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乃が美」と「いきなり!ステーキ」の共通点は何か 両社がハマった沼
「贅沢(ぜいたく)品」を扱っている有名店がそろって“泥沼”にハマっている。 まず、2斤972円という「高級生食パン」で知られる「乃が美」のフランチャイズ加盟店の多くが赤字に陥って閉店が相次いでいると、『週刊文春』が報じている。
さらに、ステーキを立ち食いスタイルで提供している「いきなり!ステーキ」も業績が悪化して130店舗を閉店したが、まだ苦しい戦いが続いているという。
運営するペッパーフードサービスの
2022年12月期は5億300万円の経常損失。
大量閉店をしても赤字から脱却できていないのだ。
ご存じのように「乃が美」も「いきなり!ステーキ」も数年前までは、飛ぶ鳥を落とす勢いで店舗数を広げていた。
マスコミにもチヤホヤされて、
「高級食パンブームの火付け役」
「いきなり!ステーキの快進撃」
なんて持ち上げられていたのを覚えている方も多いはずだ。
しかし、残念ながら今はその面影すらない。
ネットやSNSでも
「高いだけ」
「一度食べればいい」
など辛辣(しんらつ)な意見が並ぶ。
贅沢品を扱っている両社は、なぜこんなにも苦戦しているのか。
最初は物珍しさで行列ができたが、飽きられてしまった。
やはり値段の高さが受け入れられなかったなどさまざまな要素が考えられるが、個人的には両社に共通しているあの問題が大きいのではないかと考えている。
それは「全国制覇」だ。
「乃が美」と「いきなり!ステーキ」の共通点
実は「乃が美」も「いきなり!ステーキ」も全国47都道府県すべてに出店するということに、並々ならぬ意欲を見せていたという共通点がある。
例えば、
「乃が美」は全国制覇がよほど嬉しかったのか、Webサイトでこのように誇らしげに紹介している。
『高級「生」食パン専門店『乃が美』は、
創業6年8ヶ月で、
全国47都道府県制覇、
173店舗の出店を達成しました』
「いきなり!ステーキ」もWebサイトで
『「祝!全都道府県出店」
秋田県オープン!363号店「秋田東通店」』(18年11月30日)
として以下のように祝っている。
『これにより、いきなり!ステーキは日本全国の都道府県に出店を果たしました。
オープンセレモニーにはタイミングよく!ユネスコ無形文化遺産に登録されたばかりの「なまはげ」さんも登場していただき、盛大に行われました!』
このように聞くと、
「フランチャイズ展開してるんだから全国制覇を目指して当然だろ」と感じるかもしれないが、贅沢品を扱う店がこれをやってしまうのは自殺行為だと言わざるを得ない。
「ブランド価値」がただ下がりになってしまうからだ。
高級食パンもステーキも基本的には庶民には縁遠いものだ。
それでも給料日だからとか、たまには贅沢をしたいとかいう思いがあって利用する。
普段はスーパーの食パンを買っている人も、手土産などで「乃が美」を利用する。
消費者はこれらの贅沢品に「特別感」を求めていると言ってもいい。
しかし、全国制覇を掲げてあちこちに出店をするようになって、
「最近よく見るなあ」
「駅前にできるらしいよ」という認識が広がると、
この特別感はどんどん薄れていく。
これがコンビニや牛丼、コメダ珈琲のような日常感のあるチェーン店であれば
「便利になっていいね」となるが、
高級食パンやステーキの場合、
贅沢品なので利便性はそれほど感じない。
むしろ、店が乱立するので「ありがたみ」が消えていく。
つまり、贅沢品が全国制覇を掲げて大量に出店するということは、
贅沢品の最大の持ち味である特別感をどんどん弱めてしまう。
その結果、「最近よく見かける高い店」というマイナスのブランディングをしてしまうことになるのだ。
「乃が美」と「いきなり!ステーキ」はまさしくこの悪循環に陥ってしまっているのだ
「最近よく見かける高い店」という認知
街のいたるところに看板を見かけて、ロードサイドだけではなく、商業施設のフードコートなどにも出店するようになると、「贅沢品なのになんか安っぽいな」という印象を消費者に与えてしまう。そうなると当然、客足も落ち込むのでフランチャイズは苦戦する。 しかし、高級食パンやステーキという単価が高いものを扱っているので安売りもできない。そうなると、FC本部としては、売り上げ確保とさらなる成長を目指すということで、さらに出店を加速していかなければいけないので、「最近よく見かける高い店」という認知がどんどん広まってしまうのだ。 しかも、この悪循環が恐ろしいところは、拡大路線から方針転換して、規模を縮小してもブランドを回復しないことだ。「最近よく見かける高い店」が大量閉店すると、「やっぱり高い価格に見合うものじゃなかったんだ」とネガティブな印象を受けるので、消費者の足はさらに遠いてしまう。
厳しい言い方だが、高級食パンとステーキという贅沢品であるにもかかわらず、全国制覇を掲げた段階で、このような負のスパイラルに巻き込まれることはもう決まっていたのだ。
「事業というものは当然、成長していかなければいけないのだから、外食や小売が拡大路線を目指すのはしょうがないのでは」と思うかもしれない。
だが、そのような考え方は「オワコン」だと言わざるを得ない。
今のコンビニや外食チェーンが「全国制覇するのが当たり前」と言わんばかりに拡大路線をはじめたのは、1970年代である。
当時、日本の人口はまだ右肩上がりで増えていたので、店の数を増やせば増やすほど成長できた。同一商圏内で大量出店してロイヤリティを高める「ドミナント戦略」を進める企業も増えた。
「小僧寿し」も全国制覇を失敗
その代表がセブン-イレブンだ。
1974年、東京・江東区に一号店を出したセブン-イレブンはその後、急速に全国へ広がっていくのはご存じの通りだ。 しかし、このような70年代に確立した全国制覇型ビジネスモデルは、人口増が成長の前提なので、人口減に転じていくと逆回転してジリ貧になっていく。
これが贅沢品の場合、
さらに悲惨な末路が待っている。
分かりやすいのが、「小僧寿し」だ。 『なぜ「小僧寿し」は危機に陥ったのか 犯人は“昭和のビジネスモデル”』という記事の中で詳しく解説をしたが、
小僧寿しは高度経済成長の波に乗って拡大路線をひた走り、
1979年には売上高531億円をあげ外食産業日本一の規模に輝くと、
87年には、なんと全国で2300店舗を展開した。
当時、まだ寿司は贅沢品だったので、それを手頃な値段で持ち帰れるという小僧寿しは、ちょっとした「ブーム」になったのである。
だが、先ほど申し上げた悪循環にハマる。
それだけ店があふれたらブランド価値は急速に低下する。
そこに加えて、安価な値段で寿司を提供する回転寿司チェーンも台頭してきて、
スーパーのパック寿司も売れるようになると、小僧寿しは「よく見かける高い店」に成り下がってしまい結果、大量閉店に追い込まれてしまう。
だが、店を減らしたくらいでは、この悪循環はなかなか抜け出せない。
かくして小僧寿しは近年まで苦戦が続き、18年12月期決算ではついに債務超過に陥ってしまうのである
かつての勢いを取り戻せるか
外食や小売など実店舗を持つ企業は拡大路線へ流れがちだ。当初は「ブランド価値を維持するために、あまり店は増やしません」「信頼関係を築いた限られたオーナーとのみ契約を締結します」などと言うが、気がつくと全国に店があふれかえっている。「拡大をすることが成長だ」と考えるからだ。 しかし、そのような数を増やしていくビジネスモデルは、人口が減少していくこの日本ではどこかの規模で限界になる。しかも、高価格帯でそれをやるとブランド価値も地に落ちるのでダブルパンチで苦戦する。 では、人口も減って賃金も上がっていないこの国で、贅沢品を売っていくにはどうすればいいのかというと、店の「数」ではなく「質」を高めて勝負していくしかない。つまり、コンビニや牛丼チェーンなどと同じ土俵に立つのではなく、店舗数は最低限に抑えつつブランド価値を高めて、富裕層や海外市場に狙いを定めていくしかないのだ。 「乃が美」も「いきなり!ステーキ」もネットやSNSでは「高い」と叩かれているが、実はそれは30年も賃金が上がっていない「安いニッポン」だからだ。 ここまで苦戦するとなかなか厳しいが、両社には海外展開やブランド価値向上に力を入れるなどして、ぜひかつての勢いを取り戻していただきたい。 (窪田順生)
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