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「鉄オタ」を公言する駐日米国大使、鉄道への熱い愛を積極的に発信
日本の鉄道開業150周年を記念するイベントに出席したラーム・エマニュエル駐日米大使 Photo: Peter Landers
駐日米大使として天皇に謁見(えっけん)したり、ジョー・バイデン大統領を大使公邸に迎えたりしたラーム・エマニュエルが、同じくらい感動した瞬間がある。新幹線の車掌室に招かれたときだ。
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列車は時速240キロを超えるスピードで東京に向かっている。興奮しつつ「はい、入れてくださるならぜひ」と答えたという。
入室が認められ、車掌と鉄道について話すことができた。日本では電車が予定より1分早く到着することは1分遅れるのと同様にひんしゅくを買うのだと車掌は説明した。
「4時1分が予定時刻で4時に到着すると、そのように記録に残されてしまう」とエマニュエルは話した。
米国には高速鉄道が何度も計画されながら実現しなかった歴史がある。
鉄道愛を語る政治家──エマニュエルが首席補佐官として仕えたバラク・オバマ元大統領もその一人だ──は大抵、話題を変える羽目になる。
米国は高速鉄道分野で欧州やアジアに後れを取っている。
保守派は、高速鉄道は高くつくとかメリットが少ないと批判するが、
支持派は高速鉄道が増えれば、数百キロ程度の都市間の移動手段として高速道路や飛行機と競争できると主張している。
高速鉄道計画には権利関係や土地使用規制の問題もつきまとう。
ワシントンから遠く離れた土地で2人の米国大使が鉄道愛を発信し、現地で大歓迎されている。シカゴ市長として老朽化した線路の修理費用を捻出するために格闘した日々も今は昔、
エマニュエルは今「鉄オタ」──「電車マニア」を指す日本のスラング──
として評判を得ている。
駐中国大使のニコラス・バーンズも仲間に加わった。
「ふかふかの座席がすごく気に入りました! 阪急電車、ハンキューベリーマッチ」 エマニュエルが関西近郊を走る阪急線についてツイートすると、
6万2400件の「いいね」がついた。
こうしたツイートは20ほどあり、
中にはインプレッション数が数百万に上るものもある。
羽田空港と東京都心を結ぶ電車に乗ったときは「速くて信頼でき、快適。そして何よりも──素晴らしい!」と称賛した
米国では高速鉄道網構想が進まず…
米国なら車や飛行機のほうがいいという人々から非難されそうだが、エマニュエルは日本では自分の鉄道愛を広く知らせることは政治的にプラスしかないと言い、そのことが鉄道愛を存分に活用する動機になっている。
「日本の人々は自国のシステムを誇りに思っている」とエマニュエルは言う。
「そして私はその利用者でファンだ。そのことは大いに役に立つ」
最近、日本の鉄道開業150周年を記念するイベントに出席した際には、駅員と談笑したり赤ちゃんに話しかけたりして、市長時代のような「人心掌握」ぶりを発揮した。
12月17日には、松野博一官房長官から地元の小湊線に招かれ、
電車のおかげで首相の右腕である松野との絆も深まった。
松野はエマニュエルを交えて地元有権者と写真撮影する機会と、
ツイート「鉄道好きなら、必須路線です。」を手に入れた。
エマニュエルとバーンズの高速鉄道を称賛するツイートに、
両氏が米国でも同様のサービスを熱望しているのではと感じる人もいる。
高速鉄道は長年の
「民主党のゴールデンドリーム」だとリバタリアン(自由主義)系シンクタンク、
ケイトー研究所の上級研究員、デービッド・ボアズは言う。
オバマの全国高速鉄道網構想は進まず、
2008年に承認されたカリフォルニア州の高速鉄道は完成には程遠い。
エマニュエル自身、
シカゴ市長時代にダウンタウンとオヘア国際空港を結ぶ高速輸送システム計画で実業家のイーロン・マスクと手を組んだが、結局、計画は立ち消えになった。
東京と大阪を結ぶ新幹線がニューヨークとワシントンを結ぶ鉄道の参考になるかとの質問に、エマニュエルは「アムトラック・ジョーに聞いたほうがいい」と返した。アムトラック・ジョーはかつてデラウェア州の自宅からワシントンまで全米鉄道旅客公社(アムトラック)で通勤したバイデン大統領に付いたあだ名だ。
「米国が日本から学ぶことがあるのは間違いない。
(鉄道を)必要不可欠かつ信頼できるものにすることだ」とエマニュエルは続けた。
ボアズは高速鉄道の実現に懐疑的だ。「米国では高速鉄道ができる前にホーバークラフトができるだろう
米中間で緊張が高まっていても…
駐中国大使のバーンズは2019年に民間人として中国を訪問したとき、時速320キロで走行している列車の中で、トレーの上のティーカップがほとんど動かないことに驚いた。2022年8月、バーンズ大使は「中国の高速鉄道は実に見事だ。美しい農地や山、村を見るのにいい方法だ」とツイートした。
米中間で緊張が高まっている時期にしては珍しく、
投稿は米国人、中国人の両方のユーザーから歓迎された。
中国の多くのソーシャルメディアユーザーはバーンズがこの夏、2度の列車移動で2等車に乗ったことも肯定的に取り上げた。
バーンズの発信を巡っては、中国政府に対する不必要な迎合のようだとの声が元駐ドイツ大使のリチャード・グレネルなどから上がっている。
だがバーンズはインタビューで、
自分は現実的な人間であり、必要なときは中国共産党や政府を批判していると話した。
同時に、中国の人々と直接つながることは米国の国益にかなうと考えているとも語った。
エマニュエルにとっては、2022年1月に大使として日本に着任したときの最優先事項の一つが電車に乗ることだった。
許可を得るのが大変だったが、こう言ったという。
「私は電車に乗る。セキュリティーが心配ならなんとかしてくれ」。
エマニュエルにはお気に入りの話がある。
全日空の便に乗ったとき、空港から市内までの電車について書かれたメモがパイロットから届いた。
「飛行機に乗っているのに、ですよ!」。
メモには、電車がお好きだと存じています、私がお勧めする2つの新路線はこれです、と書かれていたという。
「一体どうなっているんだ。パイロットから電車についてアドバイスをもらうなんて!」
エマニュエルの究極の夢は高級観光列車「ロイヤルエクスプレス」に乗ることだ。時間を見つけて乗るつもりだという。
一方、バーンズがしてみたいと思っているのは、
北京から南部の広州市までの2000キロを超える列車の旅だ。少なくとも8時間はかかるが、バーンズはくじけない。
「ワシントンからボストンまで電車に乗ったことがある」とバーンズは言う。
ワシントン―ボストン間は距離では北京―広州間の3分の1以下だが、時間は少なくとも7時間近くかかる。
Peter Landers
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