ピロリ菌】胃がん原因の9割、感染ある人の特徴とは? 2種類ある検査のメリット・デメリットと除菌法も紹介

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胃がんの原因となっているピロリ菌感染。どんな人が疑われるのか、どうすれば除菌できるのか、解説します(写真:wittaya/PIXTA)

 

 

 

 

 

日本における胃がんの99%は、ピロリ菌感染が原因とされる。ピロリ菌の感染率は若年層では減少しているものの、50代以上ではいまだ高く、親が感染しているとその子も感染している可能性が否定できない。胃がんリスクを下げるためにも、ピロリ菌感染の有無を調べ、感染があれば除菌する必要がある。 そこで最新のピロリ菌感染の検査方法や除菌方法について、消化器外科内科医の平澤欣吾医師(横浜市立大学附属市民総合医療センター消化器病センター内視鏡部准教授)に話を聞いた。

 

 

 

  【写真でわかる】ヘリコバクター・ピロリ菌

 

 

 

 

 ヒトなどの胃粘膜に生息するヘリコバクター・ピロリ菌(H.pylori)。この菌が胃がんや胃・十二指腸潰瘍の主な原因であることがわかって久しい。とくに日本では胃がんの99%がピロリ菌感染によるものだという。  もそもなぜ、強力な胃酸に覆われている胃粘膜に細菌が生息できるのだろうか。  「胃粘膜にはそれまで細菌は存在できないと考えられていましたが、最近の研究でピロリ菌は、ウレアーゼという酵素を出して周囲にアルカリ性のアンモニアを作り出すことで、胃酸を中和しながら生息していることがわかっています」と平澤医師。

 

 

 ピロリ菌の感染経路ははっきり解明されていないものの、主に飲食物から感染するとされている。感染しやすいのは、胃酸の分泌や胃粘膜の免疫能の働きが不十分な5歳以下の幼少期で、不衛生な生水や井戸水などを飲んだり、感染した親や祖父母が子どもに「食べ物を噛んで与える行為」をしたりすることなどが原因と考えられている。

 

 

 

 ■60代では2人に1人が感染 

 現代は下水道の普及や衛生環境の向上によって、

日本でのピロリ菌感染率は若い世代ほど減っており、

30代以下では約10~20%の感染率という。

 

ピロリ菌感染率が高いのは1970年代以前に生まれた世代、

つまり、50代以上だ。

 

感染率は50代で約30%、60代では約50%と高い。

 

 

 

 「自分や家族にピロリ菌感染歴があれば、一緒に暮らす子どもにも感染の可能性があります。どこかのタイミングで子どもにピロリ菌検査を受けさせるといいでしょう」  

 

 

また、平澤医師は中国などのアジア圏では、

まだピロリ菌感染率は高いことにも注視する。  

 

「5歳以下の子ども連れでそうした国への旅行、駐在などをする場合は、子どもの飲食には注意を。とくに生水の摂取は避けたほうがいい」 

 

 

■ピロリ菌感染がある人の特徴

  ピロリ菌に感染したからといって、必ずしも発がんするわけではない。

環境要因や食事、生活様式、遺伝要因などによって、感染はしていても発がんしない人もいる

 

 

 

それでもピロリ菌に感染した多くの人に見られるのは、

 

慢性胃炎の症状だ。

自覚症状のないこともあるが、

胃もたれや

胸やけ、

吐き気、

空腹時の胃痛、

食後の腹痛、

食欲不振などの

不快症状を感じる人も多い。  

 

さらに長い期間にわたって持続的に胃炎が続くと、

胃の粘膜が薄くやせて「萎縮(いしゅく)」という状態になり、

萎縮性胃炎が生じる。

 

さらに、萎縮が慢性化すると、

胃の粘膜が腸の粘膜の状態に似た「腸上皮化生(ちょうじょうひかせい)」という状態に変質する。

 

 

 

 「ピロリ菌の放置によって胃の粘膜が腸上皮化生になると胃がんリスクはかなり高まります。

そして、

胃潰瘍

十二指腸潰瘍

かつて考えられていたような生活習慣やストレスではなく、

主にピロリ菌が原因であることがわかっています」(平澤医師)  

 

ちなみに、

ピロリ菌感染のない人の場合、

胃炎や潰瘍、胃がんのリスクは減るが、

その一方で

 

胃酸の分泌が活発となるため、

逆流性食道炎にはなりやすくなるという。

 

 

昨今の逆流性食道炎の増加は

食生活の欧米化などが主な原因と考えられているが、

「若年者のピロリ菌感染率の低下も少なからず影響しているのでは」と

平澤医師は指摘する。

 

 

 

 

 胃がんや

胃・十二指腸潰瘍の

予防にはピロリ菌除菌が有効ということがわかったが、

ピロリ菌の検査や除菌治療はどのように行うのだろうか。 

 

 

 ピロリ菌の検査には、

 

大きく

「胃カメラを使う検査」と

「使わない検査」があるという。  

 

まず、胃カメラを使う検査では、

カメラの先端に付いている鉗子(かんし)で胃の粘膜を採取して、詳しい検査を行う。検査には、粘膜を培養する培養法、粘膜からピロリ菌が持っているウレアーゼという酵素の有無を調べる迅速ウレアーゼ試験、粘膜の組織標本に特殊な染色をしてピロリ菌を顕微鏡で探す組織鏡検法などがある。

 

 

 

 一方、

胃カメラを使わない検査としては、

診断薬を服用し、

その前後の呼気を集めて診断する尿素呼気試験法、

血液や尿でピロリ菌の抗体の有無を調べる抗体測定、

便中のピロリ菌の抗原の有無を調べる糞便中抗原測定などがある。  

 

とくに尿素呼気試験法は検査精度が高く、

除菌後の判定検査にも使われている。

 

どの検査方法を選ぶかは下記のメリットとデメリットも参考に医師と相談しよう。

 

 

  「いずれの検査も100%の精度ではなく、

陰性でも偽陰性だったということもありえます。検査で陽性となるなど、少しでも感染が疑われたときには、放置せずに必ず胃カメラを受けてください。ピロリ菌だけに注目して、胃がんが見落とされることのないように、

 

ピロリ菌の検査と胃カメラはセットで考えたほうがいいと思います」

 

(平澤医師

 

 

 

基本的に、ピロリ菌の除菌治療ができるのは胃カメラによって、ピロリ感染胃炎の疑いがある「慢性胃炎」と診断されたケース。

 

 

さらにピロリ菌感染の検査で陽性なら、除菌治療に健康保険が適用される。  

 

 

胃・十二指腸潰瘍がある人や、

早期胃がんで内視鏡治療を受けた人も、

ピロリ菌検査と除菌治療は保険適用となる。

 

ただし、胃カメラを受けずにピロリ菌の検査をして、除菌を希望する場合は健康保険が適用されない。  

 

「まれに、胃カメラで胃の粘膜に萎縮性の変化が見つかったにもかかわらず、検査をしてもピロリ菌の陰性を示す人がいます。そうした場合は、おそらく過去に感染はあったけれど、ほかの病気での抗菌薬を服用したことで自然に除菌された可能性があります」(平澤医師)

 

 

 

 

■除菌は薬、2回目までに9割成功

  ピロリ菌は、薬の内服で除菌する。

用いられるのは、胃酸の分泌を抑制する薬と2種類の抗菌薬。

これらの薬を同時に1日2回、1週間服用することで、約80%で除菌に成功するという。  

使われる抗菌薬は基本的にペニシリン系だが、

ペニシリンにアレルギーがある場合はペニシリン系以外の抗菌薬を使う。

また、除菌の副作用として下痢になる人がいるため、あらかじめ整腸剤も処方される場合もある。

 

 

 

 1次除菌で成功しない場合は

1次除菌終了後、

6カ月程度の間隔をおいて2次除菌が行われるが、

これで約90%の人が除菌に成功する。

 

2次除菌しても除菌が成功しなかった場合は3次除菌も可能だが、

それ以降は保険適用にならないため、自費で受けることになる。

 

 

  「ピロリ菌の除菌によって、胃がんリスクは約60%低下することがわかっています。胃がんで治療を受ける人の年齢は年々上がっていて、内視鏡治療を受ける人の平均年齢は75歳。ですから、70代でも除菌しておいたほうがよく、除菌の年齢として遅いということはありません」(平澤医師)

 

 

 

 もちろん、ピロリ菌の除菌後で60%リスクが減ったからといって、安心というわけではない。  ピロリ菌を除菌することで、胃の炎症は徐々に軽快し、萎縮性胃炎も改善することは多いが、ピロリ菌除菌後でも、除菌前の胃炎の状態が進んでいた人ほど胃がんのリスクはより高く残ってしまう。そうしたケースの胃がんリスクは感染のない人の15倍以上とされている。

 

 

 

 ■除菌後も年に1回は胃カメラを

  「ですから、除菌後も定期的に胃カメラを受けることをお勧めします。できれば2年に1度は胃カメラを受けましょう。萎縮が進んでいた人や胃がんを経験した人は、年1回はやったほうがいいですね」(平澤医師

 

 

 

ピロリ菌の感染は、胃がん発生の最大のリスク因子だが、

ピロリ菌未感染の胃粘膜にも1%の確率で発生する胃がんもある。

 

 

  いずれにしても、

超早期のうちに胃がんを発見でき、

 

いまや苦痛のない検査となりつつある胃カメラを受けない手はない。

 

早めの検査で胃がんリスクに悩まされない日々を享受しよう。

 

 

  (取材・文/石川美香子) 横浜市立大学附属市民総合医療センター 消化器病センター内視鏡部准教授 平澤欣吾医師 1997年国立浜松医科大学卒業。1999年に横浜市立大学第2内科消化器グループ(現・消化器内科)入局。2003年より現在の横浜市立大学附属市民総合医療センターに勤務。消化器内視鏡の診断と治療を専門として拡大内視鏡・ESDに注力。日本内科学会認定医・指導医、日本消化器病学会専門医、日本消化器内視鏡学会専門医・指導医・学術評議員・関東支部会評議員。

東洋経済オンライン医療取材チーム :記者・ライター

 

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