日本企業〝中国撤退〟反スパイ法施行1カ月の惨状 日系企業の高度技術「丸裸」「強奪」要求 意的な摘発・拘束の脅威
中国で改正「反スパイ法」が施行されて、1日で1カ月が経過した。スパイ行為の定義が拡大され、恣意(しい)的運用による摘発の強化が懸念されている。日系企業などは社員の拘束におびえながら経済活動を続けているという。習近平国家主席率いる中国は軍事的覇権拡大を進める一方、国内監視を強固にして独裁強化を図っているようだ。日本人複数の長期拘束が続くなか、岸田文雄政権は現地邦人の生命と財産を守り切れるのか。
「共産党の独裁体制死守は、習政権の一丁目一番地だ。外資系企業がいくら対策をしても、リスクから逃れることはできない」 M&Aのプロの立場から「中国事業のリスク」について警鐘を鳴らしている経済安全保障アナリストの平井宏治氏は、こう指摘した。 改正反スパイ法では、従来の「国家機密」に加え、「国家の安全や利益に関わる文献やデータ、資料、物品」の提供、窃取、買い集めなども取り締まり対象とした。 公安関係者は「同法の恐ろしさは『具体性』の乏しさにある」という。「国家の安全」の定義が具体的に示されず、中国当局による恣意的な摘発・拘束がさらに進む可能が高いのだ。 中国では2015年以降、日本人17人が不明確なスパイ容疑で拘束されている。今年3月には、日本の製薬大手「アステラス製薬」の日本人駐在員が反スパイ法違反容疑で北京で拘束された。 北京の日本大使館は、中国政府に「早期解放」を強く求めた。 林芳正外相は4月上旬、「邦人奪還」のために訪中した。「政界屈指の親中派」として長年築いてきた中国人脈の成果が期待されたが、当時の秦剛国務委員兼外相には「(拘束した邦人は)法に基づき処置する」と突き放された。中国メディアには、林氏が笑顔で外交トップの王毅政治局員と握手する映像を流された。完全に舐められたわけだ。 こうしたなか、改正反スパイ法施行を前にした6月下旬ごろ、日本の大手企業や経済団体の関係者ら日中経済交流を支えたベテラン駐在員が相次いで帰国した。関係者によると、米企業でも過去に情報機関などでの勤務経験がある中国駐在員らが次々と離任したという。 日本企業は同法のリスクに対処するため、マニュアルの作成を進めた。 金融機関や商社は、経済分析のための面談調査や市場分析なども「スパイ行為」と断じられる危険性がある。中国の公務員や、国営企業関係者と面会するだけでスパイ行為を疑われる恐れがある。 このため、ある日本企業のマニュアルでは、中国の政府関係者らと面談する際は、中国側の協力を得て場所の提供を受け、面談記録も残すなど、疑いを持たれた場合に備える対策まで検討しているという。 だが、前出の平井氏は「中国の国家安全当局は、全国民、全組織に対して監督・指導する権限を認められている。尋問や拘束の基準は当局が恣意的に決める。マニュアルを作成したところで意味はない」「中国は改正反スパイ法の厳格適用を表明した。経験が長く、深く中国に携わった人ほど『深部を知っている』とみなされるリスクが高い」と分析する。 中国当局の〝暴挙〟は、複合的に広がりつつあるという。 平井氏によると、中国政府は最近、高度な技術を取り扱う外国メーカーに対し、設計や製造の詳細を開示し、全工程を中国内で行うことを定めた規制の検討に入ったという。外国メーカーが保有する独自技術を事実上、「丸裸」「強奪」するような要求だ。 平井氏は「こうした動きを受けて、日米の複数のメーカーが本格的な中国撤退に踏み切る可能性がある」と明かす。 中国当局の締め付けは、投資の判断に不可欠な企業調査にも及んでいる。スパイ行為の疑いで、リサーチ会社への立ち入り調査や、調査員の不当拘束も始まったという。 日本企業はどう対処すべきか。 平井氏は「習政権の強権独裁は国際社会では通用しない。日本も即刻、中国リスクを極限まで切り離すべきだ。まず、サプライチェーン(供給網)の再編だ。製造・開発の拠点を、中国から日本国内に回帰させる。もしくは、ベトナムやカンボジアに移転し、そこから中国向けに輸出する。中国に足場があることが最大のリスクだ。人材の脱出も重要だ。中国の経験が長い人物を優先して、一刻も早く帰国させる。安全確保のために家族ら関係者の帰国も急ぐべきだ」と語った。 中国は経済回復の遅れを受けて、外資系企業への積極的な投資誘致を進めているが、改正反スパイ法はこれを阻害するものといえる。中国商務省は7月21日、同法の説明会を開き、幹部が「政策の透明性と予見可能性を向上させることに注力する」と説明したが、とても信用できない。 岸田政権の取り組みも急務だ。 平井氏は「安倍晋三政権では2020年、企業の国内回帰を促す
『脱中国』のため企業向けの補助金に2000億円超を計上した。
同時期、米国政府の『脱中国補助金』は5兆5000億円だった。
日本には、スパイ防止法もなく、日本人を守る対策も不十分だ。急がねばならない」と強調した
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