頭に起きつつ、同氏をめぐる報道については慎重を期する必要もある
■ 懸念される「フラッシュバック」 サンデー・タイムズがスクープとして報じた週末の記事には、ブランド氏の顔が左右に白と赤で分けられ加工された画像が大きく掲載されている。その目はある一点を凝視し、エキセントリックな形相で、記事中に彼が性加害を行なった際、その目が「悪魔的」であった、という証言のイメージを重ねているようだ。 この画像を選んだのは、当然読者を増やすための効果を狙ったものだろう。しかし、筆者は2つの視点から、こうした演出にもメディアは慎重であるべきだとも考えている。筆者は元々映像メディアの人間なので、良くも悪くも映像や画像の持つ影響の強さは熟知している。 1つは、筆者自身が先日、被害者が数百人にも及ぶという「英国史上最悪」と言われた性加害者、ジミー・サヴィルに関する執筆を行なっていた際の体験がある。当該人物に関する当時の特別審査や報道など、子供や幼児までも餌食にしてきた性加害の実態について、詳細かつ膨大な資料を読み返しているうちに、被害者でもない筆者自身、身体的に気分が悪くなってしまった。 先の原稿掲載にあたっては、編集部に頼んでサヴィルの記事中への画像掲載を少なくしてもらった。当事者でもない筆者自身にこうした影響があるのなら、実際に性加害に遭ったことのある人が加害者のおどろおどろしい画像を見せられれば、フラッシュバックなどの現象が起こるのではないかと危惧したからだ。 国内でも過熱する連日のジャニーズ報道で、加害者であった創設者の画像や映像を見ただけでも二次的な被害が起きていないか、不安が残る。 もう1つは、先に記した通り、ブランド氏にまつわる性暴力問題はいまだ全容が解明されておらず、疑惑の渦中にある段階ということだ。同氏の性加害が真実であるならば当然、法の下で相応の厳罰に処されるべきだし、社会的制裁も免れないだろう。 だが、先ほどリサーチを進める中で、画像検索で上がってきたブランド氏のある写真が目に止まった。今年7月に同氏が、出産間近で化粧気のない妻と買い物を楽しむ、あるタブロイド誌掲載の写真だ。隠し撮りであると思われるが、そこには、どこにでもいるような普通の夫婦が街を歩く姿があり、エキセントリックな芸風で知られる同氏の面影がほとんどなかった
■ 性加害報道に求められる慎重さ
ブランド氏は米国の人気歌手、ケイティ・ペリー氏と一時婚姻関係にあったが2012年に離婚。2017年に結婚した現在の妻との間に2人の女児を含む3人の子供がいる。末子は先のタブロイド誌報道後に生まれていると推測されている。 すでに夫人に関する詳報も一部でされており、ファッション業界で働くことや、子供と大人が一緒に楽しめるクラフト本の著者であることが明かされている。フォロワーが14万人以上いたという彼女のインスタグラムは削除されたようだ、とも伝えられた。 穏やかに見える家庭生活を営む姿は、過去にブランド氏に性暴力を受けたとされ、心に癒やし難い傷を負った女性たちには到底許し難いだろう。その怒りは当事者である被害女性たちのものであるし、疑惑を受けているブランド氏と、その功罪を見てみぬふりをしてきた芸能界やメディア関係者などに向けられるべきものだ。 捜査が進展していないうちからブランド氏の強烈な画像や動画を拡散することで、性被害に遭った人たちがトラウマを思い起こすかもしれない。また、同氏の幼い子供たちが目にするかもしれない、父親のこうしたショッキングな映像や画像の演出は、できるだけ避けるべきではないだろうか。
楠 佳那子
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