ウクライナ避難民女性と日本人の身元保証人にトラブル続発 78人が日本から出国

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ウクライナ避難民女性と日本の身元保証人でトラブルも(写真は日本に到着したばかりのオレーナさん(左)と保証人)

 

 

 

 戦地を免れ、命からがら辿り着いた地から、また逃げ出すことになるとは。日本に避難したウクライナ人女性と、身元保証人男性とのトラブルが続発、避難先を離れざるを得なくなる事例が相次いでいるという。ノンフィクションライター・水谷竹秀氏がレポートする。【前後編の前編】 【写真】レンガ積みの駅舎、屋根のないホームに数千人が集まっているウクライナの駅

 * * *  盆明けの8月16日、在日ウクライナ大使館領事部に、次のようなメールが届いた。 「できるだけ早くウクライナに戻れるように手伝ってください。もうこの国にいたくありません。早く帰りたいです。私は肉体的、精神的にとても疲れています。外国人に対する日本人の態度にはうんざり。助けてください」  送信者は、ウクライナ北部出身のオレーナさん(仮名、30代)。4月5日、林外相を乗せた政府専用機で来日した避難民20人のうちの1人だ。  以来、彼女は地方の農村部で暮らすことになった。来日当初、その姿は地元のテレビや新聞などで大きく報じられた。地域の住民たちと触れ合うオレーナさんは、カメラに向かってこう抱負を述べる。 「みんな親切です。会うたびにサポートや心優しい言葉を掛けてくれます。だから何よりもまず、日本語の勉強を始めたい」  戦禍の母国を逃れ、安全が確保された日本で避難生活を送りたい。そんな期待を抱いたオレーナさんだったが、来日から4か月後には大使館にSOSを発信していたのだ。その2日後には、ウクライナに帰国した。彼女に一体、何が起きたのか。  出入国在留管理庁によると、日本がウクライナの避難民受け入れを始めた3月上旬からこれまでに来日したのは1882人(9月14日時点)。このうちオレーナさんを含む78人がすでに日本を出国していた。その理由は確認していないというが、同庁出入国管理課の担当者は、こんな事情を明らかにした。 「避難民のトラブルは報告されており、中には身元保証人からの支援を受けられず、困窮して国の支援の対象になったケースもあります」  身元保証人とは、日本での滞在費、帰国旅費、法令の遵守を保証する人だが、法的責任はない。一般的には親族や友人、知人が申請するが、ウクライナ避難民の場合、面識がほとんどなくても身元保証人になっているケースもある。この保証人とのトラブルが原因で、出国する避難民が相次いでいるというのだ。その1人が、オレーナさんだった

 

 

 

コントロールされた生活

 そこは人里離れた山間部にある一軒家だった。 「ここで一緒に暮らすんだ。いいね?」  オレーナさんは、身元保証人の日本人男性、高田さん(仮名、50代)からそう告げられた。高田さんは、ある大学の准教授で、ウクライナの避難民を支援する基金の中心人物だ。  来日早々、オレーナさんは高田さんと同じ屋根の下で暮らすことになったのである。ウクライナからオンライン取材に応じた彼女は、こう振り返る。 「私はかつて日本に行ったことがあり、共通の知人を介して高田さんと知り合いました。それで今回、保証人になってもらったのですが、まさか一緒に住むとは。本音を言うと望んでいませんでした。ですが私には選択肢がなかったので、全てお任せという気持ちでした」  当時は連日、ウクライナ戦争の報道が過熱していた。そんなタイミングでの来日だったため、早速、テレビや新聞社からの取材が相次いだ。 「ウクライナの現状を伝えたいという気持ちはありましたが、戦争で精神的にダメージを負っている上、大変な思いで避難をしてきました。そんな中で毎日のように色々と聞かれては思い出し、忙しいのがストレスでした」  取材に難色を示すと、高田さんから「これは大事なこと。きちんと答えないと支援が来なくなるでしょ」と窘められた。オレーナさんが言う。 「生活を含めて全体的にコントロールされているような気分でした」

 張り切っていた日本語の勉強は、教室が週1回2時間しか通えない上、高田さんの都合が合わないと参加できなかった。普段のコミュニケーションは、政府支給の音声翻訳機を使っていたが、それでは意思の疎通にも限界がある。  中でも困ったのは、インターネットが通じない環境だ。整備するよう高田さんに頼んだが、対応が鈍かった。母国に残した両親のことが気がかりだったため、自己負担でスマホを設定してやり取りした。 「病院に行きたいと伝えた時も、叶わなかった。免許も車もないので自分から動けないのです」  単身でやって来た異国での田舎暮らしに、戸惑いや孤独を感じていた。いつかは慣れるだろうと思いきや、そこには意外な展開が待っていた。

 

 

 (後編につづく) 

 

 

 

【プロフィール】 水谷竹秀(みずたに・たけひで)/1975年、三重県生まれ。ノンフィクションライター。上智大学外国語学部卒業。新聞記者やカメラマンを経てフリーに。2004~2017年にフィリピンを拠点に活動し、現在は東京。2011年『日本を捨てた男たち』で開高健ノンフィクション賞を受賞。ほかに『だから、居場所が欲しかった。』『脱出老人』など。 ※週刊ポスト2022年10月7・14号

 

 

 

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ウクライナ避難民女性と日本人身元保証人にトラブル続出 色恋からこじれるケースも

 

 

 

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ウクライナから国外へ避難した人は1000万人以上にのぼるという(写真/AFP=時事)

 

 

 

 戦地を免れ、命からがら辿り着いた地から、また逃げ出すことになるとは。日本に避難したウクライナ人女性と、身元保証人男性とのトラブルが続発、避難先を離れざるを得なくなる事例が相次いでいるという。ノンフィクションライター・水谷竹秀氏がレポートする。

 

【前後編の後編。前編から読む】

 

 

  【写真】日本に避難してきたウクライナ人のオレーナさん(ボカし処理あり)

 

 

 

 

 

 

 * * *  ウクライナから国外へ避難した人数は9月13日時点で約1270万人、帰国した避難民は約575万人に上る。ウクライナでは18~60歳の男性の出国が禁じられているため、避難民の多くは女性や子供たちで、隣国のポーランドをはじめとする欧州で暮らしている。こうした女性たちの中には、避難先の男性と出会い、「禁断の恋」に陥る者も少なくない。キーウ在住の日本語通訳者、リュバさん(29)がこんな実情を明かす。 「ドイツに避難した私の友人の親戚は、浮気をしてしまいました。しかも一緒に連れている子供の面倒を他人に任せて男性と会っているようで、困ったと言っていました。そういう話はよく聞きます」  来日した避難民1882人のうち、女性は75%の約1400人と大半を占める。若い世代も多く、日本で頼れる身元保証人が男性であれば、恋愛関係に発展しても決して不思議ではないだろう。オレーナさんも来日してから1か月半が経過した頃、高田さんと恋仲になった。 「彼の方から誘って来たので、そういう関係になりました。私も好意を寄せていました。それからは一緒の部屋で寝ていました。近くには彼しかいないし、誰かに守って欲しかった」  以来、高田さんが優しくなったという。 「ただ、彼は人前では、私との交際を隠していました。自分は先生だから、真面目に振る舞わなきゃいけない、日本はそういうところなんだと」  ところが関係は長くは続かなかった。オレーナさんがある日、高田さんのスマホのメールを覗くと、別の女性と交換していたメッセージにキスマークが添えられていたという。問い詰めると、言い争いになった。以来、喧嘩を繰り返し、高田さんとの同棲が嫌になって隣の女性宅へ移った。  このままここで生きていくべきか。自問した結果、ウクライナへ戻ることを決めた。帰りのチケット、そして基金からの支援金10万円を受け取り、オレーナさんは帰国の途に着いた。 「ウクライナを支援しますと言いながら、こんなにひどい人だとは思わなかった。彼は偽善者です」  これに対し高田さんは、こう反論する。 「共通の知人からオレーナさんを受け入れて欲しいと頼まれたから受け入れました。同じ家に住むのも、全く問題ないと。取材に関しては、彼女が嫌だと言ったのは断っていました。地域の人たちで協力して彼女の面倒を色々見たのに……。彼女のころころ変わる言動には我々も振り回されました」

 

 

 

 

 高田さんの基金にはこれまでに1200万円の寄付金が集まった。その中心人物でありながら、避難民と関係を持った事実については「まずかった」と認めながらも、こう釈明する。 「僕は独身ですから。メンタル面も含め、一緒にいたら情も湧きます。結婚前提の付き合いを考えていました。ただ、携帯のメールを勝手に何度も見られたのは嫉妬の域を超えている。問題になったメールへのキスマークはありません。彼女の被害妄想です」  続けて医学者という高田さんは、オレーナさんのこんな内情を明かす。 「彼女は来日当初からPTSD(心的外傷後ストレス障害)を抱えていました。雷が鳴ると空爆音に、風切り音が空襲警報に聞こえ、精神的に不安定でした。幻覚も出ました。全ての原因は彼女の病気にあります」  病気についてオレーナさんに尋ねると、彼女はウクライナに帰国後、「精神に異常なし」という医師の診断書を取得し、私に送ってきた。  最初は純粋な気持ちで始まったはずの避難民支援──。男女の関係に発展しなければ、ここまでこじれなかったのではないか。

 

 

 

 

 

1週間で逃げ出した

 恋仲にならずとも、身元保証人とウクライナ避難民の関係はやはり難しい。前者が航空券や滞在費などの金銭的負担をする場合、そこには必然的に上下関係ができてしまうからだ。  6月末に来日したアナスタシアさん(仮名、40代)は、ウクライナ南部の同郷の友人とともに地方で避難生活を送った。場所は、身元保証人の吉本さん(仮名、60代)が経営する小さなホテルだった。ところがオレーナさんと同じく、来日直後から報道陣に押しかけられ、戸惑った。 「取材については事前に知らされていませんでした。翌日も朝から『インタビューだよ』と起こされ、気分が乗りませんでした。保証人は単に注目を浴びるために、私たちを広告塔として利用したのです」  ある時、吉本さんからこう怒鳴り散らされた。 「お金をたくさん使って支援をしているのだから、俺の言うことを聞け!」  これ以上の滞在は危険と判断したアナスタシアさんたちは、出入国在留管理庁などに支援を求め、遠く離れたビジネスホテルへ「避難」した。吉本さんのもとに滞在したのはわずか1週間だった。  吉本さんは、暴言を吐いた事実は認めたものの、こう主張する。 「寄付者の善意を断ろうとしたので、つい強く言ってしまいました。それに私は彼女たちの渡航費やビザ代、国内の交通費、ホテル代など総額100万円近くを負担していました」  日本財団は渡航費支援を実施しているが、避難民がいない今、必要書類を提出できないため、支給はされそうもない。自治体にも掛け合ったが支給は断られ、全額自己負担になった。あまりのあっけない幕切れに、憤りを隠せない。 「これまでやってきたことは何だったんだろう」  アナスタシアさんはその後、元いた自治体から支援金25万円を受け取り、日本語を勉強しながらホテルに無料で宿泊している。 「ホテルから出されるお弁当も飽きてきました。働くこともできないし、散歩して暇を持て余しています。そろそろウクライナに帰りたいです」  群馬県では5月、ウクライナ避難民の親子が身元保証人の滞在先から失踪した。関西地方でも8月末、やはり身元保証人とのトラブルから3人が帰国しており、来日した避難民のその後は明暗が分かれている。  欧州に追随する形で日本政府がぶち上げたウクライナの避難民支援。その受け入れ体制には徐々に綻びが出始めている。

 

 (了。前編から読む) 

 

 

 

【プロフィール】 水谷竹秀(みずたに・たけひで)/1975年、三重県生まれ。ノンフィクションライター。上智大学外国語学部卒業。新聞記者やカメラマンを経てフリーに。2004~2017年にフィリピンを拠点に活動し、現在は東京。2011年『日本を捨てた男たち』で開高健ノンフィクション賞を受賞。ほかに『だから、居場所が欲しかった。』『脱出老人』など。 ※週刊ポスト2022年10月7・14号

 

 

 

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