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中国、スパイの定義を拡大へ…北京の外交官「運用は当局の判断次第」
【北京=比嘉清太】
中国の習近平(シージンピン)政権はスパイ行為の摘発強化に向け、2014年施行の「反スパイ法」の改正作業を進めている。スパイ行為の定義を現行法よりも拡大するのが柱だ。規定は曖昧で、恣意(しい)的な運用で外国企業の活動などへの影響がさらに強まりかねないとの懸念が出ている。
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同法の改正は初めて。全国人民代表大会(国会)常務委員会で、改正法案が今年前半にも可決される見通しだ。改正法案では、スパイ行為の定義について、現行法にある国家機密の提供に加え、「その他の国家の安全や利益にかかわる文献やデータ、資料、物品」の窃取や探りを入れる行為、買収などを盛り込んだ。「国家の安全や利益」について詳しい説明はない。
北京の外交官は「運用は当局の判断次第となり、外国企業の駐在員らは萎縮(いしゅく)しかねない」と指摘する。
重要な情報インフラ施設のサイバーセキュリティーの脆弱(ぜいじゃく)性に関する情報を提供することもスパイ行為に挙げた。サイバー攻撃への危機感があるとみられる。
摘発機関である国家安全当局の権限も強まる。スパイ行為の疑いがある人への手荷物検査が可能となり、「国家の安全」に危害を加える可能性がある国民の出国を禁じることができる。
陳一新(チェンイーシン)国家安全相は習国家主席に近く、前任の陳文清(チェンウェンチン)氏は昨秋、共産党政治局員に昇格し、司法・警察部門を統括する。新旧の国家安全相の重用は「国家の安全」を最重視する政権の姿勢の表れだ。同法施行以後、スパイ行為を行ったなどとして、少なくとも日本人17人の拘束が判明している。法改正後、その数はさらに増える可能性がある。
「国家の安全」外資誘致よりも重視…神田外語大・興梠一郎教授(現代中国論)
習近平政権は、民主主義の価値観流入や重要データの流出などあらゆる脅威を除去しようとしている。「国家の安全」を外資誘致よりも上位に位置づけており、反スパイ法の改正や相次ぐ邦人の拘束はそうした姿勢の表れだろう
法改正により、スパイ行為として認定される範囲は極めて広くなりかねない。以前は容易に入手できた古書などでも、共産党にとって触れられたくない歴史に関する内容であれば、研究者が国外に持ち出す際に問題視されることは十分あり得る。農村でのフィールドワークにもリスクがある。
日本側の働きかけでアステラス製薬社員が解放されたとしても、駐在員らの拘束は今後も起こりうる。それでも中国から撤退できまいと、中国側が外国企業の足元を見ている部分もある。
日本企業には社員の安全を守るための対策を考える責任がある。オンライン会議を活用することで、中国が管理を強めるデータを社員が国外に持ち出さなくてもすむようにしたり、日本人社員が駐在しなくてもビジネスができる仕組みを整えたりすることが考えられる。(中国総局 比嘉清太
中国、スパイの定義を拡大へ…北京の外交官「運用は当局の判断次第」(読売新聞オンライン) - Yahoo!ニュース