外からやって来た湖池屋の社長が就任後、真っ先に「社員食堂」を建て替えた理由

現代ビジネス

写真/西崎進也

 

 

 

 「ポテトチップス」や「カラムーチョ」「スコーン」「ポリンキー」などを手がける総合スナックメーカー、湖池屋。2016年、キリンビール出身のヒットメーカー、佐藤章氏(63歳)が社長に就任。「湖池屋プライドポテト」など次々にヒットを生みだしている。佐藤氏の食、そして経営のこだわりとは? 

 

 

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食べることは大事。社員食堂をいち早く変えた

写真/西崎進也

 

 

 

 社長就任当時の湖池屋は苦しんでいたんですよ。

 

価格競争に巻き込まれて赤字に陥ったりしていた。

 

社内の雰囲気も負け犬みたいだったし、他責文化が広がっていた。

 

  だから、一から出直さないといけないと思ったんですね。

 

どういう暖簾を掛けたいのか決め直そう、と。それでまずロゴマークを変えたんです。  

 

会社が向かいたい6つの方向という意味を込めた六角形の中に、

湖池屋の「湖」の文字。

 

 

会社の玄関の内装も大きく変えたんですが、

社員食堂も変えたくなって。

 

昔ながらの古い食堂でしたから。  

やっぱり食べることは大事なんですよ。

しかも、本社は都心から離れている。

だから、居心地のいい空間にもしたかった。

そこで内装も和の雰囲気に変えて、

板長さんには値段を上げてもいいから、とにかくうまいものを出してくれ、

とお願いして。  

 

 

初めにガツンというインパクトある味を出してリピートさせようというのが外食のセオリーなんですが、社食はそれとは違うんです。

毎日、繰り返し食べますし、身体に優しいものであってほしかった。

コンセプトは賄い飯みたいな感じですね。  

 

「今月も数字が厳しいです」と言われる中でも、

社食を変える優先順位は高めにしました。

「おいしい」と社員のみんなが言ってくれるようになったことが、

一番うれしいことですね。  

肉がないと力が出ないと思っていた若い頃からは想像がつかないですが、

今は完全に魚派です。

しかも炭水化物もなるべく摂らない。酒と合わせるんです。

  アカムツの炊き出しで甘露にちょっと近づいたくらいの身を一口食べながら日本酒をちょっと、なんて最高です。

生の鯖を塩でいただいたり、ツブ貝、赤貝、ホッキを上質のお醤油でいただく。光り物の昆布締めもいいですよね。  

 

一方で、頭にパワーを出すために何をどう補給していくか、という意識も持つようになりました。 

 

 オメガ3やEPAが多く含まれるのは、

イワシやアジなど青魚。

 

また、栄養ドリンクに入っているタウリンを天然で摂るならタコとイカ。

 

スルメの表面の白い粉は、タウリンですから。

あとはアミノ酸ならやっぱり昆布、ワカメなど海藻。

 

  こういうものは、ご飯と食べるよりも、酒と一緒に食べるとよりうまく感じられるんです(笑)

 

 

 

日本で初めてポテトチップスを量産化した

写真提供/佐藤氏

 焼酎を飲むときには、氷をグラス一杯にします。ロックで飲むと、氷が溶けて薄まってしまう。そこで、氷を大きな容器に山盛り詰めて、そこに焼酎を入れて、一気にかき混ぜるんです。  すると、焼酎が氷の温度と同じになる。そうすると、氷は溶けにくいんです。原酒の濃いおいしさを、なるべく冷たい状態で味わえる。おいしく飲めますよ。  おいしいものといえば、3年間、赴任していた九州が忘れられないですね。今もお米は熊本県産の「森のくまさん」です。  ごまさば、ゴンアジ、五島うどんにデコポン、きんかん、イチゴの「あまおう」、マンゴーの「太陽のタマゴ」……。どれも美味でした。  舌を鍛えることはできますか、と問われることがありますが、可能です。それにはうまいものを食べることが一番。そして、この旨みはどこかで覚えておかなくては、と脳の中の引き出しに入れておく。一方で、ダメな味は早く忘れるのがコツです。  もし明日、地球が滅亡する、となったら、やっぱり貝を食べるかなぁ。あとは、ちょっと締めた光り物。あと、タコの柔らか煮もいい。僕は料理も自分でしますが、これが時間がかかるんです。小一時間かかる。  塩加減も難しいんですが、煮上がってきたものは最高にうまい。僕は足先ほど好きでして。イカもそうですが、動いているところはいい味を出すんです。  湖池屋は日本で初めてポテトチップスを量産化した会社なんです。なのに会社は自信をなくしていて、その誇りを取り戻す必要があった。実は創業者の肉声を探したら、こんなことを言っていたんです。  「業界で最高のものを作って、ちょっと高くても買ってもらえる品質を目指すんだ」と。これこそが原点だったんです。絶対に安売りを軸にしてはいけない会社だったんですよ。  和をイメージしたのは、やはり創業者が日本にこだわったから。アメリカから渡ってきたポテトチップスを日本人好みにするにはどうすればいいか、必死で考えた。そこから生まれたのが、のり塩味だったんです

 

 

 

人事制度も大きく変えた。年功序列はやめよう

写真/西崎進也

 ただ、そうは言っても、社員は外から来た社長の言うことなんて聞きません。隗より始めよ、なんです。でも、「湖池屋プライドポテト」をヒットさせたら、ガラッと変わった。私を見る目が変わったんです。これは気持ち良かったです(笑)。  それから若い子たちが「自分もヒットを出したい」と言ってくれるようになって。だから人事制度も大きく変えました。年功序列はやめよう、と。  実際、20代の課長、30代の次長、40代の部長がいます。しかも、この制度の評判がいいんですよ。頑張れば、給料もポストもどんどん上がっていきますから。そして上司には、思い切った評価をしろ、と言っています。  創業者は、皮を剥き過ぎるな、とも言っていたんですね。皮と身の間に、旨みが詰まっているからです。これを剥いちゃったらいけない。桃だって、際が甘いでしょう。こういうのも和の精神なんですよ。  今はこの和の精神が世界で支持されるようになっています。海外事業はとうとう黒字化しました。アジアでは台湾やタイが好調で、工場があるベトナムも順調です。ヨーロッパでも人気になってきているし、中国やサウジアラビアからも引きがある。  味覚というのは、コンサバティブですが、うまいものは絶対に受け付けるんです。それを信じて、そこに向かって突き進んでいるのが湖池屋です。僕らが目指しているマーケティングというのは、熱狂的なファン作ることなんです。  だから、普通のものじゃなくて、ちょっとオタクなものを作っていく。でも、オタクがセンターを張ってもいいじゃないか、と。アニメだってそう。昔は隅っこにいたものが、今や世界を代表する日本の文化になっているわけです。  朝ご飯は、味噌汁、お新香、納豆、たらこ、目玉焼きやウインナーに必ず白飯です。これは親父の影響。でも、女房はときどきパンを出そうとするんですね。実は女房は料理学校で教えているんです。  だから、おいしいものを食べさせてもらっているんですが、パンづくりもしていまして。パンも食べたいと言うわけです。それで、土曜と日曜の朝はパンにすることで交渉が成立しました。夫婦は折れるところは折れないと、です(笑)。  

 

 

 

佐藤章(さとう・あきら)/

59年、

東京都生まれ。

早稲田大学法学部卒業後、

キリンビール入社。

97年、キリンビバレッジ出向。

「FIRE」「生茶」などヒット商品を開発。

08年にキリンビールに戻り、

14年にキリンビバレッジ社長。

16年、フレンテ(現・湖池屋)執行役員、同年9月より現職。

 

 

  (取材・文/上阪徹) 

 

 (写真/西崎進也)

上阪 徹(ブックライター)/週刊現代(講談社

 

 

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