22年映画興収「100億超え4本」も喜べない複雑事情、ヒット格差が大きく、ディズニーも苦戦した

東洋経済オンライン

『すずめの戸締まり』(C)2022「すずめの戸締まり」製作委員会

 

 

 

 明るい話題に沸く2022年の映画界。コロナで止まった洋画配給の本格復興に位置付けられた今年は、邦画洋画含めて興収100億円を超える作品が4本(最終興収見込み作を含む)と歴代2番目に多い年になるとともに、秋までの興収で前年比140%の好推移。年末年始の正月興行を前に、市場規模をコロナ前に戻すかのような勢いを見せている。 

 

 

【ランキング表】2022年映画興行収入TOP5(100億円超え4本の作品名と興収も) 

 

 

 

 

 しかし、その裏側を見ると喜んでばかりはいられないようだ。中クラスのヒット作が減少する“ヒット格差”は広がり、従来の制作構造から抜け出せない邦画実写の大規模公開作は時代の流れに取り残されつつある。いままさに映画界は、これまでの業界常識やヒット方程式が通用しない、コロナ以降の課題とジレンマに直面している。

 

 

 

 

■100億円超え4本は歴代2番目 

 12月に入った時点で今年の映画興行を振り返ると、コロナ禍の一昨年から昨年にかけて日本公開がストップしていたハリウッドの大型シリーズ作品をはじめとする洋画が相次いで公開され、洋画復興と位置付けられる年であったことがまずトピックとして挙げられる。そのなかからは『トップガン マーヴェリック』(135億円)のような大ヒットが生まれ、コロナで映画館から足が遠のいていた年配層の映画ファンが戻ったことが映画界の明るい光となった。

 

 

 だが、1年の終わりが近づいてみると、

もっともエポックメイキングだったのは、

興収100億円超えが4本と記録的なヒット本数が生まれた1年になったことだ。

 

 

過去を振り返ると、100億円超え作品の年間歴代最高は2004年の5本。

それに次いで2019年と2022年が4本だった(表参照)(外部配信先では図表などの画像を全部閲覧できない場合があります。

 

その際は東洋経済オンライン内でお読みください)。 

 

 今年の4本は歴代2番目。

加えて、邦画の本数で見ると、

2004年は1本、

2019年は2本だが、

2022年は3本と史上初の最多本数を記録する年となった。

 

1年の締めくくりとなる正月興行はこれからだが、まるでコロナの2年間の苦境を払拭するかのように今年の映画界が勢いづいていたのは間違いない

 

 

 

 

大ヒットは生まれたが、年間興収ではどうか。1~10月までの興収は前年比140%ほどで推移している。そのあとは、11月は最終興収150億円前後が見込まれる『すずめの戸締まり』(12月4日時点で75.9億円)があり、12月の『THE FIRST SLAM DUNK』も幸先の良い出足を見せている。  

 

正月興行でどこまで年間興収が伸ばせるかによるが、2021年の1618.9億円を大きく上回るのは間違いなさそうだ。10月までの勢いを継続できれば、2000億~2200億円台がひとつの目安になるだろう。

 

 コロナ禍に突入した2020年(1432.9億円)から2021年、そして2022年と上昇カーブを描いて市場規模を回復させている。まさにコロナからの復興を遂げているわけだが、コロナ前との比較ではどうなるか。  

 

2010年以降の年間興収は上昇基調にあり、

2014年から2018年は2000億~2300億円台を推移している。

かつては日本映画市場は2000億円前後と言われていた

それを踏まえれば、今年はコロナ前の平時まで戻したとも言えるだろう。

 

 

 

 

ハリウッド大作シリーズが戻るも興行は伸び悩む

 

 

  とはいえ歴代最高興収となった2019年(2611.8億円)までは届かない。

 

 

その80~90%の間でどこまで近づけるかになりそうだ。

 

2019年と2022年は100億超えが同じく4本であった一方、年間興収では差がある要因のひとつに挙げられるのは、中クラスのヒットが減っていることだ。  シリーズ続編の興行力の低下とテレビドラマの映画化作品の低調ぶりは近年の課題であったが、コロナを経て中クラスヒット層の下降傾向がより顕著になった。

 

 

 まず洋画を見ていこう。洋画が戻った今年は、前述の

 

トップガン マーヴェリック』のほか、

 

ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』(64億円)

 

ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』(45.8億円)

 

『ミニオンズ フィーバー』(45億円)

 

『スパイダーマン: ノー・ウェイ・ホーム』(42億円)

 

『SING/シング ネクストステージ』(33億円)

 

などが映画館をにぎわせ、幸先の良い洋画シーンのリスタートになったように見える

 

 

 

 

たしかにコロナ禍の2年間と比べれば、大作がシネコンに戻ったことで3年ぶりに洋画興行を大きく底上げした。しかし、見方を変えるとその実情は異なる。コロナで洋画が止まった時期を経て、これだけ知名度も人気も大きなシリーズ続編の公開が続いているにもかかわらず、ほとんどがシリーズ前作から興収を大きく落としているのだ。  シリーズ続編が前作より興収が下がるのはいまにはじまったことではない。もちろん上がる作品もあるが、下がる作品のほうが圧倒的に多い。だが、今年は一部を除きその落ち幅が従来以上に大きくなった。

 

 

 その流れに抗い、圧倒的な作品力で観客を惹きつけたのが『トップガン マーヴェリック』や『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』だ。とくに前者の爆発的ヒットばかりが今年の洋画シーンの景気のいい話題として際立っているが、そのほか多くの続編が、シリーズのタイトルの大きさに対して思うように興収を上げられない苦境にさらされているのが実情だ。 

 

 

 

 

■ディズニープラスへの配信シフト

  それでも先に挙げたシリーズ続編は健闘しているほうだ。さらに厳しい結果になっているのがディズニー作品。作品数はあるものの、2022年は『ドクター・ストレンジ マルチバース・オブ・マッドネス』(21.6億円)が同社の興収トップとなり、期待されていた『バズ・ライトイヤー』(12.2億円)や『ソー:ラブ&サンダー』(13.5億円)を含め、15億円を超えるヒットがほぼないまま終わりそうだ。

 

 

 かつてディズニーと言えば、毎年50億円から70億円のヒットを連発し、100億円を超える作品も少なくなかった。100億円超えが3本、60億円台が2本となった2019年が象徴的で、近年の洋画市場はディズニーが大きく牽引していた。そんな洋画の雄から大ヒットが生まれなくなっている。  その背景には、ディズニープラスへの配信シフトがあるだろう。コロナ禍でディズニーは新作の配信独占公開や劇場と配信の同時公開に踏み切るなど、試行錯誤を繰り返してきた

 

 

 

 

現状では、基本的に劇場公開から配信まで45日間を設ける「45日ルール」がデフォルトになっているが、配信でドラマや映画を見ることに慣れたファミリー層や若年層のディズニーファンがそちらに移っていることは想像に難くない。  ただ、ディズニーは劇場公開から生まれる社会的ヒットがコンテンツ価値を高める重要性を理解している。ディズニープラス(配信)を主軸に構える姿勢はコロナ以降変わっていないが、劇場と配信の両方をどううまく事業として成り立たせ、利益を最大化していくかがこれからの大きな課題だろう。

 

 

 今年はディズニー以外の洋画配給は健闘した。

 

日本映画市場の規模として見た場合の洋画復興は、ひとえにディズニーにかかっている。  では邦画はどうか。今年もコロナ前からの傾向がそのまま現れており、アニメは好調だが実写が苦戦している。アニメは100億円超えが3本あった一方、実写のトップは『キングダム2 遥かなる大地へ』(52億円)。そのあとに『シン・ウルトラマン』(45億円)が続き、『余命10年』や『沈黙のパレード』『コンフィデンスマンJP 英雄編』は30億円にとどかなそうだ。

 

 

 

 近年言われ続けていることだが、

邦画実写市場で大きなシェアを占める、

テレビ局が製作委員会の主体となる大規模公開作のヒット規模は小さくなっている。

 

今年は20億円を期待されていたものの10億円前後で止まる作品が多かった。 

 

 その要因のひとつには、コロナを経た配信VS映画館の構図がある。NetflixやAmazonプライムなど配信サービスのオリジナルを含めた多彩な映画やドラマの作品数と作品力に慣れたユーザーに対して、マス向けの平均点クラスの映画を作っても響かない。それこそ配信で見ればいいし、見なくてもいいとなる。「映画館に行きたい映画」へのハードルが上がっているのだ。

 

 

 

 

■映画界の常識やヒット方程式は通用しない 

 しかし、見たい映画さえあれば観客は映画館に行くことは、100億円超え作品が4本生まれたことが物語っている。映画館での鑑賞を配信視聴とは異なる特別な体験やコト消費イベントとして楽しむことは浸透しており、そのニーズはコロナを経てむしろ高まっている。  だが、邦画実写はごく一部を除いて観客が見たい作品を提供できていないのだ。  

 

 

映画ジャーナリストの大高宏雄氏は「テレビ局映画などいまの邦画実写の大規模公開作は、テーマやストーリーの企画に限界がある。意外性のないアベレージ的な作品ばかりになって、新たな一歩を踏み出せていないから、観客が離れていく」とテレビメディアと同じような作品性になってしまう邦画実写映画の制作側の問題点を危惧する

 

 

 

テレビドラマの映画化や、人気漫画を原作にして話題の俳優をキャスティングする“邦画のヒット方程式”や“映画界の常識”が通用しない時代になって久しい。  大高氏は「映画に目を向けさせることが、コロナ前より難しくなっているのは明らか。それにもかかわらず、これまでと同じような作品を作っていれば邦画実写は配信に負けてしまう。観客にひっかかる“なにか”のある作品を作っていくことを真剣に考えないといけない」と警鐘を鳴らす。

 もうひとつの大きな課題は劇場側だ。大作が封切られると1作でシネコンのスクリーンを占拠してしまい、ほかの作品の上映機会が失われている。コロナ禍で危機的状況に陥った劇場側による2020年の緊急措置だった『鬼滅の刃』以降、それが一般化してしまった。  たしかに経済効率を求めるビジネスとして見れば理にかなっており、スクリーンを開けたぶんだけ実際に観客は入っている。  ただ、同時に本来のシネコンの特徴である多スクリーンで多種多様な作品を上映する機能は損なわれ、さまざまな作品を上映することで1人あたりの鑑賞本数を上げる映画界の最優先課題とは逆行する動きになる。

 映画とは商業でありながら、多様性が求められる文化でもある。未来への映画文化の存続のために映画ファンを育てることが疎かになってはいけない。ひいてはそれがビジネスとしての繁栄にもつながる。コロナによって顕著になった映画界最大のジレンマと言えるだろう。 ■全体底上げの課題が浮き彫りに  コロナ明けに向かう時代の過渡期となる2022年、社会的ヒットを生み出すことで世の中をにぎわせた映画界は、配信シェアが拡大するなか、映画館というメディアと、映画興行というビジネスの社会的価値を示した。一方、大高氏は今年の興行から浮き彫りになった映画界の現状を下記のように指摘する。

 「100億円超えが4本出たら立派だが、だからいい年だったとは限らない。本来それだけのヒット作があれば全体の興収がもっと上がっていないといけない。より重要なのは全体を底上げしていくことであり、そのためにはアニメ以外で中クラスのヒットを多く出さないといけなかった。10億円を超えた『死刑にいたる病』など少数例を除き、観客の流れを変える新しい作品があったか、観客の期待に応えた結果かと考えると疑問符が残る。今年の興行はそれを示している」

 2023年は、年明け早々から好調な東映の70周年記念作『THE LEGEND & BUTTERFLY』が公開され、庵野秀明氏が監督・脚本を務める仮面ライダー生誕50周年企画作『シン・仮面ライダー』や、ディズニー100周年記念作『ウィッシュ』など期待作がならぶ。数字的に2022年を超えることに加えて、今年浮き彫りになった課題にどう向き合うかにも注目したい。 ※記事中の興行中作品の興収は最終見込み

武井 保之 :ライター

 

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