資材高騰が粗利率を押し下げたゼネコン中間決算、各社は「採算重視の受注を徹底」
星野 拓美
日経クロステック/日経アーキテクチュア
2022年11月上旬に上場建設会社大手4社の23年3月期第2四半期決算(単体)が出そろった。鋼材価格などの高騰が建築事業の粗利率を押し下げた。これ以上の粗利率の低下を避けるため、各社は「採算を重視した受注を徹底している」と口をそろえる。
大手建設会社の2023年3月期第2四半期決算(単体)の概要。竹中工務店については22年12月期中間決算の数値を参考までに示した。竹中工務店の完成工事総利益率(粗利率)は建設事業全体の値。図中のカッコ内は対前年同期増減率(%)で、▲はマイナス。完成工事総利益率のみ、カッコ内は増減ポイント(出所:各社の決算短信などを基に日経クロステックが作成)
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建築の売上高はおおむね好調だ。清水建設、鹿島、大成建設の3社が前年同期比20%以上の増収だった。清水建設と鹿島はそれぞれ5000億円を超えている。唯一減収だった大林組にしても、前年同期比2.3%減の約4913億円だった。
建築の受注高は増加と減少で半々に割れた。鹿島と大成建設がそれぞれ前年同期比50%以上の増加だった一方、清水建設は同2.2%減、大林組は同15.0%減だった。増加率のトップは、64.9%増の約6047億円を受注した鹿島。半導体や医薬品の生産施設などで旺盛な建築需要を捉えたほか、「横浜市旧市庁舎街区活用事業」や「品川開発プロジェクト(第Ⅰ期)2街区」といった大型の再開発工事を複数受注したことが大幅増につながった。
「横浜市旧市庁舎街区活用事業」では、横浜市旧市庁舎の跡地に地上33階のタワー棟を建設する。エリアの中心にはディー・エヌ・エー(DeNA)が運営する常設型ライブビューイングアリーナを計画。保存活用する旧行政棟には星野リゾートが運営するホテルが入る(写真:日経クロステック)
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目立ったのは利益面での苦戦だ。建築工事の採算性を表す完成工事総利益率(粗利率)を見ると、大林組を除く3社は、受注競争の激化などの影響で採算が悪化した前年同期からさらに低下した。特に大きく落ち込んだのは大成建設で、前年同期比2.4ポイント減の5.9%だった。
利益率悪化を理由に役員報酬を返上するなど、22年3月期に辛酸をなめた大林組は、上場大手4社で唯一、粗利率を改善し、前年同期比2.3ポイント増の7.5%だった。ただし、22年8月に発表したばかりの通期業績予想は下方修正している。建築の粗利率は当初の予想より0.7ポイント低い8.0%、650億円を見込んでいた営業利益は510億円になる見通しだ。
上場大手4社の粗利率(建築)の通期予想は5.9~8.5%。コロナ禍の影響などを受ける前、19年度までは各社とも10%以上で推移していたが、この2年間で急低下している。今期、建築の粗利率を押し下げている要因として各社が挙げたのは、鋼材などの価格高騰だ。
大手建設会社の建築工事の完成工事総利益率(粗利率)の推移。2022年度は予想。竹中工務店の22年度の数値は建設事業全体の値を示した(出所:各社の決算短信などを基に日経クロステックが作成
準大手では通期予想の下方修正が相次ぐ
建設物価調査会によると22年11月の東京のH形鋼価格は1トン当たり12万4000円、異形棒鋼価格は11万4000円。どちらもこの2年間で約7割上昇している。22年4月と比べても、1トン当たり1万円以上、値上がりしている状況だ。足元では原料価格が下落に転じたことから、この3カ月の鋼材価格には一服感が見られるが、大林組の小寺康雄副社長は、「予断を許さぬ状況だ」と話す。
営業利益362億円、建築の粗利率8.7%で、いずれも4社中トップだった鹿島も、警戒感を緩めていない。同社経営企画部コーポレート・コミュニケーショングループの戸村武夫グループ長は、「様々な資材が高騰しているが、期初予想の範囲内だ」としながらも、こう続ける。「本来、粗利率の目安は10%としているが、22年2月に発生したウクライナ危機などのリスク要因を織り込み、通期予想を8.5%とした。これを下限にしたい」
各社は「採算を重視した受注を徹底している」と口をそろえる。22年3月期決算の説明会では、「VE(バリューエンジニアリング)やコストダウン提案による採算性の向上を織り込んで受注したが、発注者に提案を認めてもらえなかった」と説明していた清水建設の山口充穂経理部長はこう話す。「これまでとは受注スタンスを変えている。VEやコストダウンを確実に実施できるよう、確度の高い受注判断をしている」
大手に輪をかけて、準大手・中堅以下の状況は厳しそうだ。準大手・中堅以下では通期予想の下方修正が相次いだ。戸田建設は22年10月末、22年5月に発表した期初予想から粗利率(国内建築)を2.0ポイント減の7.0%、営業利益を78億円減の93億円に下方修正した。このほか熊谷組や五洋建設、西松建設、三井住友建設なども22年11月上旬に予想を引き下げた。いずれも資材高騰などで工事原価が上がったことが理由だと説明している。
2023年3月期の通期業績予想を下方修正した主な準大手建設会社と、その予想値の抜粋。完成工事総利益率のカッコ内は期初予想からの減少ポイントで、▲はマイナス。営業利益のカッコ内は減少率(%)。三井住友建設以外の企業の完成工事総利益率は国内建築の値。三井住友建設は海外建築も含む(出所:各社の決算短信などを基に日経クロステックが作成
資材高騰が粗利率を押し下げたゼネコン中間決算、各社は「採算重視の受注を徹底」(2ページ目) | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)