「コストコ」専門のネットスーパーが人気 なぜオープン前に会員が1万人を超えたのか
米国発の会員制スーパー「コストコ」が日本に初上陸したのは、1999年のことである。福岡県に1号店を出店して、その後、少しずつ少しずつ増やしていって、現在は全国に32店舗を構えているのだ。
週末になると、コスコトの周辺は渋滞ができるところも多い。それほどファンが多い
わけだが、オフィシャルの店に足を運ばなくても商品を手にできることをご存じだろうか。コストコの商品を仕入れて、それを販売する――。
こうしたビジネスを展開する会社が増えていて、利用者が増えているのだ。
このような話を聞くと、「なんだか怪しいなあ。それって、テンバイヤーだろっ!」などと思われたかもしれないが、販売するにあたってコストコ側は「キーっ!」となっているわけではない。ということは公認なのかと思いきや、そうでもない。では非公認なのかというと、そうでもない。 冒頭で「会員制スーパー」という表現を使ったが、コストコは「卸売業」でもあるので、正規のビジネス会員になれば、店内で商品を仕入れて、それを販売することができるのだ。ただ、ビジネス会員だからといって“まけて”くれるわけではない。店頭で販売している価格(つまり、一般消費者と同じ)で仕入れなければいけないので、再販する際には諸経費を上乗せした値段となっている。
では、どういった形態の店が増えているのか。
大きくわけて3タイプある。
1つめは、
店を構えてコストコの商品を扱う「再販店」だ。
専門店だけでなく、スーパーの一角でコストコの商品を販売するケースもある。 2つめは、ECサイトでの販売である。例えば、Amazonや楽天などでコストコの商品を扱っている。3つめは、買い物代行である。Uber EatsやWoltなどのほかに、家事代行のベアーズもユーザーの代わりに商品を届けている。 競合がたくさんひしめき合っている中で、筆者が気になっているサービスがある。2023年2月に始めたネットスーパー「SocToc (ソックトック)」(運営:WeCanDoIt)だ
SocTocの特徴
SocTocのビジネスモデルに、どのような特徴があるのか。お客がネットを使って「クワトロチーズピザ 4種のチーズ」(2558円)を注文すれば、スタッフはクルマを飛ばしてコストコで購入する。東京都内の倉庫に運んで、箱詰めなどをしたうえで、客が指定した時間に届けるといった仕組みである。値段はコストコの店頭価格から、25~30%ほど上乗せしている。 やっていることは買い物代行に近いが、ポイントの一つに「仕分け」がある。コストコで買い物するにあたって、「全体的に安いのはいいけれど、量が多いんだよねえ。家族2人だと、食べきれないよ」といった声をよく聞く。こうした不満に対して、SocTocは小分け商品を用意しているのだ。先ほどのピザでいえば、ハーフサイズを1427円で販売している。 家から遠いところにあるので、店に行けない人向けの「買い物代行」と、大量の商品をバラ売りにして店で販売する「再販店」。この2つの“いいところどり”をしているのが、SocTocの特徴として挙げられるのだ。 コストコの商品を扱っている会社はたくさんある中で、なぜこのタイミングで事業を始めようと思ったのか。WeCanDoItで社長を務める大里健祐さんに話を聞いたところ、「以前はエンジニアとして働いていましたが、30代には起業したいなあと思っていました。どんなビジネスがいいのかなあと考えて、できれば情熱を注げることがいい。自分はコストコ愛が強い。であれば、コストコに関係することはできないかと考え、いまの事業を始めました」とのこと。 畑違いのキャリアを積んできたものの、22年8月に会社を立ち上げる。「23年2月にコストコの商品を扱いますよー」「年会費0円で、家まで届けますからね」などと発表したところ、ローンチ前にもかかわらず、会員は1万人を超えたのだ。 で、実際にスタートしてどうだったのか。「想定以上の注文が入りまして、オペレーションがうまくまわりませんでした」(大里さん)。仕分けや梱包に時間がかかってしまって、社内のエンジニアなども動員することに。配送をお願いしている業者の人にも手伝ってもらって、作業を急いだ。それでも一部のお客に対して、遅れが生じてしまった。 ただ、そのことを隠さないところが、この会社のいいところ。3月20日のリリースには、次のような文言が綴られていた。「3月前半はサービスをリリースして間もないこともあり、システムの不具合やオペレーション上のトラブルも多く、すでにSocTocをご利用いただいたお客さまにはご迷惑をおかけすることも多くございました」と
スタート時はてんやわんや
事業をスタートしたものの、いきなりピンチに陥る。なんとかそれを乗り越えたものの、新たな課題が2つ浮かんできた。1つめは、お客からの注文を受けて、コストコに足を運んだものの、その商品が売り切れていたのだ。2つめは、注文を受けてその商品を買ったつもりでいたが、パッケージが似ているので、違うモノを手にしていたのだ。 この課題に対して、どのような手を打ったのか。結論から先に言うと、まだ100%解決にはいたっていない。コストコ側に「パンと牛乳を買うので、よろしく」と伝えて、事前に商品を確保してもらう仕組みもある。ただ、現時点でそれはできていない。取引を始めたばかりであったり、注文数が少なかったり。こうした問題をクリアーすれば、店に足を運んで「商品がない!」といった事態も避けられそうである。 2つめの課題は、バーコードなどを使えば解決できそうだが、こちらは準備不足という側面が強い。システムを構築できれば「あちゃー、また間違ったよ」といった事態は避けられそうである。 それにしても、なぜ想定以上の注文が入ったのか。繰り返しになるが、SocTocの特徴は「年会費が0円である」「商品を家まで運んでくれる」「小分けにしてくれる」ことが挙げられる。このサービスを使っている客は、どのような人たちなのか。コストコのことをそこそこ好きなライト層である。 大のファンであれば年会費は気にならない。てか、たくさんの商品を購入するので損得勘定を考えれば、年会費を支払うほうがトクである。またネットで注文するのではなく、できれば店でたくさんの商品を見たいはずだ。 あと、営業エリアも見逃せないポイントである。2月末には都内の杉並区、練馬区、中野区(一部地域のみ)でスタートしたが、現在は新宿区、渋谷区、世田谷区(一部地域のみ)でも始めた。ご存じのとおり、いずれのエリアもコストコから離れている。「ちょっと買いたいなあ」と思っても、近隣の店に行くには1時間ほどかかるので、ネットでポチっと注文する人が増えているようだ
コストコと大手流通が動けば
最後に競合の話をしよう。「コストコの商品を販売すれば、もうかる」――。といった話を聞けば「ウチもウチも」といった感じで、さまざまな企業が参入してもおかしくはないが、いまのところそういった事態にはなっていない。 コストコが日本に上陸してから20年以上が経過しているのに、これまで大手スーパーは参入していない。なぜか。この疑問に対して、大里さんは「コストコが“動き”始めた場合を懸念されているのかもしれません」と話す。 コストコも自社のECサイトを持つ。店頭に並んでいる商品を販売しているわけだが、消費者側に立つと「2つのデメリット」がある。利用するには年会費がかかること、生鮮食品を扱っていないこと。しかし、である。もし年会費を0円(またはポイント還元など)にして、生鮮食品の販売を始めたらどうなるのか。「卸」の立場なので、店頭価格で販売できる。となれば、コストコの“圧勝”である。 こうしたシナリオを考えると、大手は手を出したくも出せない状況にある。「コストコが動かない+大手が手を出さない=小さな会社にチャンスが生まれる」という公式が成り立つのだ。ただ、この公式は未来も約束されているわけではない。コストコまたは大手が動くことによって、勢力図は大きく変わりそうである。
数年後が楽しみである。 (土肥義則)
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