「(いいたいことが、ありすぎますし、言葉や文章にしますと、差しさわりがありすぎます)
ノー・コメントです」
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ロシアを非難しない 非同盟アフリカ各国の論理
世界を多面的に捉えるにあたってアフリカ各国の視点は非常に重要だ。日本にいると、世界中がウクライナの味方になっているように錯覚するかもしれないが、アフリカ各国は立場を異にしている。念のため言うが、彼らはロシアの味方でもない。 3月に国連で開かれた、ウクライナ侵攻に対するロシアへの非難決議ではアフリカの28カ国が賛成したものの、1カ国が反対、27カ国が棄権及び不参加だった。そして10月に開かれたウクライナ4州のロシアによる一方的併合を無効とする決議では、反対こそ0カ国だったが、アフリカの24カ国が棄権及び不参加だった。 これは端的に言うとアフリカ各国が貫く「非同盟主義」の結果だ。欧米の先進国が率いるいわゆる「西側」と、ロシアを筆頭とする「東側」(冷戦終焉後だがここではあえてそう呼称する。中国も東側の陣営の一部とみることもできる)のどちらにも属さない国々は、約120カ国で「非同盟運動」という緩い連合体を持っている。
現在この非同盟運動の議長国を務めているウガンダのヨウェリ・ムセベニ大統領にグループインタビューをする機会が得られた。
彼のロンドン訪問は、イギリスの投資家らにウガンダへの投資を呼びかけるのが目的だったが、一部問答を抜粋し、非同盟運動の盟主から見るウクライナ戦争について探っていく。 なお、ムセベニ大統領はウガンダの大統領を1986年から務め、内戦と腐敗で不安定だったウガンダに安定をもたらした人物として知られている。一方で長期政権への批判が付きまとっている。
──あなたは中国は友人だと話していた。ロシアとはどのくらい仲が良いのか。イギリスでウガンダへの投資を呼び込もうとしているが、西側諸国は人権問題などを問題視する。これについてどう思うか(ポルトガルの通信社) ロシア人はとても良い友人だ。私たちにとって世界中の人が友人だ。1960年代、私はモザンビークでポルトガルと戦っていた。あなたはまだ生まれていなかっただろう。
(※ムセベニ大統領は学生時代に当時のポルトガル領モザンビークで学生組織としてアフリカ各国の独立を求める「解放運動」の一員としてゲリラ訓練も受けた)
しかしそれでも、テロリストや自分たちの価値観を押し付けようとした人々を除いて、世界中の人々はすべて私たちの友人なのだ。ロシアはソ連が権力を握った1917年から我々を助けてくれた。その頃アフリカ全域が植民地化されていた。この植民地化は、ロシア人によるものでも、中国人によるものでもなく、他の人たちによるものだ。誰かはおわかりだろう。 ロシアに加えて、1949年に中華人民共和国ができてからは、彼らも、我々がモザンビークで勝利をつかむまで支援してくれた。1994年にアフリカの解放の象徴である南アフリカのマンデラ大統領が誕生するまでずっとだ。 ロシアや中国が支援をしてくれているときに、キューバ人に加えて、西側民主主義勢力の中でもいくつかのグループがアフリカを支援してくれた。イギリスにも支援者がいた。例えばフェナー・ブロックウェイのような人だ。彼のことを知らなければ調べてみてほしい(※フェナー・ブロックウェイ、1888―1988年、労働党の議員としてインドのイギリスからの独立など、アフリカを含む植民地の自由を求める運動を展開した)
「私はあなた方と争うつもりはない」
北欧の諸国の議会の中でも私たちを支持した人がいた。ポルトガルでもマリオ・ソアレス元大統領(1976-78,83-85年に首相、1986-96年に大統領)は、独立の交渉に実際にあたり、支援をしてくれた。その後、西側ではもともと私たちを支持していなかった愛国的な右翼の人たちも、今は私たちを支持してくれるようになった。 いずれにしても私たちは戦争をするのではなくて、人々を団結させたいのだ。だから、ロシア人、イギリス人、アメリカ人、誰もが友人なのだ。彼らとの間に過去あった問題は終わった。私はあなた方と争うつもりはない。 ポルトガルの、カヴァコ・シルヴァ元首相(1985-95年に首相)なんて、私がモザンビークにいたとき、私を爆撃していた人だ。しかし戦争は終わり、私たちが勝ったんだ。そしてそれは、もう忘れたことだから我々はロシアや中国やイギリスやアメリカとも友好的になれる。 もしも私たちのありのままの姿勢を必要としないのなら、それはあなたたち自身の問題だ。私たちが納得できない戦争に強制的に参加させられることはない。 私が投資を呼び込もうとしていることについてだが、ウガンダは無料で我々の国を見に来てもらうように招待する準備がある。そこで一緒にお金を稼ごうと言っているだけだ。それに対して「来たくない」というのだとしたら、それはその人の判断だ。自分で考えて動けばいい。 人権についてだが、私は先程モザンビークで戦っていたと述べた。何のために戦っていたと思う? 人権のためだろう? だから正直に言うと、人権についてあまり知らない人たちからの挑戦は受けて立つことができる。彼らは人権について私に尋ねるべきだ。なぜなら私は彼らよりも人権とは何かを知っている。自分たちが何をしているかをよく知っている。そこに気を配ることはあなたたちに助けになるだろう。
■ロンドンでウガンダ投資を呼びかけるイベント
──今のウクライナでの戦争について見解を聞かせてほしい。西側への非難もあるだろうが、ロシア軍の非人道的な行為についての見解も知りたい。また非同盟運動の議長として、非同盟の視点で西側やウクライナには何を求めるのか(テレビ東京中村) 日本語で「Thank you」は何というんだっけ……ああ「アリガト」か。質問ありがとう。 指摘の通り、非同盟運動の議長を務める。強力な非同盟諸国と話し合うことになる。インド、インドネシア、ベトナム、イランなど、素晴らしい国がたくさんメンバーに名を連ねている。 ナイジェリア、南アフリカ、ヨーロッパの国もいくつかは入っているし、サウジアラビアも含まれている。 彼らのために話すわけではないが、何を言うべきか合意しておく必要がある。私たちは、1950年代にこの運動の前身を始めていたために長老の立場だ。インドネシアのスカルノ元大統領、ユーゴスラビアのチトー元大統領、インドのネルー元首相、タンザニアのニエレレ元大統領のようなの過去のリーダーは、世界の二極化を避けるため、東西の対立を避けるために話し合いをしたのだ
人類450万年での2つの問題とは
指導者たちは、東西による二極化が間違っていると思っていた。そして現在、インドのように両陣営と良好な関係を築いている国もある。私たちは皆、東西両陣営との関係を望んでいるのだ。 両方との関係で言うと、人類は過去450万年の間、ここアフリカにいたのだから。私は「皆さんは全員アフリカ出身だ」と言いたい。10万年前まで、すべての人類はアフリカ人以外にはいなかった。つまりそこから、中国人になった人、白人になった人、他の何かになった人がいる。そんな中で私たちはアフリカに留まった。
この450万年で人間は2つの問題を抱えてきた。
一つ目が自然によって人間が抑圧されることだ。つまり病気、干ばつ、洪水、などだ。これらは人類の問題である、なぜこれに集中して取り組まないのか分からない。人間は科学を通してより良い生活を送れるように、自然を手なずける良い方法を見出してきた。病気、飢餓、洪水、野生動物の制御は、以前は人々の問題だったが今では様相は変わってきた。 さて、人間の2つ目の問題は、仲間による抑圧。人間による人間の抑圧だった。なぜ、人間は仲間を抑圧するんだ? すべての人間の質を向上させるために科学を使うことに集中しよう、と言っているのだ。
そして、人間による人間の抑圧をすべて止めろ。それが私たちの主張で、非同盟運動の教義だ。しかし、ある人々は、自分たちが抑圧されずに、他の人を抑圧している限りにおいて、人々を抑圧するのが良いことだと考えている。 しかし、非同盟運動の指導者たちは、より良い人間の成長の仕方を知っている。なぜなら私たちは過去に苦しんだ人々で、闘争を通じて自由を獲得しなければならなかったものたちだからだ。人類のために、世界中のすべての人と協力したいと思っている。
日本に対しても、あなたの祖父母たちがビルマ(現在のミャンマー)でイギリス軍と戦っていたときに、私たちの両親はイギリス軍に代わってビルマにもいた。日本人はアフリカ人が日本兵を食べるという噂に怯えたそうだが……(笑)
アフリカ人は踊りが好きで、キャンプファイヤーの作り方を熟知している。
そのため日本兵はアフリカ人兵士が火の前で踊っている音を聞くと
「ああ、彼らはお互いを食べあっているんだ」と思ったそうだ。
1993年にTICAD(アフリカ開発会議)で呼ばれた時に、当時の日本の首相(細川護熙)と私たちの両親世代がいかにイギリスのために戦っていたかを話して、笑いあったことを覚えている。 何のために戦うのか? 残るのはただ虚しさだけだ。帝国主義の時に日本人はビルマで何をしていたのか? イギリス人はビルマで何をしていたのか? みなさん、自分の国はどうなんだ? 過去に悪い出来事が確かにあった。しかし、それでも私たちは現在日本人ととても仲が良い。他国との関係はそういうことだ。私があなたを食べることはない。心配しないでいいよ
ヨーロッパ諸国とアジア諸国の違い
──あなたはヨーロッパからの投資を呼びかけるためここにきた。最近ベトナムも訪問したと思うが、ヨーロッパとアジアで投資への姿勢の違いはあるか(香港メディア) 1900年代にアフリカ全体は植民地化されていた。有色人種国家であるアジア諸国は、中国、インドネシア、インドなど、反植民地闘争で共に戦い、共に活動をしていた。中国でさえも、第二の植民地のようにされ、以前は「我々と同じ植民地だ」と言いあっていたほど植民地化されていた。
だから一緒に戦った人たちは、闘争の中で互いに支え合っている。ただ1対1での協力だけでは、あまりうまくいかないものだ。 私たちは西側諸国を敵視しているわけではない。ご存知のように、私たちはアメリカの黒人たちともつながりを持っているし、もちろん白人たちともつながりを持っている。前に述べたように人類の自由のために戦う私たちを支援した白人たちもいる。 しかし、彼らとアジア諸国との違いは、彼らはビジネスにも脅威を与えようとしてくることだ。アジア諸国は政治とビジネスを結び付けようとはしない。これは事実だ。ビジネスと政治を混ぜようとする西側の人たちは、自分たちが何を言っているのか分かっていない。彼らは傲慢さに満ちている。彼らが自分自身を落ち着かせる必要があるのではないだろうか。
■ムセベニ大統領取材前の様子
ウガンダは、3月の国連によるロシアへの非難決議でも、10月のウクライナ4州の一方的な併合を無効とする決議でも「棄権」を貫いた。 その間7月には、ロシアのラブロフ外相のアフリカ訪問の目的地の一つとなり、ムセベニ大統領も会談をした。ラブロフ外相は「ロシアはアフリカに石油を提供する準備もある」と語ったという。また2023年に関係強化に向けて「ロシア・アフリカ首脳会議」を4年ぶりに開催する方針も示した。 一方で12月にワシントンDCで開かれたアメリカ・アフリカ首脳会議ではムセベニ大統領はバイデン大統領と会談。バイデン大統領は民主主義や人権の重要性を改めて強調したうえで、アフリカ各国の実利に繋がるように今後3年で550億ドルの支援を約束した。 西側につかないアフリカに感謝を述べつつ、自陣営に引き込もうとするロシア。西側につかずロシアへの制裁に参加しないアフリカが、抜け穴にならないようにと気を遣うアメリカ。そしてその裏に不気味にアフリカで影響力を増す中国の存在もある。西側陣営と東側陣営が綱引きをしている様相がここから分かるだろう。 ただムセベニ大統領の主張は一貫して「国益のために自分たちで考え自分たちで動く」「様々な理屈で他国に影響力を行使しようとする大国の論理を否定する」というものだった。これには過去の植民地時代の記憶も作用しているのだろう。 「もしも私たちのありのままの姿勢を必要としないのなら、それはあなたたち自身の問題だ。私たちが納得できない戦争に強制的に参加させられることはない」 この言葉が真であるならば、今後もアフリカが、少なくともウガンダが東西陣営のどちらかに極度に肩入れすることはありえないだろう。
中村 航