京都・嵐山に「目立たない止水壁」、改修後も変わらない眺望

嵐山地区・桂川左岸の可動式止水壁(京都市)

大井 智子

 

ライター

 

 

 

新型コロナウイルス感染対策のマスク着用が個人の判断に委ねられて1カ月後の2023年4月、京都・嵐山地区は観光客でにぎわっていた。桂川に架かる渡月橋の上流左岸側では、川を見ながら散策する人が目立つ。一部区間でパラペット(特殊堤)があるものの、

 

高さは最大でも70cmと景観を阻害しない。

 

 

 

渡月橋の上流左岸側を撮影。パラペットが景観を阻害していない。2023年4月上旬に撮影(写真:生田 将人)

渡月橋の上流左岸側を撮影。パラペットが景観を阻害していない。2023年4月上旬に撮影(写真:生田 将人)

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渡月橋の上流左岸側。2023年4月上旬に撮影(動画:生田 将人)

 

 

 

 この区間には、増水時に立ち上がる可動式止水壁が内蔵されている。

 

修景を含む改修工事などが22年3月に完了した。

 

止水壁の存在を全く感じさせない仕上がりになっている。

 

 

 

 

川沿いに整備したコンクリート製のパラペットに、止水壁となるアルミパネルの扉体を内蔵した。計画高水位を満たすように設計した固定部の高さは道路の縦断形状に合わせて、ゼロから70cmまで変化する(写真:生田 将人)

川沿いに整備したコンクリート製のパラペットに、止水壁となるアルミパネルの扉体を内蔵した。計画高水位を満たすように設計した固定部の高さは道路の縦断形状に合わせて、ゼロから70cmまで変化する(写真:生田 将人)

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 改修前と比べても、違いはほとんど分からない。

 

「止水壁を隠すことがコンセプト。地元との合意形成に向け、風景を変えないことが重要だった」。国土交通省近畿地方整備局淀川河川事務所工務第一課の文字聖地域防災調整官は、こう振り返る。

 

 

 

 

改修前の桂川上流左岸側。もともとパラペットはあった(写真:国土交通省淀川河川事務所)

改修前の桂川上流左岸側。もともとパラペットはあった(写真:国土交通省淀川河川事務所)

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改修後。京都市が管理する歩道舗装と車止め(写真右側)は、国が整備した歩道舗装と車止め(写真左側)の意匠と合わせて市が改修した(写真:生田 将人)

改修後。京都市が管理する歩道舗装と車止め(写真右側)は、国が整備した歩道舗装と車止め(写真左側)の意匠と合わせて市が改修した(写真:生田 将人)

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 隠された扉体はアルミパネル製で高さ80cm。

 

桂川の左岸側約260mの区間で、

 

計129枚を設置した。

 

全国に1つしかない構造形式で、嵐山地区のために開発した。

 

 

 

 

可動式止水壁を立ち上げたところ(写真:国土交通省淀川河川事務所)

可動式止水壁を立ち上げたところ(写真:国土交通省淀川河川事務所)

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 嵐山地区は、文化財保護法で史跡と名勝に指定されている。

 

今回の河川改修では、

 

「指定当時の姿を保全する」

 

 

「桂川、渡月橋、嵐山への眺望を阻害しない」ことが景観面の課題となった。

 

 

 

 渡月橋上流の左岸側は治水上の課題を抱えていた。桂川沿いの道路はほとんどの区間で計画高水位を下回る。整備前もおおむね計画高水位の高さのパラペットはあったが、毎年のように浸水していた。国交省は河道内の堆積土砂や渡月橋の下流側の固定堰を撤去するといった緊急的な治水対策を講じたが、18年7月の豪雨で道路が冠水するなど、

 

 

抜本的な解決には至らなかった。

 

 

 

 

2018年7月豪雨時の様子。渡月橋上流の左岸側の道路が冠水した(写真:国土交通省淀川河川事務所)

2018年7月豪雨時の様子。

 

渡月橋上流の左岸側の道路が冠水した

 

(写真:国土交通省淀川河川事務所