いくら工場ができても…」有名企業が相次ぎ進出しても、止まらない地方学生の流出
「大きな(産業の)エンジンがない中でビッグネームと組んで地場企業が力を付けるのは非常に大事だ」。産学官のトップが顔をそろえ、地域活性化を議論した2月の「長崎サミット」。世界的な海運企業と長崎県が協定を結んだことへの発言が相次ぎ、田上富久長崎市長もこう期待感をにじませた。
長崎県内には有名企業の進出が相次ぐ。
京セラ(京都市)は先端半導体の部品を製造するため、諫早市の工業団地に新工場を建設すると発表。
島津製作所(同)は長崎市内に研究開発拠点を置く予定だ。
昨年秋以降に明らかになった企業進出や拡大で1400人程度の雇用が見込まれる。
就職活動中の学生から聞こえてくるのは、冷ややかな声だ。
長崎市の女子大学生(21)は
「いくら工場や研究施設が県内にできても、やりたい分野じゃない。やっぱり本社がないと選択肢には入らないし…」。
エネルギー業界やメガバンクなど、海外でのビジネスにもつながる業界への就職を希望する。
「ちゃんと地元の中小企業も視野に入れとかんばいかんよ」。
周囲からはくぎを刺されるが、
「地方企業は昔ながらの体質が残ってそう。大手の方が働き方改革も進んでいるはずだから」とぶれない。
学生側に有利な売り手市場の就職戦線が続いており、学生は強気なキャリアを描く。
大卒後の就職をきっかけに長崎を離れる若い世代は後を絶たない。
総務省の住民基本台帳人口移動報告(2020年)に基づく20~24歳の都道府県間移動によると、
長崎県は2453人の転出超過で九州最多だった。
大卒者の働く場となる受け皿が充実しているとはいえない事情が、流出を招いているようだ。
≪上場企業の本社が一つもない都道府県≫
2019年3月、
ふくおかフィナンシャルグループ(FFG、福岡市)の完全子会社になった旧十八銀行が上場廃止となり、
県内に本社を置く上場企業がない状況が続く。
ジャパネットホールディングス(佐世保市)のように
非上場の有力企業もあり、
それに続く地場企業が現れるかが鍵を握る。
県は企業誘致と並行して地域発の新興企業支援にも力を入れる。
十八親和銀と共同で起業家に最大100万円の助成や、
資金調達をサポートする事業を昨年度から開始。
参加した計11社が県内でビジネス創出を目指して活動している。
こうした起業支援は他にもあり、
今後の制度活用を検討する人も。
起業を志してサラリーマンを辞めた長崎市の男性(29)は
教育系サービス業の立ち上げを構想中だ。
「いちかばちかの賭けのようなものだけど、可能性に懸けたい」と目を輝かせる。
(布谷真基)
西日本新聞社
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