習近平とプーチンの「兄弟関係」が逆転...兄が頼りの弟分は「おぼつかない足取りで」付き従うのみ

ニューズウィーク日本版

<戦争で疲弊したロシアがかつての弟分に支援を仰ぐ。社会主義時代の兄貴分を今も支える中国の狙い>

モスクワでの会談後、握手するプーチンと習近平(3月21日) MIKHAIL TERESHCHENKOーPOOLーSPUTNIKーREUTERS

 

 

 

 

時は1949年12月半ばのこと。ソ連の国営ラジオ局が新しい曲を流した。題して「モスクワ・北京」。建国まもない中国から初めてモスクワにやって来た毛沢東主席を歓迎する勇ましい歌で、「ロシア人と中国人は永遠に兄弟」という詞で始まっていた。

 

 

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社会主義国同士の熱き連帯というわけで、もちろんソ連が兄貴分。生まれたばかりの中華人民共和国は、長きにわたる抗日戦とその後の国共内戦で疲弊し切っていた。だからソ連の援助にすがりたかった。しかし「弟分」とされたことには怒りを覚えた。そのせいもあって、両国は後に別々の道を歩むことになる。 あれから約75年、この3月20日には中国の習近平(シー・チンピン)国家主席がモスクワを訪れ、翌21日にロシア(旧ソ連)のウラジーミル・プーチン大統領と会談したが、既に両国の力関係は逆転していた。今は中国こそが「大兄」で、ロシアは中国にすがる側だ。 世界の超大国(経済力では世界第2位)になった中国と、ウクライナに仕掛けた戦争のせいで疲弊し、孤立したロシア。どちらが上かは明らかで、ロシアは経済面だけでなく、技術面、外交面でも今まで以上に中国に頼らざるを得ない。ロシアの貿易統計を信じるなら、今年1~2月に中国からロシアへの輸出額は20%近く伸びて約150億ドル、中国のロシアからの輸入額は31%以上伸びて186億5000万ドルに。2月にはモスクワの証券取引所で、人民元が米ドルを抜いて月間最大の取引通貨となった。 一方で中国は、ロシアからの原油購入量を激増させた。今年1~2月の実績は前年同期比でほぼ24%増。おかげでロシアはサウジアラビアを抜いて、中国への最大の原油供給国となった。だが中国はロシアの10倍以上の経済規模を誇り、近代的な軍備を持ち、技術力でも外交力でも優位に立つ。両国間の勝者が中国であることは明白だ。 ただし、ロシアを中国の属国と呼ぶのはまだ早い。ロシアは依然として核兵器大国であり、化石燃料と天然資源、食糧などの主要な輸出国だ。米欧主導の経済制裁で傷ついたとはいえ、ロシア経済が破綻する気配はない。 中国はアメリカとの熾烈な競争や紛争のリスクに備えねばならず、戦略的にロシアの存在を必要としている。両国間には長い陸上の国境線があるが、もう何十年も紛争は起きていない。だからこそ安心して、それぞれに東西の敵と対峙できる。 ロシアが縮み、孤立を深める一方で、中国の存在感が増しているのは事実だが、今の中国はアメリカを敵に回し、欧州諸国を幻滅させてしまい、おまけに国内経済の見通しは暗い。この状況でアジアの覇者となるためにはロシアを味方につけておく必要がある

 

 

 

<和平案を示す真の理由>

今回の首脳会談の最大の議題はウクライナだった。習が用意した和平提案は12項目に及ぶが、泥沼の戦闘に終止符を打つような具体策は皆無だ。中国が超大国としての責任を果たし、平和を愛する国であることを世界に(たとえ口先だけでも)見せつけること。それだけが目的だった。習が和平を提案し、それをロシアが支持すれば、中国には紛争解決能力があると世界にアピールできる。 キーワードは「見せつける」だ。誰に見せつけるのか。まずは、中国にとって第2位の貿易相手でありながらロシアとの友好関係に疑いの目を向けるEUに。次にはロシアとアメリカのどちらにつくでもなく、しかしウクライナ戦争が自国に及ぼす経済的影響を憂えているアジアやアフリカの新興国・途上国にだ。 習の和平案をプーチンが支持したのは、中国にとっての勝利だ。しかし、それで両国が和平に向けて動く気配はない。ロシアは(そしてもちろんウクライナ側も)春から夏にかけて、一段の軍事攻勢をかける構えであり、和平など眼中にない。 そもそも、ロシアが負けたら中国は困る。敗戦による混乱でプーチン政権が崩壊でもすれば、次には別の、もはや中国に頼ろうとしない政権が出現しかねないからだ。 しかし、ロシアの残忍な侵略の共犯者扱いされるのも困る。だから現実にはロシアを(経済的にも軍事的にも)支援しつつ、口先では世界に向けて穏健かつ中立的なメッセージを発信するしかない。 習の訪ロには、ロシアの世界的孤立から漁夫の利を得る狙いもあった。ロシアが欧米による制裁で最も深刻な影響を受けている分野(電子機器、電気通信、機械、自動車など)で、助けてやれるのは中国だけ。その優位性を首脳会談で確認したかった。 中国はまた、ロシア産の化石燃料や食糧などを割安な価格で買えることになった。一方のロシアは、中国の旺盛な需要に頼るしかない。 今回の訪ロで、中国にロシア産天然ガスを運ぶ新たなパイプラインの契約締結に向けた合意ができた。農産物貿易の拡大、北極海航路に関する協力の推進、アフリカやアジア、中南米の国々との貿易における人民元の使用拡大などでも合意が成立した。 プーチンが得たものも大きい。孤立を深めるロシアに対して中国の提供するライフラインが確固たるものであり、さらなる拡大も可能なことが保証された。 プーチンはウクライナ戦争に関して、政治・外交的な支援だけでなく技術・軍事面の支援も求めている。前者に関しては、習の訪ロ前から既定路線だ。モスクワでの最初の記者会見で、プーチン自身はまだ来年の大統領選への出馬を表明していないにもかかわらず、習はプーチンの大統領続投を支持するとまで語った

 

 

 

 

<プーチンと習の思惑は完全には一致していない>

しかし後者については問題がある。平和の使者を演じたい中国が、今の段階でロシアへの軍事支援を急増させるわけにはいかない(ロシアの軍事的敗北やプーチン政権の崩壊が迫れば話は別だが)。ただしロシアが天然ガス価格のさらなる割引などを提案してくれば、軍民両用の技術で支援の拡大は可能だろう。 ウクライナに関して、プーチンと習の思惑は完全には一致していない。そもそもプーチンには、まだ停戦の意思などない。それにウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が、占領地域の現状を認めた上で停戦交渉に応じるとも思えない。 いずれにせよ、中国とロシアはますます接近している。そしてウクライナ戦争が、ロシアと中国の戦略的・経済的補完関係を加速させる最大の要因となっている。 今のロシアは中国に依存せざるを得ない。中国にとっては市場を拡大し、死活的に重要なエネルギーを確保し、ロシアを自国の戦略的裏庭として利用するチャンスであり、軍事面でも政治経済面でも、ロシアの悲惨な失態から教訓を学ぶ好機でもある。 <アメリカに対抗する準備> ロシアと中国は、アメリカ主導の世界秩序に対抗することで足並みをそろえている。両国とも戦略的自立を掲げているが、欧州やアジアで同盟関係や抑止戦略を強化するアメリカへの対抗上、防衛協力を深める可能性もある。 だが、そこでの主役は中国だ。国内経済は減速し、国際的なイメージも悪化しているが、中国が目指すのは超大国として世界を仕切ることだ。今年3月10日にも、中国はサウジアラビアとイランの国交正常化を仲介するというシンボリックな外交上の勝利を収め、「グローバル安全保障イニシアティブ」を提唱し、とりわけ欧州に対して積極的な外交攻勢をかけている。 西側から見れば、全てが無益で不誠実な行為に見えるかもしれないが、中国にとっては、アメリカとの長期にわたる競争のための真剣な準備だ。だから中国の和平提案を頭から否定するのは間違いだ。自国のイメージアップが目的とはいえ、中国はウクライナ戦争の解決に関心を持ち続けており、有用な役割を果たす可能性がある。 往年の「モスクワ・北京」という曲には、「見よ偉大なるソ連邦、共に歩むは中華の国」という一節がある。むろん、ロシア人には何の悪気もなかっただろう。しかし中国の人は、そこにどんな相手も臣下と見なす帝国ロシアの不遜さを見た。中国共産党の幹部たちも、これに腹を立てた。 この不平等な関係性、中国を服従させようとするソ連政府の態度が一因となって、両国間の兄弟愛は1960年代後半に急速に冷え込み、互いに別の道を歩むことになった。 そして関係の逆転した2023年の春、国際政治の舞台を堂々と歩む中国に、兄が頼りの弟分は付き従うのみだ。おぼつかない足取りで。 From Foreign Policy Magazine

フィリップ・イワノフ(米ジョージタウン大学客員研究員

 

 

 

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