普通のビジネスマンが、夜にはロシア兵を殺しに出かける…ウクライナの攻勢を支える“パルチザン”の実態と実力【報道1930】

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ウクライナ戦争で戦っているのは当事国の正規軍ばかりではない。ロシア側にはチェチェンの特殊部隊、民間軍事会社『ワグネル』の傭兵が幅を利かせる。対するウクライナ側には民間人による軍事的組織“パルチザン”がいる。今、ロシア軍にとって大きな脅威となっているウクライナの“パルチザン”の実態に迫った。

 

 

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■「今回の戦争でゲームチェンジャーが2つある。それはハイマースとパルチザン」

“パルチザン”とは占領支配に抵抗するために地元市民が結成した軍事的組織。 番組が話を聞いた元パルチザンの男性は、クリミアが併合された2014年にパルチザンに参加した。それまではごく普通のビジネスマンだった。 ヴォロジーミル・ジェムチュゴフさん 52歳 「2014年から私の友人が殺されるようになりました。友人たちは手を縛られ頭を銃で撃たれた状態で森の中や道端で発見されました。もう抗議だけでは効果がないと思い家族を守るために2014年の夏パルチザンに参加しました。私も友人も民間人でした。人を殺すという行為に対して精神的に強い抵抗がありました。でもウクライナ人の捕虜や遺体に対するロシア兵の残虐行為を目の当たりにして、その抵抗感が消え、夜中にロシア兵を襲うようになりました」 ジェムチュゴフさんは送電線に爆弾を仕掛けその場を去る時、道路側に親ロ派の軍隊がいたため道をそれた。その瞬間、地雷によって両腕を失い、ロシア側に拘束されたという。取り調べに何も答えなかったため、捕虜交換には時間がかかったとも話している。ウクライナに返還された後は政府の職員として働いていた。そして今年2月ロシア軍の侵攻を機に、今はパルチザンの育成、組織づくりを依頼され従事している。 ヴォロジーミル・ジェムチュゴフさん 52歳 「若者にスパイ活動の基礎を教えました。スマホで情報を安全に提供する方法や自作爆弾の作り方も…。(中略)ロシア占領地域から脱出した者はウクライナの支配地域で訓練を受け、その後占領された地域に戻って活動します。現地では新たな人材の参加でロシア側に大きな被害を与えています」 元々パルチザンは違法な存在だったが2014年末に合法化され、国防省の管轄下にある。軍事的組織が脆弱だったためにクリミアを簡単に奪われてしまったウクライナにとって第2のクリミアを生まないための手段がパルチザン合法化だった。 防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長 「パルチザンの特色というのは、自分たちの支配が及ばなくなった地域でも反抗運動が行えること。実際今もロシアが支配した地域で様々な活動によってロシア軍の勢力をそいでいる」 元陸上自衛隊東部方面総監 渡部悦和氏 「合法化されたことがもの凄く重要。小さな国が大きな国に侵略された時、軍隊だけでは対応できない。そこでトータル・ディフェンス、国家全体で守るんです。軍だけじゃなく政府も官庁も含めてすべての国民が防衛に当たることが必要なんです。今回の戦争でゲームチェンジャーが2つある。それはハイマースとパルチザンなんです。パルチザンのおかげでロシア軍の作戦はものすごく難しくなっている。パルチザンたちはどこで活動するかというと前線じゃないんです。敵の前線の後方地域で活動する。だからロシア軍は、前方は気を使わなきゃいけないし、後方も気にしなきゃいけない」 パルチザンの活動はいわゆる正面切っての戦闘とは違い、ゲリラ戦や暗殺、爆破など何でもありだ。 先日ヘルソン州の副知事が自動車事故で死亡した。彼は一方的に併合された後ロシアに任命された親ロ派の人物。パルチザンが2万ドルの懸賞首としてビラを貼っていた相手だ。となると本当に事故だったのかどうか…。クリミアで頻発した爆発。クリミア大橋の爆破。ロシア将校の相次ぐ死亡などなど、ロシアの痛手にパルチザンは無関係とはいえないようだ。 だが、このパルチザンの活動に番組のニュース解説・堤氏は歴史の皮肉を感じるという…。 国際情報誌『フォーサイト』元編集長 堤伸輔氏 「パルチザンってもともとソ連、ロシア圏の言い方なんですよ。フランスなんかではレジスタンスっていうことが多い。パルチザンの代表的なものといえば(第2次大戦の)独ソ戦のパルチザンですよね。ナチスドイツに対してソ連の人たちが立ち上がった。それが今ウクライナの人たちが立ち上がってロシア軍と戦っている。歴史の皮肉を感じます

 

 

 

■2015年ころから物資を入れた隠し倉庫を作って侵略に備えていた

パルチザンの実際の活動内容を具体的に聞いた。政府の職員でもあるジェムチュゴフさんは日中普通に生活し、活動は主に夜中だ。過去にはロシアの政府要人の暗殺も行った経験があるという。 元パルチザン ヴォロジーミル・ジェムチュゴフさん 「駐車場に停めてあるロシアへの協力者の自動車に夜中のうちに地雷を仕掛ける。ひもを引っ張って磁石で車の底に付けるだけ。難しいことはないです。(中略)ロシア軍の補給を遮断するという指示もありました。ロシアから占領地域に入ってくる鉄道の線路を月に3回ほど定期的に爆破します。橋や通信施設も爆破しました。(パルチザン用の武器弾薬の入手は)特殊部隊が夜中にドニプロ川をボートで渡り隠し倉庫を作ります。物資を埋めて印をつけ、位置情報をパルチザンに伝えます。パルチザンはそれを掘り出して持ち帰ります。(中略)侵攻された2月以前から準備は進めていました。地雷、通信機器、武器、お金、食料、衣服など隠し倉庫に事前に用意していたのです。2015年ころから侵略に備えていたのです。ハルキウ・ヘルソン・ルハンシク・ドネツクこの4州では今年も去年も隠し倉庫が作られました」 パルチザンの主な役割は3つだ。 (1)    要人暗殺 (2)    拠点破壊 (3)    敵の位置情報を提供 中でも3つ目の位置情報の入手と提供は、高軌道ロケット砲システム『ハイマース』の有効活用に欠かせない重要任務となっていた。 元パルチザン ヴォロジーミル・ジェムチュゴフさん 「ハイマースが届いてからはカラシニコフの代わりにスマホを使うようになりました。侵略者がいる兵舎、弾薬庫、司令部などの位置をパルチザンが入手して位置情報を当局に提供します。その情報をもとに軍はハイマースで毎日正確な攻撃をするのです」 敵の位置を正確に調べ、グーグルマップで確認、それをパルチザン専用アプリで軍に送信するというシステムができていた。連日ハイマースによるピンポイントの重要拠点攻撃が報じられていたが、パルチザンの活動の賜物だったのだ

 

 

 

 

 

■「“これを許したら祖国がなくなるんだ”という気概」

パルチザンの存在と活動はロシア軍にとって大きな脅威となっている。そのためロシアによる“パルチザン狩り”が活発化している。早朝、大勢の警察や親衛隊が来て小さな町を包囲し、パルチザン狩りが始まる…。こうして捕らえられたパルチザンは約1500人。現在ロシアの刑務所に入れられているという。 それでもウクライナの人たちは危険なパルチザンに身を投じる。無理やり動員されいきなり戦場に連れてこられたロシア兵とは根本的に違う。 防衛研究所 兵頭慎治 政策研究部長 「大義の違いが決定的な士気の差になっている。ロシア側はよく言われますが“何のためにこの戦争やってるんだかよくわからない”っていうのが末端の兵士の本音。が、ウクライナ側は“これを許したら祖国がなくなるんだ”という気概をもって市民が積極的に参加している」

■ゲリラ戦の教科書があった

パルチザンの存在が一つの原因ともいえるロシア軍の苦戦。これにはゲリラ戦の教科書ともいえるものがあった。ROC=抵抗活動戦略と呼ばれる300ページのもの。2013年にアメリカの特殊部隊が欧州で活動するための兵士に向けて体系化したもの。これは、元々ジョージアにロシアが侵攻した時に具体的に作り始め、クリミア併合の前年に明文化されたものだという。 ほとんどの住民が協力できるものとしては、今回効果を出している情報を味方の軍に伝えること。さらにそこから進んで、道路標識を付け替えたり、撤去したりして敵軍を混乱させること、道にガラスを撒くなど、ゲリラ戦のやり方が詳しく書かれている。そして最後は破壊活動に参加することと書かれている。そしてウクライナはロシアが攻めて来る前から準備を進めていたのである。 元陸上自衛隊東部方面総監 渡部悦和氏 「ROCができて、平時の段階から何をしなければならないか、例えば国民一人一人が何をしなければならないか、そして危機の際は個々人が何をすべきか、有事の時はどうするかの役割もマニュアル化してある。個人だけでなく、インテリジェンス機関だったらどうするのか、あるいは法執行機関では何をすべきか、などありとあらゆることが準備されている。ホールオブガバメントというのがROCの根本的な核心にあることなんです。」 (BS-TBS 『報道1930』 11月10日放送より)

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