総まとめ ー 生産性を上げる政策とは

これまで3つのメモで「生産性を上げるにはどうすればよいか」について、多数の学術論文を整理俯瞰している森川正之氏の「生産性 誤解と真実」からピックアップしてきました。まとめてみます。

もっとも重要な2つの政策

  • イノベーション・・・研究開発への投資
  • 人的投資・・・教育、人への投資
    • 教師の待遇改善(決定的に重要なのは教師の質)
      • 給与水準の引き上げ
      • 日本の場合は、教師の労働時間(業務量)削減が第一
    • 恵まれない子供への就学前の投資
    • 教育バウチャー(目的を限定して個人に支給する補助金)
    • (参考:教員資格を厳格化することは無意味)
    • (参考:学校のクラス規模縮小はプラスともマイナスともいえない)

労働環境の改善

  • 上司の質を上げる(どうやって?という問題はあるが)
  • 長時間労働はほどほどに(年間労働時間が2,000~2,400時間までなら生産性はプラス、それ以上になるとマイナス)
  • 休暇は確実に(仕事スケジュールの不確実性を減らすことが労働時間の短縮よりはるかに重要)
  • 解雇規制・非正規労働者の割合はバランスが重要
  • 本社機能の強化(本社機能部門が大きい企業ほど生産性が高い)
  • ハイテク産業におけるダイバーシティ(性別・国籍)推進
  • コンプライアンスコストは総費用の2~3%にも上っているので、費用対効果に基づく検証が必要
  • (参考:最低賃金引き上げについての研究は多いが、現時点では確定的なことはいえない)

生産性向上「だけ」を考えた場合の選択肢 ※他の観点からの検討も必要

  • 法人税・所得税を下げる
  • 消費税・財産税を上げる
  • 都市に人口を集中させる
  • 地方都市はコンパクトシティ化し、独自の製造業があれば強化する
  • 企業は「底上げ」(一律支援)より「新陳代謝」(生産性の低い企業は市場から退出してもらう)
    • 「新陳代謝」には低金利は不利
  • 内閣交代頻度を下げる
  • 日中間の教科書問題や領土問題を最小限に留める
  • 外国人訪日客の受け入れ促進
  • (参考:日本の規制緩和はOECD諸国平均より少し進んでいる)

 

ここまでのことが、学術論文で明らかにされていたのですね(なお、同書には他にも多くの研究結果が記載されています)。

特に教育関係については、賛否の議論が激しそうな分野でもしっかり結論が出ていることに驚くとともに、「ではなぜその議論が今も続いていて、政策に影響を与えているのか」という疑問が湧いてきました。

何度も書きますが、これらを政策にどう活かすか。学術論文がすべてではありませんが、専門家が長い時間をかけて研究しさらに多くの人々の査読に耐えた研究結果を有効活用することは非常に重要ですし、それこそ「政策の生産性」も上がるはずです。ひいては政治家の実績にもつながるわけですから、誰にとってもメリットはあると思うのです。

同書によると、日本政府の経済系白書は、OECD等国際機関の白書に比べ引用文献数も少ないし、文献に占める学術論文の割合も低いそうです(日本は9~25%、国際機関は30~60%)*14

この事実も、もしかすると、生産性にもっとも影響が大きいといわれる「人的投資」に日本がお金を使ってこなかった結果なのでしょうか。その結果、日本政府と国際機関で白書を作る人材の質に差が出てきているという。

だとすると、このことも、日本が生産性向上、ひいては経済成長において負のスパイラルに陥っている例のひとつといえるのかもしれません。残念ながら。

 

日本はなぜ経済成長しないのか(4)- 生産性向上政策の総まとめ - 庭を歩いてメモをとる (yoshiteru.net)