人類最高の頭脳、エマニュエル・トッドが描く悲観的な未来予測とは?民主主義を破壊するのは「新たな階層化」と「老人支配」だった
2023/02/09 17:00
欧米では特に、「民主主義」という言葉をまだ使っています。「自由民主主義」という言葉もそうです。その言葉に慣れているからです。しかし、私たちはもはやその外側にいるということに気づいていません。
自由民主主義では、自由があることになっています。選挙があって、報道の自由、自由な政府があるはずです。そして、市民間に一定の平等があるはずです。
私たちはまだ、今でも民主主義の制度を持っていると思います。しかし、もはや民主主義の習律も精神も持ってはいません。
私はとりわけ、民主主義のリーダーを自任する米国について考えています。
不平等の度合いはどうでしょうか。
米国の社会的不平等は大変なことになっています。
貧しい人々の平均寿命は短くなっています。
政治制度でさえ、何らかの形で不正に操作されています。
なぜなら、制度を運営するにはカネがあまりに重要になってしまっているからです。
それらはすべて一種のパロディと言えます
おそらく国にもよりますが、おそらく30%の人びとが何らかの高等教育を受けています。これに対して、20~30%の人々は基本的な読み書きができる程度、つまり、初等教育のレベルで止まっています。
この教育の階層化は、不平等の感覚を伴います。社会構造の最上部と底辺では、人々は同じではない、という感覚です。
私は「非平等主義的潜在意識」と呼んでいます。民主主義の基本的価値の正反対にあります。
さらに、それは共同体の感覚も破壊します。社会は分断されます。私たちがヨーロッパで経験したことであり、米国でも、ほとんどの国でも当てはまると思います。中国はまだ到達していない段階ですが、いずれこの段階に到達するでしょう。
パンデミックで50歳以上の人々、特に80歳以上の高齢者が高い比率で亡くなりました。
彼らを保護する必要がありました。私がこうしてコロナ禍を生き延びているという事実に文句を言っているのではありませんよ。
しかし、ロックダウンは若い人たちの生活を破壊したのです。これは民主主義の消滅におけるもう一つの要素なのです。
■民主主義は今後も破壊され続ける
――あなたが指摘する
民主主義の後退あるいは破壊は一時的なものなのでしょうか、
それとも今後も続くものなのでしょうか。
続きます。間違いありません。
2010年代後半で私が衝撃を受けたのは、あちこちで、いわゆるポピュリストの運動が起きたことです。米国ではトランプのような人が支持され、英国ではブレグジットを求めた人たちがいます。
2022年秋も、
社会民主主義のスウェーデンの選挙で、いわゆる極右がかなりの得票率を得ました。
イタリアでも極右の伸長を目の当たりにしました。
これらすべての現象は、ある種の民主主義に戻ろうとしているとも解釈できます。
もちろん、エスタブリッシュメントの人たちは、民主主義に戻ろうとしているなんて言ってはいませんね。
私は知的活動の観点から言えばエスタブリッシュメントかもしれませんが、
彼らのようなエスタブリッシュメントではありません。
私は、これらの極端な右翼運動を、
基本的に反民主主義とは見なしていません。
むしろ逆です。
私は民主主義について、合理的でバランスの取れた見方をしていると思います。
民主主義は平等で、それは国民共同体の中での平等です。
しばしば否定されますが、民主主義の出現には、排外的な要素が常にあります
米国では市民の統合は実現していません。トランプ支持者と民主党支持者の間で、まったく合意はありません。
新たな戦いが出てきただけです。
エリート、
そして高学歴層は低教育層をいっそう軽蔑するという経験をし、
そして何も生まれていません。
これが教育の階層化がもたらす問題です。
さて、私は、我々のシステムをリベラルな寡頭制だと申しました。しかし、この寡頭制はさらに、断片化の危険にさらされています。
次のような移行を思い浮かべられるでしょう。
リベラルな民主主義から、
リベラルな寡頭制、
そして何もなし。
あるいは分解ということです。
こんな話をしてしまった。
自分でも、最近はちょっと悲観的になっている、と思っています。
エマニュエル・トッド
歴史家、文化人類学者、人口学者。
1951年フランス生まれ。家族制度や識字率、出生率に基づき現代政治や社会を分析し、ソ連崩壊、米国の金融危機、アラブの春、英国EU離脱などを予言。主な著書に『グローバリズム以後』(朝日新聞出版)、『帝国以後』『経済幻想』(藤原書店)、『我々はどこから来て、今どこにいるのか?』『第三次世界大戦はもう始まっている』(文藝春秋)など