8Kなど最新フォーマットに対応、サウンドマスター監修のHi-Fiサウンド

デノン新AVアンプ「AVR-X3800H/X2800H/X580BT」は大ヒット間違いなしの良作だ! 評論家4名が魅力を徹底解説

2022/10/08

 

 

 

鴻池賢三/岩井 喬/海上 忍/折原一也

 

 

 

 

最先端技術や新しいフォーマットを一歩先に搭載するデノンのAVアンプらしい高機能に加え、音質設計はサウンドマスターの山内慎一氏が全モデルを担当するなど、音質もグレードアップ!

今期はエントリーからミドルクラスの刷新となったが、どれも力の入った良作ばかりだ。そこで今回は4名の評論家によるクロスレビューを行い、3つの新製品の魅力を明らかにしたい。

 

 

左から「AVR-X3800H」「AVR-X2800H」「AVR-X580BT」

 


サウンドマスターの山内氏が3機種すべてを音質設計!(編集部)

先進の機能性と高音質の追求で確固たる地位を築き、豊富なラインナップの中からユーザーがピッタリの1台を見つけられるデノンのAVアンプ。5年連続でブランド総合シェア1位と、名実共に不動の人気を誇るのも頷ける。今期はエントリーからミドルクラスが刷新。上から「AVR-X3800H」「AVR-X2800H」「AVR-X580BT」の3機種が登場する。

そもそもデノンのAVアンプは3つの開発ポリシーを掲げている。ひとつは「最新のAV規格にいち早く対応すること」。その通りに今期から全モデルが8K対応を果たし、最エントリーの580でもHDR10+やゲームのHDRフォーマットであるVRRやQFTにも対応する。

ふたつ目が「ストレートデコード」。ダビングステージの音の再現である。デノンの音の番人であるサウンドマスターの山内慎一氏が、3モデルすべて開発初期段階から深く関わっているのが新しく、同氏、同ブランドが理想とするサウンドコンセプト「Vivid& Spacious」をさらに追求している。

最後が「充実した接続性と使い勝手」である。純粋に接続端子が豊富であったり、わかりやすいGUIを備えたりするが、Amazon Musicなど各種ストリーミングサービスに対応するなど音楽リスニングの機能も充実している。Bluetoothは受信だけでなく、580以外は送信にも対応する。こうした各モデルのスペックアップはもちろん、AVアンプらしい多機能な点もブラッシュアップされている。

こだわりの音質はさらに磨きをかけ、先進的な機能を惜しみなく投入する。価格帯別にターゲットがわかれる3モデルだから、個性も様々。そこで今回は4名の執筆陣がそれぞれの視点で鋭く斬り込む

 

 

機能も音も一段上! 日本初登場の3000番台「AVR-X3800H」

 

9chパワーアンプ搭載AVアンプ「AVR-X3800H」:181,500円(税込)/2022年10月中旬発売予定

 


■いまほしい機能をすべて搭載  text by 鴻池賢三

 

Amazon Musicなどで配信されている3Dオーディオ「360 Reality Audio」に、デノンのAVアンプとして初対応。Auro-3DやIMAX Enhancedに対応するのは本機以上からだ


日本初登場となる3000番台を冠した「AVR-X3800H」。今期の新製品の中では最上位モデルとなるが、デノンの全ラインアップを見渡すとミドルハイクラスに位置づけられる。筆者が注目したのは、機能面。サラウンドデコードを強化した点が目を引く。フォーマットはDolby AtmosやDTS:Xに加え、Auro-3Dといったイマーシブサウンドに加えてIMAX Enhancedや360 Reality Audioにも対応するところが弟機のAVR-X2800Hとの差別化ポイント。

内蔵パワーアンプは9chだが最大11.4chまでデコードでき、マルチchプリアウトも本機以上から搭載する。音場補正は高度な「Audyssey MultEQ XT32」に対応するが、有償で「Dirac Live」による音響調整も利用可能だ。この点は刷新されたDSPの潤沢な処理能力を生かした仕様だ。

2chでも感じる情報量の多さは、マルチchのイマーシブサウンドの立体再現も新次元に。ただ包まれるだけではなく、音がシャープで位置情報も非常に多彩。上下、左右、前後と、空間に音が高密度かつ精密に配置され、ホログラムを見るような表現力は圧巻だ。もちろん、音は単発ではなく自由に動き、時間軸の変化も。本機は、縦横無尽に移動する音の軌跡が見えるかのような領域に達している。
 


■Hi-Fiモデルに通じる音質設計  text by 岩井 喬

 

内部のパターンニングを変更するなど、パーツメーカーと共同開発したパワートランジスタを搭載する。シャープな音像とフォーカス感などの実現を目指して採用した、山内氏こだわりのパーツ


私が注目したのは音響設計面。そもそも山内氏がAVアンプに本格的に携わるようになったのが2021年発売の「AVC-X8500HA」と「AVR-X1700H」の開発から。その際にメーカーと共同開発したパワートランジスタを本機用にチューニングするなど、山内氏の開発経験が惜しみなく盛り込まれている。

独自ネットワーク技術「HEOS」を搭載するため、ハイレゾストリーミングのAmazon Musicも再生できるし、USBメモリー再生でも192kHz/24bit・PCMまでに加え、5.6MHz・DSDまで再生が可能。大型トランスや大容量コンデンサーによる余裕を持った電源設計と、ELNA社製高音質グレードのコンデンサーをはじめとするより上質なパーツやワイヤリングまで再検討。より太い基板のパターン、GND拡張など、Hi-Fiモデルに通ずる音質チューニングは枚挙にいとまがない。

サウンドは価格帯の水準を超える空間再現性を実現。AVR-X2800Hより解像感やS/N、空間表現力の点で優っており、USBメモリー再生では密度が高く、しなやかできめの細かい管弦楽器の旋律を引き出す。音像のフォーカスがよく、ボーカルもくっきりと爽やかに描かれる。分離よく締まりのあるサウンドだ。
 


■瞬発力があり力強くドライブ  text by 海上 忍

 

サラウンドのデコードなど、様々なデータ処理を行うDSPに、AVC-X8500HAよりも高性能なアナログ・デバイセズの「Griffin Lite XP」を採用する


デノンのAVアンプ全ラインアップの中ではミドルハイクラスに位置付けられるモデルだけあって、駆動力が高く力強い。最大出力215Wの9chディスクリート・パワーアンプは、電源からアナログ段、デジタル系に至る細部までコンデンサーなど部品を見直したことが奏功してか、爆発音のような瞬発力が問われる音を軽々とこなす。

Dolby Atmosのトレーラー『Amaze』も、過年の上位モデルに迫る再現力といってよい。Official髭男dismのDolby Atmos音源(シングル『Universe』の特典ディスク)も高さ方向の空間が広々とし、ライブコンテンツとして説得力がある。

その余裕は、DTS:Xなど非Dolby Atmosコンテンツでも発揮される。11.4chというプロセッシングチャンネルの多さに加え、上位モデルのものを上回る演算性能の32bit DSP「Griffin Lite XP」の効果だろう、サラウンド音場の広がりと緻密さがいい。映画『インターステラー』のワームホール突入シーンにおける船室内の臨場感・閉塞感は、Auro-3Dによるアップミックスの威力を思い知らされた。IMAX Enhancedのサポートなど最新規格への対応もしっかりした充実の1台だ。
 


■時代の先をゆくフル8K対応  text by 折原一也

 

AVアンプはHDMIセレクターの役目も担うが、本機は6入力すべてが8K対応。出力はeARCにも対応するので、テレビで受信したDolby Atmosコンテンツも再生可能だ


新登場の3モデルすべてが8K対応になったが、特に8K/4K120Hz対応、最大40Gbps伝送のHDMI入力を6系統も備える映像スペックは圧倒的だ。サブウーファーが4基も接続でき、さらに柔軟なアサインが可能な11.4chデコード機能に加え、多彩なイマーシブサウンドにも対応するなど、本機未満のモデルとの機能差が大きくなるので購入の際はご注意を。なお、僕は読者の多くが視聴しているだろうNetflixを用いて試聴を行った。

まず『スパイダーマン:ホームカミング』(5.1ch配信)では、BGMから漂う映画のスケール感やキレのよい音が生み出す実在感、体を震わせるような重低音のパワー感まで、そのすべての再現性が下位モデルとは桁違い!

『ストレンジャー・シングス 未知の世界』シーズン4(Dolby Atmos配信)ではサラウンド空間が視聴室の広さすら突破して、映画館を彷彿とさせるくらいどこまでも遠く広がる。雷鳴は空高く鳴り響き、そして鮮明で情報量豊富な効果音がスリリングな展開を巧みに演出していた。まさに、デノンのサウンドポリシーである「Vivid&Spacious」を形にしたサウンドともいえよう。本機は、映像配信ともベストマッチなAVアンプといっても過言ではないだろう。
 


Specification
●定格出力:105W+105W(8Ω/20〜20,000Hz/THD 0.08%)●入力端子:HDMI ×6(8K対応)、デジタル音声(光×2、同軸×2)、RCAアナログ音声×5、PHONO×1、USB-A×1 ほか ●出力端子:HDMI×3(8K対応)、11chプリアウト、サブウーファー×4 ほか ●外形寸法:434W×167H×389Dmm ●質量:12.5kg

リビングシアターに最適なスタンダード機「AVR-X2800H」

 

7chパワーアンプ搭載AVアンプ「AVR-X2800H」:121,000円(税込)/2022年10月中旬発売予定

 


■本格シアター向けの基本機能を搭載  text by 鴻池賢三

 

テレビとプロジェクターを両方使う方に便利なHDMI2出力を搭載。入門機にはない仕様だ!

 


イマーシブサウンドに対応した7chアンプ搭載の「AVR-X2800H」は、3800の音響設計手法を踏襲しつつコスパを高めたミドルクラス。Auro-3Dなどのこだわりの規格こそ搭載しないが、HDMI出力を2系統搭載するなどホームシアターの基本的な機能を網羅している。

サウンドは入門クラスと比較してしなやかさが加わり、音にコクのような深みが生まれるのが印象的。それでいてキレがよく明瞭さも失わない。この「音質のよさ」はサラウンド表現にも有利。イマーシブ効果により広がり感が増すが、スピーカーが増えても「混雑」のような感覚を覚えない。これはチャンネルセパレーションのよさがなせる業で、アンプ回路の設計思想を感じ取れるものだ。
 


■大音量時のパワフルさを実感  text by 岩井 喬

 

パーツの吟味だけでなく、内部ワイヤーをツイストするなど、細部までこだわるのが山内流!

 


本機の音質設計思想は3800と同様。各部パーツを音質対策品に置き換えつつ、ワイヤリング方法やビス、緩衝材など、細部まで見直すことでトータルのサウンドクオリティを向上させている。電源も余裕があり、大音量時のパワフルさを実感。AVR-X580BTに比べて余裕のある伸びやかさとS/Nのよさが得られる。空間の広さもより感じられ、96kHz/24bit音源のオーケストラは潤いよく余韻もスッキリと表現。

DSD音源ではピアノの響きも低域側まで安定し、ボーカルの口元もスッと浮き立つ。マルチch再生ではBGMの低域も太くリッチで、銃声や爆発音のSEも適度な硬さとキレ、厚みを持たせている。アトモスの音場は空間移動も自然で分解能も高い。
 


■上位機譲りの音質設計  text by 海上 忍

 

本機のオーディオサーキット。ドライブ能力を高める目的でDACの出力段にオペアンプを搭載し、DAC性能を引き出している


最大出力185Wの7chディスクリート・パワーアンプを搭載する本機は、理想的な回路レイアウト設計を実現するためにカスタム電子ボリュームを採用するなど音質面で妥協がない。ドライブ力を高めるためDACの出力段にオペアンプを追加し、さらに温度変化によるノイズと歪みが小さい薄膜抵抗をDACセクションに採用するなど、音質を支えるパーツの多くも3800と共通なだけに、瞬発力や低域の力強さはいい勝負だ。

NetflixのDolby Atmosコンテンツ『ウィッチャー』を試聴したが、上方向から触手が振り下ろされるなど、方向感がしっかり感じられた。5.1.2chというDolby Atmosの基本構成にフィットする、“ワンランク上”を目指せるモデルだ。
 


■弟機からの音質向上が大きい  text by 折原一也

 

8Kアップスケーリング機能を搭載するので、2Kコンテンツも8K相当で楽しめる


7chのアンプや8K/4K120Hz対応は、リビングシアターでワンランク上を目指す人にとってド直球のスペックだろう。8KもHDMI出力だけでなく、8Kアップスケーリングの機能も搭載するため、ディスプレイに合わせた解像度で表示できるのも魅力だ。

サウンドは弟モデルのAVR-X580BTから音質向上が凄まじく大きかったことをまずお伝えしよう。爆音がまるで体に伝わるような轟音のパワーが感じられ、移動する効果音のシャープさも優秀。『ストレンジャー・シングス シーズン4』も空間を立体的に見通せる。NetflixでもDolby Atmos作品が増えてきたので、映像配信派の方でも最高の条件を揃えるなら本機以上が目安だ。
 


Specification
●定格出力:95W+95W(8Ω/20〜20,000Hz/THD 0.08%) ●入力端子:HDMI×6(8K対応×3/4K対応×3)、デジタル音声(光×2)、RCAアナログ音声×4、USB-A×1 ほか ●出力端子:HDMI×2(8K対応)、サブウーファー×2 ほか ●外形寸法:434W×167H×341Dmm ●質量:9.5kg

 

 

 

 

 

 

エントリーらしからぬ本気仕様の意欲作「AVR-X580BT」

 

5chパワーアンプ搭載AVアンプ「AVR-X580BT」:58,300円(税込)/2022年9月下旬発売予定

 


■爽やかさと力強さを併せ持つ  text by 鴻池賢三

 

スピーカー端子はプッシュ式だった前機種からスクリュー式にグレードアップ


「AVR-X580BT」は鮮度が高く、ストレートで勢いのある音が印象的。歌声は明瞭かつフレッシュで、歌唱シーンも心に沁みる。信号経路を短く、そしてストレートにと、シンプルに徹したよさが感じ取れ、物量面で限界のある低価格モデルの特性を逆手かつ最大限に生かした機知に富む音づくりといえる。

レンジの広さも、この価格とは思えない。入門クラスに相応しくライトさを爽やかな表現に振り向け、ダイナミックで聴き映えするサウンドは見事。5.1chモデルながら、マルチでは背景が静かで、空間の見通しのよさが透明感として現れる。音の分離がよく、効果音の輪郭が明瞭で、音数の多さによる賑わいも魅力。マルチチャンネルの楽しさを堪能できる優秀モデルだ。
 


■アイデア勝負で音質を向上  text by 岩井 喬

 

入門機でもオーディオ級のパーツを使えるのは、生産数の多い大手らしい取り組みだ


低価格であることを感じさせないサラウンドの魅力を凝縮した一台。コストの制約を逆に信号経路の短縮につなげることでピュアな伝送を試みた意欲作だ。

内部の配線やビスなどの細やかなチューニングやディスクリートパーツを投入などHi-Fiモデル並みの基板レイアウトにした点は上位機と同じ思想。それに加えて各チャンネルにDACを割り当てる「ディファレンシャルDAC」構成を取り入れるなど、パーツを大量購入してコストダウンする大手らしい取り組みで高コスパを追求している。

2ch再生では管弦楽器の潤いよく艶やかな旋律を滑らかにまとめ、低域の伸びもゆったりと耳馴染みよく表現。ボーカルは適度な厚みを持たせたウェットな描写である。
 


■入門機とは思えない濃い1台  text by 海上 忍

 

音の影響を受けやすいアナログ部をノイズ発生源から離すなどレイアウトにもこだわる


最大5.1chとAVアンプとしてはミニマム構成ながら、ワイヤーを減らしたパワーアンプ基板を新規設計し、信号経路の短縮をここでも行っている。また音に影響を及ぼす振動が発生してしまう電源トランスを、ノイズの影響を受けやすいアナログ部から離すようにレイアウトするなど、音へのこだわりを随所に感じさせる点が嬉しい。

高さ方向の再現力は9ch、7chモデルと比べられないものの、Official髭男dismのディスクはDolby TrueHDで再生できるから、サラウンド感は十分。リニアPCM 5.1chやDolby Audioもサポートするから、Netflixの『ウィッチャー』も立体感を楽しめた。エントリー機らしからぬ“濃さ”を感じさせる1台だ。
 


■リアル5.1chの力を実感  text by 折原一也

 

フロントパネルは高級感のあるヘアライン仕上げ。さすがデノン、細部までこだわっている!


3機種の中で僕が最も驚いたのは本機だ。その理由はコスパの高さだ。まず映像部はHDMI入力の4系統すべてが8K/4K120Hz対応という豪華スペック。HDMI基板を上位機種と共通化している側面もあるだろうが、パーツの安定供給という安心感が伝わってくる。

また経路の最短化の一貫で、上位機と同様にカスタム電子ボリュームを搭載。USB/BluetoothのDACもスペックアップし、S/N比を向上させるなど、入門機を使うユーザーを見据えたグレードアップは好感が持てる。

サラウンド再生も素晴らしく、エネルギー密度が高く、スケールの大きさを感じる広がりのあるサウンドなので、音の距離感もよくわかる。リアル5.1chの実力を実感するモデルだ。
 


Specification
●定格出力:70W+70W(8Ω/20〜20,000Hz/THD 0.08%) ●入力端子:HDMI×4(8K対応)、デジタル音声(光×2)、RCAアナログ音声×2、USB-A×1 ほか ●出力端子:HDMI×1(8K対応)、サブウーファー×2 ほか ●外形寸法:434W×151H×330Dmm ●質量:7.6kg

 



本記事は「季刊 ホームシアターファイルPLUS Vol.14 2022 AUTUMN」からの転載です。本誌の詳細は

 

 

 

 

デノン新AVアンプ「AVR-X3800H/X2800H/X580BT」は大ヒット間違いなしの良作だ! 評論家4名が魅力を徹底解説 (4/4) - PHILE WEB