ベビー用品業界で“独り勝ち”の西松屋。撤退する他社との違いは「立地とコスト削減」

 

 

bizSPA!フレッシュ

 

 

 

 

 

 日本の出生数が減少するなか、ベビー用品大手小売の西松屋が過去最高の売上高を記録しています。しかし、ベビー用品に関連する企業が総じて調子が良いのかというとそうでもなく、事業からの撤退を決めたメーカーもあるようです。小売とメーカーの違いがあれど、なぜこういった結果になったのでしょうか。各社の決算内容から原因を探っていきます。

 

 

 

西松屋チェーン:コロナ禍でも絶好調

 株式会社西松屋チェーンは、ベビー用品販売の「西松屋」を運営する企業です。赤ちゃん・小児用品の小売事業を専門としており、店舗は全国に展開しています。幹線道路沿いにあるホームセンターのような郊外型店舗が特徴です。2021年にはオンラインストアをオープンさせたほか、近年ではPB商品の開発にも積極的なようです。2019/2期から2022/2期までの業績は次の通りです。 【株式会社西松屋チェーン(2019/2期~2022/2期)】 売上高:1382億円→1430億円→1594億円→1630億円 営業利益:36億円→19億円→121億円→123億円 最終利益:22億円→11億円→83億円→85億円 店舗数:1004店→1006店→1009店→1036店

150億円以上の増収を確保

 

 

 

 

 コロナ前の2020/2期は従来通り、北海道から沖縄まで全国に展開する方針を続けました。新規出店41店舗に撤退39店舗、店舗数では2店舗増となっています。同年は手ごろな価格のPB商品の売上が堅調で、増収に貢献。しかしPB商品投入のほか、全体では値下げを実施したため売上総利益が減少し、営業利益・最終利益は共に減益となっています。  2021/2期はコロナ禍でありながら150億円以上の増収を確保しました。36店舗の新規出店に加え、前年に引き続きPB商品の売上が堅調に推移したようです。郊外型という店舗の特徴も増収に寄与したと考えられます。  なお、同社は利益面でも好調です。「複数店管理店長制度」の導入や物流の効率化など、低コスト化に向けた施策が功を奏し人件費や物流費を抑えることができました

 

 

 

 

新規出店×オンライン販売×PB商品が軸に

 西松屋は2022/2期も好調が続き、売上高は過去最高を記録しました。人気となっている低価格なPB商品の強化に加え、小学校高学年向けの商品も取り扱ったことで客層拡大に努めました。また、2021年11月にオープンさせた自社運営のオンラインストアも増収に寄与しています。一方、それ以上の高効率が図れないためか利益は前年同等の水準となりました。  郊外型店舗という特徴とPB商品の好調によってコロナ禍でも成長し続けることができた西松屋。新規出店×オンライン販売×PB商品を軸に今後も成長を見込んでおり、2023/2期は売上高1700億円を予想しています。

 

 

 

ピジョン:実は海外比率が大きい

 

 ピジョン株式会社は、

 

さく乳器やベビーカー、ベビーフードなどの赤ちゃん用品メーカーです。商品を小売事業者に供給するほか、自社ECサイトも運営しています。

同社の事業セグメントは

日本事業、

中国事業、

シンガポール事業、

ランシノ事業

に分類されています。  

 

 

日本事業はベビー用品製造の他、託児・介護支援サービスが含まれており、中国事業は中国・韓国を対象としたベビー用品事業が含まれています。シンガポール事業は同国および東南アジア向けのベビー用品事業です。ランシノ事業は傘下企業が提供する母乳パッド、さく乳器などの「ランシノブランド」に関連した事業で、欧米・中国が主な対象エリアです。2019/1期から2021/12期までの業績は次の通りです(※2019/12期から決算期変更)。 【ピジョン株式会社(2019/1期~2021/12期)】 売上高:1047億円→1000億円→994億円→931億円 営業利益:196億円→171億円→153億円→133億円 最終利益:142億円→115億円→106億円→88億円 日本事業:(セグメント異なる)→484億円→450億円→383億円 中国事業:356億円→373億円→377億円→372億円

インバウンド需要が消滅し苦しむも…

 2019/12期は減収となっていますが、12か月に換算するとやや好調です。同年はインバウンドの落ち込みで国内がやや軟調となりましたが、中国事業では主力の哺乳瓶類の売上やEC販売が堅調となりました。

 

シンガポール事業、

ランシノ事業も継続した営業活動により伸びたようです。なお、2019年度におけるインバウンド落ち込みの影響はドラッグストア業界など他業種でも見られました。  翌2020/12期は特に国内事業が落ち込みました。

 

訪日外国人による売上がほぼ消滅し、インバウンド依存度の高い商品群の売上が減少しました。かたや、中国事業は現地の経済活動の回復が早かったためか堅調に推移しました。EC販売の好調も中国事業の増収に寄与しています。

 

ランシノ事業はEC販売が堅調だったものの、コロナ要因で実店舗での売上が減少し、減収となりました。  2021/12期はさらに売上高が減少することになります。国内事業ではインバウンド需要消滅に加え、前年度の売上高に寄与していた消毒・衛生関連商品の特需が落ち込んだことで大幅な減収となりました。

 

中国事業も前年の好調が一巡したほか、再びコロナの影響を受けたことで軟調となっています。シンガポール、ランシノ事業はそれぞれ営業活動による拡大、EC販売の堅調が牽引しましたが、全社業績を伸ばすには至りませんでした。  近年の業績は特に国内事業の悪化が目立ち、同事業におけるインバウンド依存体質があらわになりました。中国事業は年度ごとに売上高が上下し、シンガポール・ランシノ事業は営業活動を継続するも大きくは伸びていないようです。

 

 

同社は2022/12期売上高を950億円と予想しており、やや回復すると見ているようです

 

 

 

 

 

キムラタン:アパレル事業が主力だが…

 

 株式会社キムラタンは、

アパレル事業とその他事業を展開しています。

 

主力のアパレル事業ではベビー・子供服や関連雑貨の製造販売を行っており、

店舗はショッピングセンター・デパートの中に店舗を置く「インショップ業態」、

テナント店を構える「テナント業態」と両業態の店舗を展開しています。

その他事業は、新事業として始めた保育園事業やウェアラブル事業が含まれますが、ほぼ収益化できていません。2019/3期から2022/3期までの業績は次の通りです。

 

 

 

 

 【株式会社キムラタン(2019/3期から2022/3期)】 

 

 

売上高:40.4億円→49.2億円→47.1億円→42.4億円 営業利益:▲6.2億円→▲4.6億円→▲4.4億円→▲5.6億円 最終利益:▲6.5億円→▲5.8億円→▲4.2億円→▲8.9億円 店舗数:256店→249店→223店→217店

ECの売上高が増加も全社業績を支えるには至らず

 

 2020/3期は第4四半期におけるコロナの影響と天候不順により既存店の販売が不調となりました。赤ちゃん・子供向けのシューズ・ソックス類を生産する「中西」を子会社化したことにより大幅な増収となりました。しかし、前年同様、売上に見合わない販管費を抱えており、赤字が続きました。  2021/3期はコロナにより主力の既存ブランド店で10%近い減収幅なったほか、テナントショップは商業施設の臨時休業が影響し、売上が落ち込みました。巣ごもり需要に支えられたECの売上高は23%増えたものの10.6億円と全体売上高に対する比率は低く、全社業績を支えるには至りませんでした。  翌2022/3期はさらに業績が悪化。度重なるコロナ波と緊急事態宣言によりインショップ、テナントショップ業態店がともに減収となり、EC販売も前年の反動で落ち込みました。実店舗の減収は大型商業施設に対する依存度が高いことに起因します。

早々に実店舗を畳んでいれば…

 コロナ禍で追い風となるはずだったEC販売の落ち込みについては、同社の広告施策が失敗していることが考えられます。早々に実店舗を畳んで費用を抑え、捻出した資金をECにおけるキムラタンの認知度向上につなげていれば別の結果になっていたかもしれません。赤字が続いたため2022/3期末時点で自己資本比率が28.5%から3.8%と危険水準に落ち込みました。  今後について同社は、2022年末までに約220の店舗のうち210店舗を畳むとしており、すでに筆頭株主となっている清川浩志氏および、同氏がトップを務める株式会社レゾンディレクションの指導のもと、不動産事業に転換するそうです。  レゾンディレクションは企業再生を主事業としています。キムラタンは2023/3期業績について、売上高40億円・利益の黒字化を見込んでいますが、アパレル企業としてのキムラタンは幕を閉じることになります。

少子化からは避けられない国内事業

 

 3社の動向を見ると、西松屋は郊外型店舗という特徴と徹底したコスト削減によりコロナ禍でも増収増益を維持することができました。

 

一方、商業施設に依存するキムラタンは認知度の低下もあって業績が悪化し、別業種への転換という結果になりました。  

 

 

西松屋は2023/2期も増収を見込んでいますが、国内では少子化が続いており、現在の事業形態のままではやがて規模縮小を迫られることでしょう。

 

 

その点、海外でも一定のブランド力を有するピジョンは生き残ることができそうです。

 

 

 <TEXT/経済ライター 山口伸 編集/ヤナカリュウイチ(@ia_tqw)>

bizSPA!フレッシュ 編集

 

 

ベビー用品業界で“独り勝ち”の西松屋。撤退する他社との違いは「立地とコスト削減」(bizSPA!フレッシュ) - Yahoo!ニュース