「中国との向き合い方について、欧米は日本を見習うべきだ」 独誌が日本の対中政策を高く評価する理由
国内から見れば難しい状況に置かれている日中関係だが、欧米の目にはどう映っているのか Photo: atakan / Getty Images
中国との間に、隣国同士であるがゆえのさまざまな問題やしがらみを抱える日本。その対中政策について国内では、対立を煽りすぎ、弱腰、中途半端などなど、さまざまな考えがある。
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いま、欧米の国々の多くも、国際社会で大きな力をつけるとともにますます強権的になる中国にどのように向き合うべきか、頭を悩ませている。それらの国の目には、日本の対中政策はどのように映っているのか。 ひとつの見方として、ドイツの「シュピーゲル」誌に掲載されたコラムを紹介する。そこでは、日本の対中政策がしたたかにバランスをとるものだと高く評価され、欧米もそれを見習うべきだと主張されている。
混迷を極める対中政策
中国のこととなると、西側の同盟諸国は最近、一致団結した態度をとれず、さながら学生集会のようだ。 米国では、民主党と共和党が、どちらが中国に対してより好戦的になれるかで張り合っている。フランスのエマニュエル・マクロン大統領は、中国が台湾を急襲しても、積極的に目をそらす構えだ。そしてEUはというと、公式の覚書によれば、中国政府を「パートナー、競争相手、および戦略的ライバル」と位置づけている。各加盟国は、自国にとって都合のよい中国の位置づけをここから選べるというわけだ。 しかし、ドイツ政府は、連立政権内で合意に至らないため、EUの定義から好きなものを選べる立場ですらない。現在、オラフ・ショルツ首相とアンナレーナ・ベアボック外相が、かねてから予告していた中国戦略を、ドイツと中国の政府間協議の前に発表するか、後に発表するかで揉めている。その政府間協議は2023年6月に予定されているので、ベアボックが所属する緑の党とショルツが所属する社会民主党は、互いに対立をさらに深める時間的余裕がある。
見習うべきは日本
習近平の独裁政治がますます攻撃的になるなかで、すでにずっと前から不快な経験をしてきた国から何かしらを見習うことができれば、ドイツの混乱の解消につながるかもしれない。 参考にするべきその国とは、日本だ。日本は、多くの点でドイツと似ている。ドイツと同様、高齢化が進んでいるし、輸出が盛んな経済だ。 ところが、まだドイツで「貿易による変革」(註:中国と結びつきを強めて世界経済に取り込むことで、中国国内の政治の穏健化・現代化、人権問題の解決が促されるだろうという楽観論)といったお題目が唱えられていた頃から、そして米国で「チャイメリカ」(註:チャイナとアメリカを組み合わせた造語)なる、21世紀の2つの超経済大国の密接な関係がしきりに語られていた頃から、すでに日本は中国に対抗しなければならない状況にあった。 日本政府は10年以上前に、東シナ海の島々をめぐる紛争において、中国に重要な資源を突然奪われた経験をしている。日本ではこのとき急に、中国が単に成長を追求する“世界の工場”にとどまらないことが明らかになった。中国は、その産業的な力を用いて政治的、領土的、イデオロギー的な目標を追求する未来の超大国だと理解されるようになったのだ。事実、中国の主要な外交官たちは最近、バルト三国の生存権に疑問を投げかけることさえ辞さなくなっている。 中国との問題は日本にとって苦い経験ではあったが、日本が中国との貿易を断絶するようなことはなかった。それどころか、今日に至るまで物のやり取りは増えている。現在、日本の輸入総額のうち、中国の占める割合は約20%で、ドイツの3倍以上の数値だ。 他方で、日本がドイツに勝っているのは、軍事的・経済的な脅しを以前ほど簡単には受けにくくなったという事実だ。安倍晋三元首相は防衛費の増額を目指し、安全保障において米国、オーストラリア、インドとの結びつきを強め、第二次世界大戦後にずっと固持されてきた、平和主義的な国家イデオロギーと決別した。そして日本はミサイルの配備を増強するとともに、オーストラリアに米国の原子力潜水艦を提供する、いわゆるオーカスの枠組みを支持した
経済安保法制とネットワークづくりを評価
経済においても、日本は「利回り」重視から「レジリエンス」重視へと徹底的に転換していた。政府はいわゆる「チャイナ・プラスワン」戦略のもと、重要な物資における中国企業への依存度を下げるよう、日本企業に迫る。 経済安全保障を推進する法律があり、半導体、電池、鉱物資源、医薬品などの重要物資の供給を所轄する大臣がいる。通信会社は、基幹インフラに関わる設備を中国から調達する場合、審査を受けなければならない。産業界と政府の代表者は、中国への依存度を下げる方法を定期的に話し合っている。 また同時に、日本は地域における独自の経済ネットワークを拡大してきた。米国はドナルド・トランプ前大統領とジョー・バイデン現大統領による近視眼的な「アメリカ・ファースト」路線のもと、何年も自由貿易協定を締結していない。 それに対して日本は、商品やサービスの貿易の約8割を、自由貿易協定の枠内でおこなっているのだ。20年前はわずか2割だったのに、めざましいほどの増加だ。世界で最も大規模なアジアの経済連携協定、「地域的な包括的経済連携協定(RCEP)」に日本は参加しているが、米国はしていない。 こうして、米国が東南アジアにおける経済的影響力を失っていく一方で、日本は影響力を強めている。米国は、中国が一帯一路構想でグローバルサウスの大部分を自国の勢力圏に収めようとしていることを嘆くばかりだ。対する日本は約10兆円規模のインド太平洋戦略を立ち上げた。この地域の道路や橋や港の建設を大胆に支援するものだが、被支援国が債務のワナ(註:支援を受けた国が多額の債務を抱え、整備された施設の使用権を結局は支援をした国が得ること。主に中国の支援を受けた国で問題視されている)に陥ることはない仕組みになっている。
「リスク低減」のあり方
日本政府は、中国の市場から利益を得つつも、同時に依存度を減らす方法を実演している。機密性の高い先端技術の移転を禁止しつつも、中国経済の能力に関する充分な情報を持っている。日本企業はサプライチェーンを確保しつつも、中国でしっかりと利益をあげている。これは力の政治だが、軍事的な衝突を引き起こすようなものではない。それどころか、軍事的衝突を防ぐためにおこなわれているのだ。 それだけにいっそう、日本は太平洋の向こうの米国から聞こえてくる好戦的な論調に苛立っていることだろう。だからこそ日本政府は、中国との対立をいたずらに煽らないように努力している。岸田文雄首相は最近も国際メディアに対して、台湾における力による現状変更は「許されない」と述べた。だが同時に、西側諸国は中国と「建設的かつ安定的な関係を構築」し、「共通の課題」において協力しなければならないとも主張した。「平和」と「安定」──それが岸田の合言葉だ。 約75年前に最初の原爆が投下された都市、広島でG7サミットが開催される。そこに参加する欧米の指導者たちは、日本の話をよく聞くべきだ。最近、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、欧州と中国の関係を表現する際、「デリスキング(リスクの低減)」という言葉を使った。なかなかスマートな言葉だ。 それが実際どのようなことを意味するのかを、日本は示してくれている。
Michael Sauga
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