「トヨタや三菱」など「大手企業」で相次ぐ、職場いじめによる自死…恐ろしすぎる「大人のいじめ」の実態

坂倉 昇平

photo by gettyimages

photo by gettyimages© Photo by Getty Images

 

 

 

 

 

「大人のいじめ」に、今、注目が集まっている。

厚生労働省の統計によると、職場でいじめに遭っているという相談は、ここ10年で2倍に増加。

『』では、坂倉昇平氏が受けてきた膨大な相談事例から、いじめの実態を紹介するとともに、その構造と背景を分析。

日本の職場で、「大人のいじめ」が、なぜ蔓延するのか?どうして、ここまで残酷になれるのか?防ぐことはできないのか?これらについて考察し、対抗する手立てを提案する。

※本記事は坂倉昇平『』から抜粋・編集したものです。

大手企業で相次ぐ、職場いじめによる自死

いじめ被害の深刻さを物語るのは、精神障害を発症する労災事件の多さである。大手企業の例を挙げると、最近でも2017年10月にトヨタ自動車で起きた若手社員の自死、2019年8月に三菱電機で起きた新入社員の自死が、ハラスメントが理由であるとして労災認定されている。

過去にも過労死や過労自死の争いが起きているトヨタ自動車だが、2017年に起きた若手社員の自死は、その経緯が新聞などで次のように報じられている。

Aさんは2015年に同社に入社し、その1年後の2016年3月から、上司の暴言が始まった。日常的に「バカ、アホ」と言われ、「なめてんのか、やる気ないの」 「こんな説明ができないなら死んだ方がいい」などと叱責された。また、地方の大学を卒業して東京大学大学院に入学した経緯を持ち出され「学歴ロンダリングだからこんなこともわからないんや」とあげつらわれたという。さらに、個室に呼び出されて「俺の発言を録音していないだろうな。携帯電話を出せ」などと詰め寄られたこともあった。

Aさんは、同年7月に休職に追い込まれる。3ヵ月後、別の上司の下で復職するも、プレッシャーを感じると手が震えるようになっていた。

追い討ちをかけるように、翌年5月、暴言を吐いた元上司が、Aさんの近くの席に異動になった。Aさんは、「目線が気になるので席を替わりたい」「もう精神あかんわ」などと周囲に漏らしていたという。その後、両親に「会社ってゴミや、死んだ方がましや」、同期にも「自殺するかもしれない。ロープを買った」と連絡していた。そして、 10月にAさんは亡くなった。労災が認定されたのは、それから約2年後の2019年9月のことだった。

三菱電機で起きた、ハラスメントによる新入社員自死事件の経緯はこうだ。2019年4月に三菱電機に入社したBさんは、7月に配属された先で、教育指導の担当者からハラスメントを受けるようになったという。Bさんのメモには、7月上旬に「次、同じ質問して答えられんかったら殺すからな」「お前が飛び降りるのにちょうどいい窓あるで、死んどいた方がいいんちゃう?」「(飛び降りたら)ドロドロ●●(Bさんの名字)ができるな」「自殺しろ」という教育担当者の発言が記されていた。

翌月、Bさんは公園で自死、前日に書かれたメモが残されていたという。2020年9月11日に労災申請が行われ、2021年2月に認定。異例なことに、労災認定に先行して、兵庫県警は教育担当者を自殺教唆の疑いで神戸地検に書類送検している (嫌疑不十分で不起訴処分)。

いじめによる労災認定は11年で10倍に

厚労省の「過労死等の労災補償状況」を見ると、こうした職場いじめによる精神障害やそれによる自死が近年急増していることがわかる。

労災による精神疾患といえば、長時間労働による過労が原因とイメージされることが多いだろう。しかし、長時間労働が全くなくても、上司や同僚から「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」などの心理的負荷の強度が高い出来事があれば、労災として認定される。

2020年5月29日からは、『』で述べるパワハラ防止法の施行に合わせて、このいじめに関する出来事の項目は、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」と「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」の二つに分けられた。『』では特に断りのない限り、これらを「いじめ・嫌がらせ・暴行」とまとめて表記する。

実際に認定さ れた労災のうち、この「いじめ・嫌がらせ・暴行」が精神障害を発症した一番の原因であると判断された件数は、調査が始まった2009年度は16件だったが、2020年度には170件と、11年で10倍に増えている(※1)(図1)(※外部配信でお読みの方は現代新書の本サイトでご覧ください)。自死した人数に注目すると、2009年度は1人だったが、2017年度には過去最多の12人が、いじめによる労災であると認定された。

 

 

 

さらに【つづき】〈4ヵ月で給与84万円を取り上げ、オムツで働かせ、クレーンで吊るす…「大人のいじめ」の壮絶なリアル〉では、職場いじめの具体的事件について、くわしくみていく。

 

 

 

(※1)2019年のパワハラ防止法成立と翌年の施行が、労働者の啓発につながった影響も大きいと見られる

 

 

新着記事 | 現代ビジネス (gendai.media)