「私たちは汚染を輸出している」
化石燃料を輸出しながら自国のクリーン化を急ぐノルウェーの「矛盾」
ノルウェーの首都オスロでは空気の質が改善され、スモッグやそれに起因する喘息が激減したという Photo: David B. Torch / The New York Times
ニューヨーク・タイムズ(米国)
Text by Jack Ewing
オスロの副市長シリン・ヘルヴィン・スタヴは、自らノルウェーの「偽善」と呼ぶ問題があることを認識している。ノルウェーは温室効果ガスを削減すべく努力している一方で、多くの原油とガスを生産しているのだ。昨年、ノルウェーの化石燃料の輸出高は25兆円にものぼった。
「私たちは汚染を輸出している」とスタヴは言う。彼女が属する緑の党は、2035年までに原油とガスの生産を廃止する目標を掲げている。
しかし、ノルウェー政府が原油とガス生産から手を引く様子はない
ノルウェー石油エネルギー省の副大臣アムンド・ヴィクは声明で、ノルウェーは欧州のエネルギーの安全を保障していると述べた。また、複数の資源を生産していて、現在開発中の資源もあるとも付け加えている。
EV化による失職は増えたのか
電気自動車の普及で空気は良くなったが…
首都の“ほぼ”EV化を実現したノルウェーに残る「厄介な問題」
ノルウェーは2030年までにゼロエミッション国家になることを目標にする。2023年末までに首都オスロの公共交通機関も電気化される予定だ Photo: David B. Torch / The New York Times
ニューヨーク・タイムズ(米国)
Text by Jack Ewing
2022年、ノルウェーで売れた新車の80%はEV(電気自動車)だった。2025年にガソリン自動車の販売を終了すると宣言した同国は、世界的に見ても「EV先進国」だ。
では、電気自動車のもたらす革命が、環境や仕事、そして日常生活にどのような影響を与えるのか。そして残る“肝心な問題”とは?──ノルウェーの状況から私たちの未来が見えてくる
週末は充電スタンドが大混雑
ノルウェーのバンブル──そこは首都オスロから、松とカバノキが両側に並ぶ高速道路を南に160キロほど走った場所に位置する街だ。バンブルの給油所は、電気自動車が主流となった未来を垣間見せてくれる。
テキサス発祥のコンビニエンスストア「サークルK」が運営するサービスエリアには、ガソリン給油機の数をはるかに上回る電気自動車用の充電スタンドがあふれている。夏の週末になると、オスロの人々が地方のコテージへ向かうため、充電を待つ行列で高速道路の出口が混雑することもしばしばだ。
充電スタンドを提供するサークルKではさまざまな車種に適合する設備投資を急ぐ Photo: David B. Torch / The New York Times
サークルKで働くマリット・バーグスランドは、ハンバーガーのパテをひっくり返したり、レジを打ったりという日々の業務に加え、充電スタンドの順番を待ちながらイライラしている客に対処する方法も学ばなければならなかった
「落ち着いてもらうために、コーヒーをふるまうときもある」と、バーグスランドは言う。
ノルウェーの例を見れば、電気自動車への大規模な移行は、一部の批評家が懸念していたような悪影響を及ぼすことなく、メリットをもたらしているようだ。充電スタンドの性能が信頼できないことや、需要が重なるときに混雑することなど、もちろん問題はある。
自動車ディーラーや小売業者も対応を迫られる。電気自動車への移行は自動車業界の秩序を一新した。ルノーやフィアットなどの伝統的なブランドを追い越し、いまやテスラが業界一のブランドとなっている。
米国の10年先をいく
オスロの空気はきわめて清浄だ。大きな音を立てるガソリン自動車とディーゼル自動車が次々と廃車になるにつれ、騒音も減って静かになった。
オスロの温室効果ガスは2009年から30%も減少したが、ガソリンスタンド労働者の大幅な失業もなく、電力系統も崩壊することなく維持できている。
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