激戦地・補給路66号高速道路の攻防。ウクライナの勝利が間近か

 

今井佐緒里

 

 

 

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、作家、編集者

 

 

 

 

 

 

英国国防省は1月2日、「この5日間、ロシア軍とウクライナ軍は、ロシアが支配するルハンスク州の町クレミンナの北を通る66号線高速道路(P66)の支配権をめぐって、おそらく戦闘を続けている」と報告した。

 

66号線はロシア軍にとって、ロシアのベルゴロド地方からドンバス戦線北部への、重要な補給路となっている。

 

ロシアは首都キーウから撤退した後、東部に力を結集させることを選択した。

そして4月18日から19日にかけて、一夜にして、最初に陥落させたのがドネツク州のクレミンナであった。戦争が始まる前は1万8000人の住人がいた小さな町だった。それほど、補給路として重要な地だったのだ。

 

 

クレミンナは2014年以来、親ロシア派の分離主義者によって部分的に支配されてきたドンバス州のクラマトルスクの、北東約50キロメートルに位置している。

 

このことは、あまり日本では記憶に刻まれていないかもしれない。

でも、同地域を流れるドネツ川(ドン川の支流)の渡河作戦にロシア軍が失敗した光景は、覚えている方も多いのではないか。

 

ロシアはドネツ川の近くで東にあるセベロドネツク周辺などに戦力を投入し、西方に位置し川が流れているクラマトルスクなどの掌握を目指したが、その過程で起きたと言われる。

 

 

 

半年弱の間、クレミンナはロシアに占領されたままだった。しかしその後、ウクライナは反抗に転じた。10月2日以降、ウクライナ軍はクレミンナのロシア軍陣地への激しい砲撃を開始し、66号線高速道路まで進攻してきた。

 

この10月2日からの戦いを「第二次クレミンナ・スヴァトヴェ線の戦い」と呼ぶことがある。この二つの町は、ロシア軍にとって重要な補給路である66号線高速道路沿いにあり、直線距離だと約40キロくらいしかない。

 

その後両軍は、進んだり押し戻されたりを繰り返してきた。

 

 

 

11月には連日激しい戦闘が繰り広げられたものの、ぬかるんだ地面のために、領土の変動はほとんどなかったという。

 

ルハンスク州北部のロシア防衛線の多くは、11月中に新しく動員されたロシア人召集兵で構成されるようになった。

 

11月2日には、ウクライナ情報筋は、ロシア軍大隊全体を破壊したと主張している。

 

米誌『フォーブス』は、ツイートを引用して、ロシアの連隊は12日間で2500人が死亡し、その人員の半分が失われたと報告している。

 

それも当然で、ウクライナの「第92機械化旅団は、よく整備されたT-64 戦車と BTR戦闘車両を備えた志願兵部隊」であり、2月からずっと戦ってきた旅団なのに対して、ロシア側の第362連隊では、将校たちは不可能な命令を発し、召集兵が撤退した場合は、脱走兵として厳しい罰を与えると脅迫している、と同誌は述べた。

 

しかも、その後、将校たちは比較的安全な連隊の後ろのエリアに姿を消し、訓練を受けていない徴兵者は、リーダーシップなしで戦うことになったのだという。

 

無事に残ったロシア兵士は100人だけで、300人の負傷者が境界線からはい出てきたとき、将校たちは彼らも脱走兵であると宣言。複数の召集兵が「私たちを刑務所に入れろ」「墓よりも牢獄がいい」と叫んだとのことだ。

 

ただ、この話は大きく広まったものの、当時別途に確認がとれた情報ではなかった。全部が真実か否かは、疑問符付きのほうがいいかもしれない。

 

 

 

12月初旬、ウクライナ軍は、クレミンナとスヴァトヴェの間にあるチェルボノポピフカ村(・・・発音できない)の、西方の丘まで前進してきた。ここは、クレミンナの北西6キロの所にある。

 

ウクライナ軍は、同地周辺のロシア軍戦線を突破し、戦闘は主にクレミンナとスヴァトヴェを結ぶ66号線高速道路の西側に集中したという。

 

12月中、ロシア軍とウクライナ軍の両方が毎日攻防を続け、執拗な戦闘が防衛線に沿って起こっていた。

 

英国国防省は昨日2日、「もしウクライナがこのルートを確保できれば、ロシアのクレミンナ防衛をさらに弱体化させる可能性が高い」と述べている。

 

66号線の攻防は、12月23日にアメリカのシンクタンク・戦争研究所も報告していた。「ウクライナ軍はクレミンナ・スヴァトヴェ線に沿ったロシア軍の攻撃を撃退し続けた」としている。

 

 

 

 

 

同研究所は、「ウクライナは、チェルボノポピフカ村でも露軍を撃退した」とし、「チェルボノポピフカ村解放の視覚的証拠はないものの、ウクライナ軍が同村にいる可能性が高いと見ている」と述べている。

 

また12月28日には、ルハンスク州のハイダイ知事が、クレミンナの戦況に触れ、同市に派遣されていた医師や修理要員らロシアの民間人全員がそれぞれの業務を中断して退去、ロシア軍司令部もクレミンナからほかの場所へ移ったと説明した。

 

 

 

CNNによると、ハイダイ知事は、もしロシア軍をクレミンナから駆逐できた場合、ウクライナ軍には今後、二つの選択肢が出てくると指摘した。

 

一つ目は、ルハンスク州の後方支援の拠点となっているスタロビルスクへの進軍。ここを押さえれば、同州の全体的な兵站(へいたん)態勢を火力で制御できることにつながるだろうとした。ロシア軍が、兵員や装備を無事に移動させることが可能な道路がほぼなくなることを意味すると述べた。

 

二つ目の戦術は、クレミンナに近いルビージュネ、セベロドネツク両市へ前進すること。ルハンスク州に隣接する東部ドネツク州にあるウクライナ側の拠点・バフムートへ近づくウクライナ軍を二つに分けることも可能だと予想。そうすればウクライナ軍のバフムート防衛がより容易になると分析した。

 

バフムートは、ロシア軍が半年以上にわたって懸命に奪取しようとしている。ロシアにとって、この都市を占領することは、ウクライナの供給ラインを寸断し、クラマトルスクやスロビアンスクなど、東部の他のウクライナの拠点へ、進撃の道を開くことになる。

 

両軍とも、相手の補給(兵站)ルートを絶ち、自分の補給ルートを死守しようと、ギリギリまで追い詰められた戦いをしているのだ。

 

今後、ロシアで二度目の徴兵があると予測されている。

徴兵された兵士には訓練を与えなくてはならず、すぐに戦線に投入できないにしても、大人数を再び投入してきた場合、戦争はどのような展開になるだろうか。

兵士の数、武器、士気・・・すべてが問われる戦いとなる。

 

ロシアが人権のある民主主義の国家なら、こんな戦争は起きなかったに違いないのに

 

 

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