「彼らにとっては“感情”も商品にすぎないのです」

政財界の大物を顧客に持つ高級セックスワーカーが「上流階級の夜の闇」を暴露

 

ハアレツ(イスラエル)

ハアレツ(イスラエル)

Text by Ayelett Shani

セックスワーカーには2種類いる。通りに立つ女性と、豪華な部屋で高級ウイスキーを飲みながら、金持ちと過ごす女性と──。富裕層を相手に高額の報酬を得ると言われる高級エスコート嬢は、実際にはどんな生活を送っているのか。過酷な仕事の実態や、客に対する本音をイスラエル紙が取材した

 

 

──自己紹介をお願いします

ケリーといいます。32歳です。幼い息子がひとりいます。仕事はエスコートです。

──仕事の内容を具体的に説明していただけますか?

 

 

 

セックスワーカーの女性が乗った天秤があるとしましょう。一方の天秤皿に街で体を売っている女の子がのっているとしたら、私は反対側の天秤皿にのっています。

あるとき、テルアビブの高級住宅街にあるペントハウスで、常連客と過ごしていました。私はバルコニーにいて、高級ウイスキーのグラスを手にしていました。こんなところ、いますぐ抜け出したいと思いながら。

ふと下を見ると、雨が降るなか、街路に少女たちが立っていました。私はそのとき、豪華な部屋にいたけれど、彼女たちと違いはありません。私たちは皆、トラウマを負っています。みんないろんな意味で、自分自身が嫌でしょうがないんです。

豪華な部屋でウイスキーを手にしていても、この嫌悪感はちっとも薄れません。外に出てあの少女たちを抱きしめて、声をかけたかった……いま私は上のバルコニーにいるけれど、下にいるあなたたちと一緒よ、とね。私たちは酔わされているんです。いろんなドラッグを次から次へと服用させられて。

 

 

 

 

──現実を紛らわすために、いまの仕事をしているのですね

 

 

はい、仕方がないのです。男性は、落ち込んだり、人生や子供に気をとられている女を求めていません。客と過ごす時間は、とにかく幸せそうにしていないと。「あなたと過ごす時間はいつも楽しくて、特別だ」というフリをする必要があります。笑顔を取り繕って、幸せだと演じるには、頭のなかにあるあらゆるものを削除する必要があります。自分の身に起きていることを考えたら、たちまち幸福は消えて、涙が出ます。

それでショットグラスを手にとって、頭の回線を切り替えるんです。さあ、パーティーの始まりだって。

客を怒らせるわけにはいきません。それは、お金のためだけでなく、自分の身を守るためでもあります。この仕事をしていて、素の自分でいられる人をひとりも知りません。目の前の世界を曖昧にするしかないんです。

──現実をいっさい遮断していると話す女性もいました。

私もよくそうしていますが、やっぱり助けが必要なんです。何かを少しでも考えてしまうと、ひとりではいられなくなりますから。お酒とドラッグは、思考を断ち切ってくれます。
 

──「遮断された時間」で、何を考えていますか? 

ほとんど何も。目を開ければ、ああ、もう1時間が過ぎたと気づくだけ。それが遮断の時間です。もし何か考えているとしたら、それはたいてい現実的なことです。なるべく早く切り上げるにはどうすればいいかとか、客引きにクレームを入れられないようにするにはどうしたらいいか、客をいかにして怒らせないかといったことです。そうすれば万事がうまくいくし、お金ももらえますから。あとは、どうすれば傷つかずに帰れるか、ですね。

息子の顔が頭に浮かぶときもあります。嫌な考えを頭から振り払えないときは、息子に新しいベッドを買うためだと、自分に言い聞かせるんです。
 

客は「常識的」だと思われている人たち


──どうやって客から依頼を受けるのですか?

客引きの紹介です。彼は容姿や立ち振る舞い、性格にいたるまで、すべてのエスコートを把握しています。客引きが私たちと客のあいだを取り持つんです

 

 

 

──つまり、メニューのようなものがあるのですか? 「高身長でハスキーな声のブロンドの女性を希望」とか? 

はい、連絡してきた顧客は要望を言い、客引きがそれに合う女性を紹介するんです。お望みの女性がメニューになくても、追加料金を払えば客引きが要望通りの女性を探し出します。メニューに載っている女性たちはにはそれぞれ値段がついています。
 

 


──女性たちの値段はどのようにに決められるのですか? 

決め方はいろいろで、容姿だけが理由ではありません。客のなかには、ただ女性と一緒に過ごせればいいという人もいれば、本格的なデートを楽しみたい人もいます。そういう場合は、スイートルームで2人きりになったときに甘い言葉を囁いたり、感激して失神したりする女の子が選ばれます。

──その手の客は気分を盛り上げてほしいのですね。「ガールフレンド体験」を求めているわけですね

 

 

 

 

 

ええ。自分は成功者で切れ者で、できる男だと思われたいのでしょう。

「男が金を払うとき」というフェイスブックページに、そういったことがすべて書かれています。不貞を働くイスラエル人が、セックスワーカーをランク付けしているサイトを引用したページです。

初めてそれを見たとき、なんておぞましいことをする人たちだろうと思いました。「抱きしめてほしいから、セックスワーカーを買う」と書く男性もいました。同情を引きたいでしょうが、そんな要求自体が野蛮で攻撃的です。彼らにとっては、人の感情も「商品」に過ぎないのでしょう。

おかしな話です。私の顧客は、皆、超がつくほど高学歴で、政財界の大物ばかりです。あなたの会社の新聞(イスラエルの左派系新聞「ハアレツ」)を読むような人たちで、買春しているなんて誰も思わないでしょう。

知識人で常識的だと思われている人たちなんです。この取材を受けている間、インタビューに答えているのが私だと彼らが知ったらおもしろいだろうなと考えていました。彼らは間違いなくこのインタビュー記事を読むでしょうから

 

 

 

 

生き抜くにはこれしかなかった

私は4歳からすでに“娼婦”でした─高級エスコート嬢が「家庭での虐待」と「客の暴力」を告白

 
 
 
イスラエルの商業都市テルアビブでエスコート嬢として生きる女性が、地元紙に登場。複雑な生い立ちや、客から受けた激しい暴力の経験を吐露した
 
 
 

縛られ、鞭打たれ、殴られる


──ルーティンを教えてください。

働くのは夜、息子が眠っている時間です。どのドライバーが私を連れ出すのかは、車の音でわかります。彼は階下で待っています。セックスワーカーの「制服」を着て、準備ができたら、車に乗り込み、途中、運転手からそれとなく自分がどこに向かっているのか聞き出します。

指定された場所に着くと、値段と時間を提示されます。部屋に入ってすべてが終わったらまた車に戻り、私が受けとった金の半分をドライバーに渡して、次の客のところへ向かいます
 
 
 
 
客から客へ、朝までずっとこの繰り返しです。一夜が過ぎた頃には正気ではいられません。帰宅する頃には、家を出たときと同じ女ではなくなっています。

──それを繰り返す毎日なのですか? 

そうです。昨日は4人、一昨日は8人か9人だったか。よく覚えていません。変わるのは時間だけですから。私は客が少しでも長く、一緒に過ごしてくれればいいと願います。そうすれば、次の客のところへ行かずにすみますから。

──あなたにとって好ましい客とは? 技巧的なものを求めてくる客ですか、それともショーを求めてくる客ですか? 

どちらも同じくらい最悪ですね。私にとって好ましい客は、常連客だけです。常連客ならお金で言い争いになったり、強盗に早変わりしたり、こちらにケガを負わせたりしませんから

 

 

 

 

──客の部屋に入るとき、何らかの方法で身の安全を確保していますか? 手に負えなくなったら、助けを呼ぶことはできるんですか? 

助けてくれる人はいません。

──でもケガを負わされることもあるんですよね。そのときの経験を話してもらえませんか

 

 

 

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