防衛施設の工事現場は「スパイ天国」? 作業員の身元確認は十分か
佐藤 斗夢
日経クロステック/日経コンストラクション
防衛施設の工事現場は「スパイ天国」? 作業員の身元確認は十分か | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com)
2022年10月3日から始まった臨時国会では、 23年度予算の概算要求で過去最大規模となった防衛費を巡る議論が交わされる予定だ。自衛隊駐屯地・基地など防衛施設の強靱(きょうじん)化が重点化施策の一つ。ライフラインの二重化といった各種工事が急ピッチで進むことが見込まれる。だが現状のままでは、セキュリティー対策が不十分な状況で工事がなされる恐れがある。
自衛隊による滑走路の早期復旧訓練の様子。23年度予算の概算要求には、こうした施工能力の強化の他、施設の強靱化が盛り込まれた(写真:航空自衛隊)
「防衛施設の工事に作業員が入れなかったという話は、ほとんど聞いたことがない」。防衛省の担当者は、こうつぶやく。防衛施設の工事におけるセキュリティー対策は、防衛省が担う。その対策は十分なのだろうか。
防衛省では、入札条件に国内の工事実績を求めるなど、国内事業者の受注を想定する。ただし、現場作業員に関しては、受注者経由で本人確認する程度だ。現場となる自衛隊駐屯地・基地でも、現場作業員への厳しい身辺調査などの踏み込んだ対応はしていない節がある。23年度から適用する新たなサイバーセキュリティーの基準においても、現場作業員は対象から外れる可能性が高い。
このことは、日本の安全保障を脅かすスパイ行為の恐れがないかなど、個人の適性を評価し、身分の信頼性を確認する「セキュリティー・クリアランス(適格性評価)」制度の不備を意味する。
インテリジェンス(情報収集・分析)問題に詳しいサイバーディフェンス研究所(東京・千代田)の名和利男専務理事は、「安全保障の領域におけるクリアランス制度の整備は、他の領域に比べて遅れ気味。国防に直結するにもかかわらずだ」と指摘する
世界各地の建設現場でスパイ行為
クリアランス制度の整備が進む領域としては、核物質の防護がある。例えば、核燃料サイクル事業を手掛ける日本原燃では、外部の作業員が施設に立ち入る場合、テロ防止のために徹底した審査を課す。住民票や公共料金の領収書など関連書類の提出を求めて数日間、慎重に調査を重ね、個人面談を実施する。
安全保障領域に限らず、建設現場でのスパイ行為は、世界各地で発生している。エチオピアの首都アディスアベバで12年に完成したアフリカ連合(AU)本部ビルは、建設時に中国の資金援助を受け、情報通信機器などの内部設備も同国製を導入。そうした設備を通じて、中国本土に機密情報が送信されていた疑いが持たれている。
「通信インフラの工事などに作業員としてスパイが紛れ込み、光ファイバーから盗聴するケースがある」と、イスラエルのネットワーク機器を中心に輸入販売を手掛けるアイランドシックス(東京・千代田)の江副浩代表取締役副社長は話す。光ファイバーにほんの少し傷を付け、そこから漏れる光を復調して情報を窃取するのだ。13年に米政府のスパイ活動の実態を暴露したエドワード・スノーデン氏は、英国の情報機関が同様の手段で、他国高官の個人情報を収集していたと証言している。
「立法府が責任を果たしてほしい」と、名和専務理事は要望する。日本周辺国のミサイル技術の強化などを受け、防衛施設の強靱化は不可欠だ。国会は防衛費増額を巡る議論の際、その施設整備時のセキュリティー対策にも目を向けてほしい。この種の議論を軽んじてはならない時代が来ている