「結婚より子どもが欲しい」私がシングルマザーを選んだ理由 #女性の選択
生まれた長女の小さな足に手を添えるカオリさん。「頑張って働き、この子を育てていきたい」と語る=本人提供
結婚はしないが、子どもを持ちたい――。さまざまな理由から、あえて未婚のまま妊娠し、母となることを選ぶ女性たちがいる。日本では長年、「結婚」と「出産」がセットで語られることが普通だった。経済的に自立した女性が増えたことなどを背景に、「新しい家族の形」が生まれている。
【大平明日香】
見えぬ結婚の良さ 未婚に「後悔ない」
地方都市に住むカオリさん(39)=仮名=は2022年、未婚のまま長女を出産した。「隣で眠っている姿を見ると幸せを感じます」。抱っこした長女の頭をそっとなでた。
「未婚の母」になることを考え始めたのは、東京都内の会社に勤めていた36歳の頃。
「男性とつき合っていた時期もあるし、『絶対に結婚したくない』と考えているわけでもない。でも、今は相手もいないし、年齢的には先に子どもを作ることを考えた方がいいんじゃないかと思って」
インターネットで検索すると、自らの意思で結婚せずに妊娠、出産する女性が「選択的シングルマザー」と呼ばれていると知った。
SNSで「夫が育児を手伝ってくれない」などの投稿を目にすると、結婚の良さもあまり感じられなくなった。
カオリさんの指を握りしめる長女。カオリさんは「決断に後悔はありません」という=本人提供
20年夏ごろから、精子提供してくれる男性をネットで探し始めた。メールでのやりとりや面談を重ね、感染症の検査もしてもらったうえで、「この人なら信頼できる」と思える30代男性に提供を依頼した。
調べてみると、自分も男性も不妊症だったことが分かり、体外受精で妊娠した。
都内から、今住んでいる地方都市にある実家に戻って出産した。当初、両親は未婚での出産に驚きを隠さなかったが、次第に娘の選択を理解し、初孫の誕生を喜んでくれた。
子どもを預ける保育園も決まり、4月からは新しい職場で正社員として働く。「パートナーに気を使うことなく、育児に専念できる。この決断に全く後悔はしていません。頑張って働き、この子を育てていきたい」
「日本はサポートない」 感じる海外との温度差
都内の外資系企業に勤めるミサキさん(41)は、海外の精子バンクを利用して妊娠し、5月に出産を予定している
最初のきっかけはコロナ禍だった。毎月のようにあった海外出張や旅行がなくなり、国内にいる時間が増えた。「絶対に子どもが欲しい」と以前から思っていたわけではない。「40代で欲しくなった時に、選択肢の一つになれば」というくらいの気持ちで、30代のときに卵子凍結をした。
40歳で迎えた22年春。出産できる現実的な年齢や、同世代の友人らが「子どもはかけがえのないもの」と語る姿などを見て、気持ちが固まった。「決めた。あとは行動するのみ」。未婚のまま、凍結した卵子を使った体外受精で妊娠した。
外国籍も多い職場の同僚らに経緯を話すと、皆が祝福し支持してくれた。留学や仕事で住んでいた海外では、LGBTQなど性的少数者のカップルや専業主夫のパートナーがいる女性など、多様な家族が幸せそうに暮らすのを見てきた。
「法律婚だから、両親がそろっているからといって、必ずしも幸せになれるとは限らない。それなのに、日本では未婚のまま子どもを持ちたい女性を社会としてサポートする雰囲気も制度もなく、従来の形にこだわっている。多様な家族が生きやすい社会になってほしい」
増える未婚の母 第三者の精子提供にはリスクも
結婚してから子どもを産むことが「前提」とされてきた日本。だが、未婚の母は少しずつ増えている。
日本で20年に未婚女性から生まれた子ども(婚外子)の割合は全体の2・4%(2万40人)で、フランス62・2%、米国40・5%、ドイツ33・1%など諸外国に比べて低い(OECD調べ)。
一方、厚生労働省の「全国ひとり親世帯等調査」によると、母子世帯における未婚の母の割合は03年の5・8%から少しずつ増え、16年は8・7%、21年には10・8%(12万8755世帯)となっている。
ただ、特定のパートナーがいながら未婚の母を選ぶ女性もいるとみられ、カオリさんやミサキさんのようなケースがどれだけ含まれるかは不明だ。
第三者からの精子提供について、日本産科婦人科学会のガイドラインは「夫が無精子症などで、法的に結婚している夫婦」に限り、人工授精のみ認めている
このため、未婚のまま子どもを産みたい女性の中には、SNSなどを介して精子提供者と直接連絡を取り合い、シリンジ(針のない注射器のような器具)に入れてもらった精子を体内に注入するなどの手段を選ぶ人もいる。
ただ、これは感染症や金銭トラブルなどのリスクと隣り合わせだ。まれに独身女性の不妊治療に応じる医療機関もあるとされるが、「何件も電話をかけて探すしかない」(カオリさん)という。
ミサキさんも利用した海外最大手の精子バンク「クリオス・インターナショナル」(本社・デンマーク)は、19年に日本語対応の窓口を設け、22年10月までに500人超の女性が精子提供を受けた。
このうち246人が回答した同社の調査によると、精子提供を受けた内訳は独身女性が52%、婚姻夫婦が35%、女性同士のカップルが13%だった。同社は遺伝性疾患などの検査をパスした、主にデンマーク人の男性ドナーの精子を凍結保管しており、ドナーの身元の開示・非開示を選べる。
同社によると、デンマークでは独身女性や女性カップルに対する精子提供が認められている。年齢制限はあるが、第1子ならドナー精子の代金と不妊治療代が無償だという。
「デンマークでは離婚が珍しくないので、シングルマザーや、その子どもへの偏見は少ない。大学まで学費が無償で、家庭と仕事を両立しやすい環境も整備されるなど、家庭間での格差が広がらないための支援策もある」(同社)
未婚の母も「生き方の一つ」 子どもの権利など議論必要
日本では現在、第三者の精子・卵子提供による生殖補助医療(体外受精など)に対する法規制を検討中で、
「法律婚の夫婦に限定する」という案が出ている。
第三者による精子・卵子を用いた生殖補助医療に関する法規制の骨子案
クリオスの日本責任者の伊藤ひろみさんは「独身女性への精子提供が禁止されれば、SNSでの個人間取引がますます盛んになり、女性がリスクにさらされる」と危惧する。
法規制を巡る議論では、第三者の精子・卵子提供で生まれた子どもが自分の出自を知る権利についても議論されている。
伊藤さんは
「子どもの福祉を考えれば、精子・卵子を提供した人に関する情報を知ることができるよう保障するのが望ましい」
と語る
今回取材に応じてくれたカオリさん、ミサキさんは2人とも、いずれ子どもに自身の選択について説明するつもりだという。
こうした現状を専門家はどう見ているのか。結婚や家族について研究している兵庫教育大大学院の永田夏来准教授(家族社会学)は、未婚での出産に関心が高まっている背景を次のように分析する。
「ここ10~20年で女性が経済的に自立しやすくなり、『子ども1人なら自分で育てられる』という見通しを持つ人も出てきたことが大きいのでは。夫婦別姓が認められていないために名字が変わるなど、結婚に伴い多くの女性がさまざまな変化を強いられる。こうした現状の中で選び取った生き方の一つではないか」
現在、日本では結婚した夫婦の3組に1組が離婚している現実も踏まえ、「『血のつながった父親が不在だから子どもは不幸だ』というような前提を問い直す時期に来ている」という。
しかし、永田准教授は「母親の選択の自由を優先して制度を整えることには課題も多い」と指摘する。精子提供を巡るさまざまなリスクや子どもの権利などについて、幅広い議論が必要だと訴えている。 ※この記事は、毎日新聞とYahoo!ニュースとの共同連携企画です
「結婚より子どもが欲しい」私がシングルマザーを選んだ理由 #女性の選択(毎日新聞) - Yahoo!ニュース