帝国ホテル(東京・千代田)は、京都・祇園に立つ「弥栄会館」の一部を保存しながら建設する新しいホテルの開業を2026年春に予定

 

 

 

 

 

 

帝国ホテル(東京・千代田)は、京都・祇園に立つ「弥栄会館」の一部を保存しながら建設する新しいホテルの開業を2026年春に予定している。22年12月2日には、そのホテルの内装デザインを新素材研究所(新素研、東京・港)に依頼したことを明らかにした。

 新素研の所長を務める建築家の榊田倫之代表取締役は同日、帝国ホテルの定保英弥社長とともに会見に臨んだ。

 

 

帝国ホテルの定保英弥社長(左)と、京都に開業するホテルの内装デザインを手掛ける新素材研究所の榊田倫之氏(右)(写真:日経クロステック)

帝国ホテルの定保英弥社長(左)と、京都に開業するホテルの内装デザインを手掛ける新素材研究所の榊田倫之氏(右)(写真:日経クロステック)

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 帝国ホテルブランドのホテルは、東京と上高地、大阪に次いで4件目。1996年の帝国ホテル大阪のオープン以来、実に30年ぶりとなる。内装デザインの担当を決めるに当たり、帝国ホテルは国内外のインテリアデザイナーや建築家に声を掛け、コンペを実施。最終的に6社に絞った中から、新素研を選出した。

 

 

 

 

 新素研は「古いものが、新しい」というコンセプトを掲げ、日本古来の自然素材や工法をインテリアデザインに生かすことを得意とする。素材や工法に時間の経過を感じさせ、新旧の調和を生み出す。そうした提案が歴史ある祇園エリアの持続的な発展に貢献すると、帝国ホテルは判断した。

 

 

 

 

新素研が提案した、ホテルの正面玄関部分の完成イメージ(出所:New Material Research Laboratory)

新素研が提案した、ホテルの正面玄関部分の完成イメージ(出所:New Material Research Laboratory)

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会見で、新素研の榊田氏を選んだ理由を説明する定保社長(左)(写真:日経クロステック)

会見で、新素研の榊田氏を選んだ理由を説明する定保社長(左)(写真:日経クロステック)

 

 

 

 

 

榊田氏がホテルを手掛けるのは初めてだ。「最初のホテルプロジェクトが帝国ホテルになったことに、自分でも驚いている」と明かす。

 

 

 

 なお、2008年に榊田氏と共同で新素研を設立した、

 

現代美術作家の杉本博司氏は今回、所員の1人としてプロジェクトに参加するという。

 

 

現代アートや写真だけでなく、古美術や茶道にも精通する杉本氏は京都に頻繁に通っており、土地勘や人脈がある。京都の帝国ホテルには、杉本氏のアイデアも盛り込まれるかもしれない。

 

 

 

 帝国ホテルは21年5月に、京都市東山区の祇園甲部歌舞練場敷地内に立つ弥栄会館の一部を保存したホテルの建設計画を発表した。祇園甲部の芸舞妓学校「祇園女子技芸学校」を運営し、祇園町南側の土地や歌舞練場などの不動産を所有する学校法人八坂女紅場(やさかにょこうば)学園から保存部分の譲渡を受け、土地の賃借を開始。22年にホテルの建設工事に着手した。

 

 

解体工事に続き、ホテルの建設が始まった。花見小路から見える南西面は外壁や構造体など保存部分が多く、カバーがかかっている。22年12月初旬時点(写真:日経クロステック)

解体工事に続き、ホテルの建設が始まった。花見小路から見える南西面は外壁や構造体など保存部分が多く、カバーがかかっている。22年12月初旬時点(写真:日経クロステック)

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 ホテルプロジェクトの名称は「弥栄会館計画(仮称)」で、敷地面積は約3600m2、延べ面積は約1万m2。地下2階・地上7階建てで、高さは31.5m。構造は鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)造、RC造、S造。設計・施工は大林組が手掛ける。

 客室数は約60室で、2~3件のレストランやバーをそなえる。レストランの1つは帝国ホテル自慢のフレンチにする予定で、「ルーフトップバーもつくりたい」(定保社長)。客室内やレストラン、共用部などの内装デザインを新素研が手掛ける。総事業費は約110億円を見込む。

 

 

 

京都における新しいホテルの外観イメージ。右側は歌舞練場の玄関部分(出所:帝国ホテル)

京都における新しいホテルの外観イメージ。右側は歌舞練場の玄関部分(出所:帝国ホテル)

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 京都はこの先数年、外資系ホテルを中心に、客室数が100室以下のスモールラグジュアリーホテルの開業が相次ぐ。中でも観光に便利な市内の東山区は、高級ホテルの激戦地になる。帝国ホテルの立地は祇園の中心部と申し分ないが、26年春の開業なのでかなり後発になる。

 

 

 

 定保社長は「東京や大阪の帝国ホテルを利用する訪日外国人の多くが、京都もセットで出かけている。もっと早く進出したかったのは確かだが、弥栄会館という最高の場所を使えるようになるのを待った。60室ほどの小さなホテルなので、平均客室単価を高めに設定しても8割以上の稼働率を維持できると考えている

 

 

 

 

 

登録有形文化財を帝国ホテルに

 弥栄会館は01年に国の登録有形文化財、11年に市の歴史的風致形成建造物に指定されている。既存の建物はSRC造で、地下1階・地上5階建ての劇場建築だ。設計は大林組の木村得三郎が手掛けた。

 各階には銅板瓦ぶき屋根を架けた。塔屋状の正面中央部は、付庇(つけひさし)や宝形造(ほうぎょうづくり)屋根が城郭の天守のようでもある。こうした特徴的な意匠は、できる限り保存する。

 ホテルは弥栄会館の一部を保存して改修する「本棟」と、新たに増築する「北棟」(いずれも仮称)で構成する。景観上、最も重要な建物南西面は、既存躯体(くたい)の保存や建材の再利用などで、建物の文化的価値を引き継ぐ。

祇園甲部歌舞練場敷地の建物配置図。弥栄会館の敷地に「本棟」、弥栄会館北側の土地に「北棟」を建設する(出所:帝国ホテル)

祇園甲部歌舞練場敷地の建物配置図。弥栄会館の敷地に「本棟」、弥栄会館北側の土地に「北棟」を建設する(出所:帝国ホテル)

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「本棟」北面の外観イメージ(出所:帝国ホテル)

「本棟」北面の外観イメージ(出所:帝国ホテル)

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本棟北側に増築する「北棟」の外観イメージ(出所:帝国ホテル)

本棟北側に増築する「北棟」の外観イメージ(出所:帝国ホテル)

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北側から見た工事現場。保存する部分を仮設の鉄骨で支えているのが分かる。22年12月初旬時点(写真:日経クロステック)

北側から見た工事現場。保存する部分を仮設の鉄骨で支えているのが分かる。22年12月初旬時点(写真:日経クロステック)

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北側周辺は石畳の小路が続く。22年12月初旬時点(写真:日経クロステック)

北側周辺は石畳の小路が続く。22年12月初旬時点(写真:日経クロステック

 

 

 

帝国ホテルは21年10月に、36年度の完成を目指す「帝国ホテル 東京 新本館」の建設で、デザインアーキテクトにAtelier Tsuyoshi Tane Architectsの田根剛氏を選んだ。田根氏も榊田氏も40代と、建築業界では若い世代だ。帝国ホテル側も「プロジェクトメンバーには若い社員を積極的に起用している」(定保社長)

 

 

京都・祇園進出の帝国ホテル、新素材研究所の榊田倫之氏が内装デザイン(2ページ目) | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)