4000tの橋桁がするすると横移動、5年半かけて準備した一括架け替え
高速大師橋更新事業(東京都、川崎市)
筒井 爽人
日経クロステック/日経コンストラクション
多摩川に架かる首都高速道路の高速大師橋の架け替え工事で、通行止め期間短縮のため新設する橋桁を既設橋の真横であらかじめ組み上げ、新旧の橋桁をそれぞれスライドさせる工法を採用。2週間の通行止め期間で供用を開始した。
架け替え工事のタイムラプス動画(動画:首都高速道路会社、共映)
現役路線の高速道路が寸断されて、むき出しの断面が露出していた─。2週間で約3800tと約4000tの新旧橋桁をスライドさせた高速大師橋の架け替え工事だ。
高速道路の路面上で川崎市側から見た高速大師橋の架け替え工事。写真中央に既設の橋桁が架かっていた。左手(上流側)にある既設の橋桁をスライドした後、右手にある新設の橋桁を移動する前の様子(写真:大村 拓也)
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架け替え工事を上空から見る。左手が既設の橋桁、右手が新設の橋桁。両橋桁の下には移動用レールを設置している(写真:首都高速道路会社、共映)
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同橋は首都高速道路の1号羽田線と神奈川1号横羽線の境界で多摩川に架かる重交通路線だ。1968年の開通から50年以上経過し、橋梁全体で1200カ所以上の疲労亀裂を確認。橋桁の更新を決めた。施工者は大成建設と東洋建設、IHIインフラシステム、横河ブリッジで構成するJVだ。
同橋の交通量は1日約8万台に上る。交通への影響を最小限に抑えるため、通行止めの期間を短縮する必要があった。既設の橋桁を全て解体してから、新たに造り替える工法ならば通行止め期間が年単位に及ぶ。
そこで発注者の首都高速道路会社は「横取り一括架設工法」を選択した。下流側に立てたベント(仮支柱)上で、舗装の基層まで施した新設の橋桁を事前に構築。通行止め期間中に、既設の橋桁を上流側に約30m移動させた後、新設の橋桁を既設の橋桁のあった箇所にスライドして架設した。
水色の機械が橋桁のスライドに使用したジャッキ(写真:大村 拓也)
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新設の橋桁をスライドしているときのタイムラプス動画。左岸(東京都側)の下流側から見た(動画:大村 拓也)
新設の橋桁をスライドしているときのタイムラプス動画。左岸(東京都側)の上流側から見た(動画:大村 拓也)
一括架け替えのイメージ(出所:首都高速道路会社の資料を基に日経クロステックが作成)
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新設の橋桁は鋼3径間連続鋼床版箱桁ラーメン形式。橋長が292m、幅員が18.2mだ。既設の橋桁よりも幅員を広げ耐久性を向上させたため、重さが約200t増えた。
橋桁の重量の増加に併せて、橋脚もT形橋脚から門形橋脚に変更して造り替えた。あらかじめ既存の橋脚の両側に新設の橋脚を造っておくことで、新設の橋桁をスライド後、すぐに接合できるようにした。
通行止め期間は、2023年5月27日から6月10日までの2週間。既設の切断から上流側へのスライド、新設の一括架設までをわずか3日間で終えた。
橋桁のスライドには橋軸直角方向に引っ張るジャッキを使用した。加えて、新設の橋桁の移動には橋軸方向のジャッキも使った。周辺の建物に当たらないように、ベント上では川崎市側に寄せて組んだからだ。
一括架設が完了しても24時間の昼夜作業が続いた。新旧境界部の橋桁の架設や橋脚との溶接を実施。橋脚の周囲には溶接の際、雨天でも作業を続行できるように防水シートを設置した。
溶接はえりすぐりの職人約40人が2日間で完了。職人の日程を数年前から確保した。
新設の橋桁と橋脚の溶接の様子。1本につき8人が担当し、4人ずつ昼夜交代で作業した(写真:首都高速道路会社、共映)
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溶接する橋脚は2基で計4本。橋桁の連結箇所を4本同時に所定の位置まで持ってこなければならない。首都高速道路会社の更新・建設局大師橋工事事務所の安井雅士工事長は「3径間剛結の桁を決めた位置に持っていくため、ミリ単位で座標の管理が必要だった」と振り返る。
溶接による固定後、新設した橋桁に表層の舗装や区画線などを施し、通行止めを解除した。
架け替え後の橋桁を舗設する様子(写真:首都高速道路会社、 共映)
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通行止め期間中には台風2号が接近。現場付近では、6月2日に日降水量95mmを記録し、約1日工事を中断せざるを得なかった。「工程や作業員の配置などを見直し、2週間に収めた」(安井工事長
4000tの橋桁がするすると横移動、5年半かけて準備した一括架け替え | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)