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「民間には知見がある」は幻想
マッキンゼーのような「コンサル企業への依存」が政府を劣化させた─経済学者マリアナ・マッツカートが警鐘
フィナンシャル・タイムズ(英国)
Text by Henry Mance
欧米でも日本同様、政府が行政サービスを有名コンサル企業に肩代わりさせて莫大な税金を垂れ流していることが、問題になっている。これを真っ向から批判する英経済学者マリアナ・マッツカートは、コンサル企業は専門性に乏しく、彼らを起用することが政府の能力開発を阻害していると警告する。
困難に直面した組織は、専門技能と新しいアイデアを持つ“外部者”を雇うものだ。彼らの知能は高く、やる気にあふれている。いたって単純な解決策だ。
その雇用コストは法外な高さだが、長く留まるわけではないし、業務効率が改善すれば元はとれる。
それに、“彼ら”に仕事を頼んでクビになった者はいない──だが、現実はそう単純ではない
“彼ら”はマッキンゼー、ベイン、ボストン・コンサルティング・グループのような有名コンサルティング企業からやって来る。
だが実際のところ、こうした企業は何を知っているのだろうか? コンサルが提案するアイデアは、クライアントがすでに思いついていているようなものが大半だと批判する人もいる。
医療用鎮痛剤オピオイドの依存症の問題で、製薬会社の販促に協力したマッキンゼーの事例のように、コンサルの存在が最悪の惨事を招いたこともある。しかも、短期プロジェクトのために雇用されたはずなのに、彼らはなかなか出て行かない
マリアナ・マッツカート(54)が論争を恐れるような女性だったら、隙のない相手との議論には加わらず、静観を決め込んでいたかもしれない。だが、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)で経済学の教授を務める彼女は、持ち前の早口で知的な闘争に参加する。
政府が本来持っていた革新性について話すマッツカート
マッツカートは過去10年、経済大国としての米国の地位を取り戻すため、孤独な戦いを続けてきた。ロージー・コリントンと共同執筆した新著『大いなる陰謀』(未邦訳)では、コンサル企業が景気の浮揚策を講じる政府の仕事を妨害していると論じる。
本紙の取材時、マッツカートは自身の事務所で、ダイエットコークを片手にこう語る。
「私が危機感を覚えたのは、英国がEU離脱の準備を始めたときです。当時、英国政府内には多くのコンサル企業が出入りしていましたから」
英国政府は2019~20年にかけて、国家戦略を含む各分野のコンサルタントに10億ポンド(約1629億円)近くの国費を支出し、一部の議員はサジを投げた。マッツカートとコリントンは批判の対象をさらに広げ、デロイトグループなどの4大会計事務所や、国家のさまざまな中核機能を請け負う外注企業も槍玉に挙げる。
新著の『大いなる陰謀』というタイトルは、彼らの信用詐欺的な手口を指している。コンサルや外注先の企業には、自分たちが主張するほど専門性はなく、見かけ以上に高コストで、長期的に見れば公共セクター自身の能力開発を阻害しているとマッツカートは訴える。