兵役逃れロシア人がタイで急増中… 滞在できなくなり物乞い、ロシアンマフィアに頼んで偽装結婚も
バンコクのスワンナプーム空港。モスクワからの直行便が就航している(撮影・下川裕治)
タイを訪れるロシア人が急増している。タイ観光・スポーツ省の発表によると、今年1月にタイに入国した外国人旅行者は210万人を超えた。トップは陸路での出入国が可能な隣国マレーシアだが、2位がロシアだった。その数は20万人を超えている。3位以降は韓国、インド、中国とつづき、日本は4万6,000人ほどで16位だった。
冬場にタイにやってくるロシア人の目的は“避寒”だが、今のように多くはなかった。しかしロシアのウクライナ侵攻に抗議し、ロシア人への入国制限を強める国が多いなかで、中立の立場をとるタイへの視線が集まりはじめ、ロシアの政情の悪化や兵役から逃れの人々の間で、タイブームが起きているという。 きっかけは昨年10月、タイがロシアからの直行便を再開したことだった。タイ政府は、「紛争と観光は別」という見解を示した。ビザなしで30日滞在を許可しているほか、観光ビザをとれば90日の滞在を許している。ビザ取得も比較的簡単なようで、90日の滞在期限も延長が可能だという。「タイなら大丈夫」と考えるロシア人は多い。
ロシア人がロシア人を食い物に…動員令で価格上昇
ロシア人の拠点は、パタヤ、プーケット、サムイ島といったリゾート地帯。月額30万バーツ(約120万円)クラスの高級コンドミニアムも軒並みロシア人で埋まっているという。 これらのコンドミニアム、名目上の所有者はタイ人だが、資金を出しているのはロシア人の富裕層だという。彼らは物件を購入し、次々にやってくるロシア人に貸しだしているわけだ。ロシア人がロシア人を食い物にする構図だ。パタヤで不動産会社を営むWさん(60)はこういう。 「外国人もタイのコンドミニアムを買えますが、労働ビザなど、きちんとした在留資格がある人だけ。いくら金があっても、彼らの名義では買えない。しかしロシア人のエージェントにそれなりの手数料を払えば、簡単にタイ人の名義が借りられます。実質的なオーナーはロシア人。彼らが値段をつりあげているんです。コンドミニアムによっては賃貸料が3倍になったところもある」 1月17日にロシア軍が2回目の動員令を出す可能性があることを発表すると、賃貸料がさらにあがったという。それでも空室はないという。Wさんはこうもいう。 「これは噂ですが、コンドミニアムを買う富裕層の半分以上はロシア軍関係者だというんです。彼らはそういうビジネスをタイでやっているのかもしれない
戦争難民」と物乞い
しかしタイにやってくるのは富裕層だけではない。兵役から必死に逃げようとする人々もいる。 現地報道によると、タイの警察は今年の1月3日、36歳と32歳のロシア人を拘束した。ふたりは入国から1ヵ月ほどがたっていたが滞在費がなくなり、公園で「戦争難民」とタイ語で書かれた紙を手に物乞いをしていたという。食費や帰国の航空券代を得ようとしていたようだ。 4月27日にはプーケットのショッピングモールの屋上から、ひとりの男性が飛び降り自殺し、商店脇で遺体が発見された。32歳のロシア人だった。 ともに兵役を逃れるためにタイにやってきたロシア人の可能性が高いといわれる。
暗躍するロシアンマフィア
帰りたくないロシア人たちはさまざまな方法でタイでの滞在を延ばそうとする。タイには長期滞在が可能なタイランドエリートというビザやロングステイビザがある。しかし費用は高額。タイランドエリートは約240万円から800万円が必要で、ロングステイビザは約320万円以上の預金がタイの銀行になくてはならない。しかしこれらのビザは長期滞在は可能だが、働くことはできず、不動産を買うこともできない。ロシア人の多くが狙うのはタイ人との偽装結婚だという。そこで暗躍するのが、以前からタイにいたロシアンマフィアだ。彼らはパタヤを拠点にしている。 その手口を、パタヤで飲食店を経営するCさん(61)がこう説明する。 「偽装結婚にはかなりの金がかかる。警察への賄賂を含めて、500万円ぐらいは必要。マフィアは帰国したくないロシア人に声をかけ、その資金を稼ぐために麻薬の運び屋や密売をさせるんです。タイとロシアの間を行き来させ、麻薬を運ばせる。タイ人と結婚できたら、ロシアに帰らなくてもいいって騙してね。別の組織は、彼らを東欧に送り、東欧の若い女性を騙してタイに連れてくるリクルートの仕事をさせる。タイにきた女性は売春目的の飲食店で働かされるんです」 パタヤ、プーケット、サムイ島などでは、マフィアがかかわるトラブルが絶えない。リゾートエリアのカフェや水着姿の女性が躍るビアバーでは、ロシア人がロシア人グループに襲われ、現金のみならず、送金を強要され仮想通貨(暗号資産)が奪われる事件がしばしば起きている。 今年の3月、パタヤのカフェで、ひとりのロシア人Eさんが6人グループに囲まれ、暴行を受ける事件が起きた。現地の報道によると、6人グループは180万バーツ(約720万円)の仮想通貨を奪い逃走したという。彼らは皆、麻薬の密売にかかわっていて、その金銭トラブルだったようだ。 前出のWさんはこういう。 「ウクライナ侵攻でロシアの劣勢が伝わると、バタフライ効果を生んで、プーケットやパタヤの物件価格があがる。コロナ禍の損失を、ウクライナ侵攻が埋めてくれているといういびつな構図がいまのプーケットやパタヤなんです」 下川裕治(しもかわ・ゆうじ) 1954(昭和29)年、長野県生れ。旅行作家。『12万円で世界を歩く』でデビュー。『ホテルバンコクにようこそ』『新・バンコク探検』『5万4千円でアジア大横断』『格安エアラインで世界一周』『愛蔵と泡盛酒場「山原船」物語』『世界最悪の鉄道旅行ユーラシア横断2万キロ』『沖縄の離島 路線バスの旅』『コロナ禍を旅する』など、アジアと旅に関する著書多数。『南の島の甲子園―八重山商工の夏』でミズノスポーツライター賞最優秀賞。 デイリー新潮編集部
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戦争難民」と物乞い
しかしタイにやってくるのは富裕層だけではない。兵役から必死に逃げようとする人々もいる。 現地報道によると、タイの警察は今年の1月3日、36歳と32歳のロシア人を拘束した。ふたりは入国から1ヵ月ほどがたっていたが滞在費がなくなり、公園で「戦争難民」とタイ語で書かれた紙を手に物乞いをしていたという。食費や帰国の航空券代を得ようとしていたようだ。 4月27日にはプーケットのショッピングモールの屋上から、ひとりの男性が飛び降り自殺し、商店脇で遺体が発見された。32歳のロシア人だった。 ともに兵役を逃れるためにタイにやってきたロシア人の可能性が高いといわれる。
暗躍するロシアンマフィア
帰りたくないロシア人たちはさまざまな方法でタイでの滞在を延ばそうとする。タイには長期滞在が可能なタイランドエリートというビザやロングステイビザがある。しかし費用は高額。タイランドエリートは約240万円から800万円が必要で、ロングステイビザは約320万円以上の預金がタイの銀行になくてはならない。しかしこれらのビザは長期滞在は可能だが、働くことはできず、不動産を買うこともできない。ロシア人の多くが狙うのはタイ人との偽装結婚だという。そこで暗躍するのが、以前からタイにいたロシアンマフィアだ。彼らはパタヤを拠点にしている。 その手口を、パタヤで飲食店を経営するCさん(61)がこう説明する。 「偽装結婚にはかなりの金がかかる。警察への賄賂を含めて、500万円ぐらいは必要。マフィアは帰国したくないロシア人に声をかけ、その資金を稼ぐために麻薬の運び屋や密売をさせるんです。タイとロシアの間を行き来させ、麻薬を運ばせる。タイ人と結婚できたら、ロシアに帰らなくてもいいって騙してね。別の組織は、彼らを東欧に送り、東欧の若い女性を騙してタイに連れてくるリクルートの仕事をさせる。タイにきた女性は売春目的の飲食店で働かされるんです」 パタヤ、プーケット、サムイ島などでは、マフィアがかかわるトラブルが絶えない。リゾートエリアのカフェや水着姿の女性が躍るビアバーでは、ロシア人がロシア人グループに襲われ、現金のみならず、送金を強要され仮想通貨(暗号資産)が奪われる事件がしばしば起きている。 今年の3月、パタヤのカフェで、ひとりのロシア人Eさんが6人グループに囲まれ、暴行を受ける事件が起きた。現地の報道によると、6人グループは180万バーツ(約720万円)の仮想通貨を奪い逃走したという。彼らは皆、麻薬の密売にかかわっていて、その金銭トラブルだったようだ。 前出のWさんはこういう。 「ウクライナ侵攻でロシアの劣勢が伝わると、バタフライ効果を生んで、プーケットやパタヤの物件価格があがる。コロナ禍の損失を、ウクライナ侵攻が埋めてくれているといういびつな構図がいまのプーケットやパタヤなんです」 下川裕治(しもかわ・ゆうじ) 1954(昭和29)年、長野県生れ。旅行作家。『12万円で世界を歩く』でデビュー。『ホテルバンコクにようこそ』『新・バンコク探検』『5万4千円でアジア大横断』『格安エアラインで世界一周』『愛蔵と泡盛酒場「山原船」物語』『世界最悪の鉄道旅行ユーラシア横断2万キロ』『沖縄の離島 路線バスの旅』『コロナ禍を旅する』など、アジアと旅に関する著書多数。『南の島の甲子園―八重山商工の夏』でミズノスポーツライター賞最優秀賞。 デイリー新潮編集部
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