「胸強調広告」「性を売り物にしている」と批判され…ネットでよく見る“フリー素材モデル”が明かした誹謗中傷のトラウマ
桃沢 もちこ
ネット上でよく見かける、白と黒のボーダーシャツを着て、バッグを斜め掛けにした女性の画像。モデルを務めているのは、「フリー素材の女王」として有名なフリー素材モデル・茜さやさんだ。
茜さんはかつて、自身のフリー素材画像をめぐる炎上騒動に巻き込まれ、容姿や体型批判に晒された経験を持つ。しかし今はそれを乗り越え、グラビアアイドルや実業家、ライターとしても活躍をしている。
そんな彼女に、フリー素材モデルになったきっかけや仕事内容、フリー素材画像がきっかけで起こった炎上騒動の裏側などを詳しく聞いた。(全2回の1回目/ 2回目 に続く)
フリー素材モデル・茜さやさん ©山元茂樹/文藝春秋© 文春オンライン
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最初はフリー素材モデルの仕事に不安を抱いていた
――まずは、フリー素材モデルになったきっかけを教えてください。
茜さやさん(以下、茜) 2016年頃、グラビアアイドルやダーツのイメージガールとして活動しているときに、知り合いの方からお声がけいただいたのがきっかけです。
ただ最初は、お引き受けするかすごく悩みました。仕事内容がよくわからないから、「画像を悪用されないのかな?」って心配で。それにフリー素材として私の画像が使えるようになったら、他のグラビアやモデルのお仕事が来なくなる可能性もあるかなと。
――それでも依頼を受けた理由は?
茜 当時、私がメディアで露出していたのは、グラビアとダーツのお仕事のときだけ。その2つの業界でしか、私は知られていなかった。だからフリー素材モデルの仕事をして、もっとたくさんの方々に認知してもらいたいと思ったんです。
――フリー素材の画像はいろいろな場所で使われるから、目にする人も多いですよね。
茜 無料だからというのもあって、あらゆるところで使われる。それこそ、企業の広告としても使用されますし。
それに画像がネット上に広まるのも早いから、「顔だけでも知ってもらえるチャンスかも?」と思いましたね。それで「ぱくたそ」というフリー素材提供サービスのモデルになりました。
フリー素材モデルの仕事内容とは?
――フリー素材モデルの仕事はどんな内容なのでしょう。
茜 スタジオなどで、1日かけて撮影をします。いろいろなポーズやシチュエーションの写真をまとめ撮りするんです。それをカメラマンさんがレタッチして、最後に自分で確認してから、公開されるという流れです。
ちなみに、たくさん写真を撮るけど、公開するまでどういった使われ方をするかわからないんですよ。あの白と黒のボーダーシャツを着た写真も、「何に使われるんだろう?」と思いながら撮影していました(笑)。
――茜さんの画像の中には、温泉やスキー場で撮影されたものもありますよね。
茜 基本はスタジオなどで撮影するんですけど、外へ行くこともあって。地域活性化のために、地方自治体とコラボしたお仕事をしたこともあります。その地域の魅力や観光スポットをPRするために、スキー場や温泉で撮影したんです。
あとは、「ぱくたそ」の撮影チームとヴィレッジヴァンガードさんがコラボしたときに、ハロウィンの衣装を着てモデルをしたこともありました。
「あれ、ネットでよく見るあの子だよね?」と…
――ちなみに、給料はどのように支給されるんですか。
茜 1日の撮影で、日給何万円みたいな感じです。でも今お話ししたように、他のお仕事を振ってもらえるので、ひとつの収入源にはなるくらいのお給料を貰えます。
――いろいろな所でご自身の画像が使われるようになって、変化はありましたか?
茜 「あれ、ネットでよく見るあの子だよね?」って声をかけられることが増えましたね。企業の名刺交換会や異業種交流会に行ったときには、画像が名刺代わりになってくれました。
仕事でも、企業のモデル依頼などが増えたんです。商品を持ってポーズをしたり、ブランドの服を着て撮影したり。それまでは水着の仕事が多かったけど、服を着る仕事が増えましたね(笑)。当初気にしていたフリー素材モデルのデメリットもあまりなくて、結果的にやってよかったです。
「胸強調広告」と言われてSNSが炎上
――ただ、過去にはご自身のフリー素材画像がSNSで炎上したこともあるそうですね。
茜 転職支援サイトの広告に使用された写真が「胸強調広告」と言われて……。「こんな広告を使っている企業の転職サイトは使いたくない」という批判的な意見が多数寄せられたんです。
あの写真は2016年に撮影されたものだったのに、炎上したのは4年後の2020年。正直、「なんで今になって炎上するんだろう」と落ち込みました。
――ご自身のSNSにも批判が集まったそうですが、どのような内容だったのでしょうか。
茜 「今は手術で胸を小さくすることだってできる。なのにそうしないのは、性を売り物にしているってことでしょ」と言われました。
当時は「じゃあ、胸が大きい人は広告に出てはいけないの?」という気持ちが溢れてしまって。どうしても自分の考えをわかってもらいたいから、批判してきた人達にリプライをして議論していましたね。でも、まったく話が通じませんでした……。
――批判は今もあるのですか。
茜 今もありますよ。多分、これからもずっと言われ続けると思います。本当はもっと抗議して、理解してもらいたいけど、 たぶん伝わらないと思うので。大人しくしておこうと思って、批判されてもあまり反応しないようにしています。
小学校の頃から醜形恐怖症だった
――ご自身は醜形恐怖症(実際には存在しない外見上の欠点や、ささいな外見上の欠点にとらわれること)だと告白されていますが、それはいつからですか?
茜 小学校の頃からです。他の人からするとなんともない容姿の一部が、自分にとってはすごく醜く見えてしまう症状があります。
小学生のときは自分の顔が大きく見えてしまっていて、顔まわりに沿って生えている後れ毛、「触覚」と呼ばれるものがないと、人前に出れなかった。あとは肌が白いのも嫌で、すこしでも血色を良くするために、口とかほっぺをつねってから教室に入っていました。
――大人になってからもその症状は続いたのでしょうか。
茜 続きましたね。芸能のお仕事を始めてから、容姿を批判されることが増えたので、一時期は悪化しちゃって……。今はだいぶ落ち着きましたけど、照明の真下とかはまだ怖くて座れない。顔に影ができるのも怖い。
「ブス」「太ってる」と誹謗中傷された過去も…
――炎上騒動以前にも、容姿を批判されることがあったのですね。
茜 ネット上で「ブス」「太ってる」と言われたり、フリー素材の写真に対して「横顔はいいけど、正面から見ると可愛くない」って書かれたりもしました。
ダーツのイベントでも、私が投げるときに後ろから「デブ」って言われたことがあって。その後、ダーツがまったく入らなくなりました。そういう批判を受けるたびに、落ち込んでいました。
だんだん、プライベートで誰かと食事をするのも怖くなって。「正面だとブスに見えるから、人の前に座りたくない」って思い込んじゃったんです。今はもう大丈夫なんですけど、当時は本当に辛くて、乗り越えるのが大変でした。
――表舞台に出ている人は批判していい、みたいな風潮がありますよね。
茜 誹謗中傷によって命を絶ってしまった方もいるのに……。芸能人という前に、1人の人間というのを理解してほしいですよね。
それに、SNSの誹謗中傷などを厳しく罰するルールがあったほうがいいと思うんです。たとえば、一生ツイッターを使えなくするとか。アカウントを何度も作り直せるんじゃなくて、スマホの端末自体を凍結できたらいいのに。
クラウドファンディングで自身初の写真集
――2021年にクラウドファンディングを実施して、自身初の写真集を出されたそうですね。そこには、ご自身のコンプレックスへの思いが込められているとか。
茜 「どんな体でも悩まなくてもいいんだよ」というメッセージを込めた写真集を出しました。「男性も女性も、ありのままの体が一番美しい。コンプレックスに思う必要なんてない!」という私の思いを伝えたくて。
――クラウドファンディングの達成率がすごかったと聞いています。
茜 目標金額の50万円に対して700万円以上が集まって、達成率は1400%超えました。その写真集がきっかけで、「茜さんの思いを知って、ファンになりました」と言ってくれる人もいましたね。
撮影=山元茂樹/文藝春秋
「銀座で『芸能界から消してやる!』と言われた」「ホテルに呼び出されたことも…」フリー素材モデル・茜さやの“波乱万丈すぎる半生” へ続く
(桃沢 もちこ
(4ページ目)「胸強調広告」「性を売り物にしている」と批判され…ネットでよく見る“フリー素材モデル”が明かした誹謗中傷のトラウマ | 文春オンライン (bunshun.jp)