義務を果たさず権利ばかり主張する部下──という悩みの原因

御供田 省吾/組織営業総研 代表
 
 
 

経営者や管理職であれば、人材育成に取り組む中で、特に若い世代に対して「どうしてそんな考え方(行動)になるのか」「どうしてこんなことも分からないのか」と嘆きたくなった経験が誰しもあるでしょう。私がこれまでにコンサルタントとして多くの若い世代と接して分かったことは、彼らは具体的に教わったり客観的に考えたりしたことがないだけだということです。彼らと対話をしながら考え方や捉え方を整理していけば、上司が嘆く原因の大部分は解消します。今回は、最近よく耳にする上司の嘆きの中身を分析しながら、考え方と対応方法を解説していきます。

 

視点を変えて考えさせる

「どうして、やるべきことをやる前に権利ばかり主張するんだ……」

 こんな困惑した思いから、「部下(特に若い部下)が一体何を考えているか分からない、どう対応すればよいのでしょうか」という悩みを相談されることは珍しくありません。ビジネス誌やネットなどでもこの手の悩みはよく目にしますし、私自身も管理職時代にこのように思った経験もありますので、困惑する上司の方のお気持ちは分かります。

 このような「義務を果たさず権利ばかり主張する部下」という課題を解決するため、私がコンサルタントとして部下世代の若いビジネスパーソンたちと多くの対話を重ねて分かったことがあります。それは、上司にとっては当たり前の感覚である「組織で働く上では、権利を主張する前に義務(求められている、なすべきこと)を果たすべきだ」という優先順位付けや「権利と義務はどちらか一方だけを主張してはいけない」という点を、若い人たちがしっかりと理解できていないということでした。研修で教えた内容かもしれませんが、それでも問題になる時は、指導される側(部下)が正しく理解できていなかった可能性が高いのです。(伝え方という点で前回のコラムを参考にしてみてください)

 悩みを相談してこられた上司に、このように基本的なところから理解できていないことが多いという話をすると「そこから教えないとだめなんですか……」と驚かれたり、困惑されたりします。しかし、事実がそうである以上は部下としっかりと話をするしかありません。ちなみに、実態としては部下も全く分かっていないわけではなくて、自分の事情を優先するあまり、自分が果たすべき義務が先だということに考えが及ばない場合がほとんどです。従って、上司が改めて本来あるべき考え方や捉え方を対話によって伝えることができれば、「確かにそうですね」と納得もしてくれます。

「自分が社長だと仮定した時、義務を果たさず自分の権利を主張する社員ばかりだと会社はどうなると思う?」
「自分が社長なら、義務を果たす前に権利ばかり主張する社員をどう思うだろうか?」

 このような「自分の今の立ち振る舞いを、上司やその他の視点から見たとすれば?」といった問いかけを通して、異なる立場から客観的に現状を見るように促すことも有効です。この時に、叱りつけては反発するだけなので、「対話」というスタンスを取るように気をつけてください。多少の課題を持っているとしても皆さんの会社が定めた入社試験などをパスしてきた人材ですから、改めて話せば理解できるはずです。

 事実、上司が「部下の考えていることが分からない」と困惑している事例であっても、私が部下の方と膝を突き合わせて対話(繰り返しますが、説明・説得ではなく対話であることが大事です)すると、ほとんどの場合、理解、納得してくれて認識のズレは解消されます。部外者の私が対話することで解決できるわけですから、日々接している上司にできないはずはありません。ただし、レアケースですが誰が話をしても理解不能な人材はいます。それは自社とのマッチングができていなかったということなので、採用のフィルタリングを見直すべきでしょう。

 ちなみに、皆さんの会社の新人研修では、こういった義務と権利の話に始まり、「新人へ払われる給与は何の対価なのか」「新人ビジネスパーソンとして正しい在り方、行動とはどういうものか」といった、組織の一員としての在り方や考え方についてもしっかりと教えていますでしょうか。名刺交換の仕方や社内システムの使い方など業務ルールばかりに終始していないでしょうか。こういう在り方や考え方について話をした上で、「会社に仕事の成果で貢献する前の君たち新人の人件費コストは、会社からすれば赤字の状態であり、まずは1日も早く給料分に見合う仕事ができるようになっていこう」と伝えることが大切です。それを当人たちが理解・納得できているだけでも日々の意識は変わります。

 弊社で担当する新人研修でも、こういった「実は誰も教えてくれていない、ビジネスパーソンとして当たり前の在り方や考え方」を伝えることを大事にしています。こうすることで、受講した新人の配属後の仕事へのスタンスがガラッと変わります。もしこういうことを最初の研修段階で明確にメッセージとして伝えていなかったのであれば、今年の新人から始めてみてはいかがでしょう

 

 

 

上司として自分の認識のズレを疑ってみる

「自分にできることが、必ずしも他人にできるわけではないし、自分の当たり前もまた、必ずしも他人の当たり前ではない」

 こうやって文章に書いてみると、別になんてことはない至って普通の考え方、視点です。きっとこの2つのポイントに違和感を持つ人も少ないと思います。ところが日々接する部下に対して、頭の中からこれらのポイントが抜けてしまう上司がいます。特に、マネジメントがうまくいっていない組織の管理職・経営者は、この傾向が強いというのが私の率直な感覚でもあります。

 例えば、「権利を先に主張する部下への困惑」も根底にあるのは同じことです。「権利を主張する前に義務を果たすといったことは部下も当然分かっているはず」という前提があるために、自分の想定と違う結果に「なぜ?」と思ってしまうのです。

 人材育成や営業力強化のコンサルティングをしていると、「なんで〈そんなこと〉もできないんだ」「いや、普通○○するだろ」といった、認識がズレている時の定番フレーズを上司が口にしている場面によく遭遇します。これは実は、上司にとっての仕事をする上での「当たり前」の価値観や考え方に対して、部下とのズレを無意識に感じているからこそ出てきた可能性が十分にあります。日常を振り返ってみて、確かにそんなフレーズを口にすることがあると思い当たる方は、部下と「当たり前」の部分にズレがあると疑ってみたほうがよいでしょう。

 経営者と幹部など、一緒に仕事をしてきた期間が比較的長い関係でもこうしたズレは起こりがちです。だからこそ現場の管理職と部下の間に認識のズレが生まれるのはある意味仕方ありません。大事なのはそのズレをどう改善していくかです。今後そのような場面に遭遇した場合、まず自身の考え方を一方的に伝えるのではなく「どこの認識がズレているのだろうか?」という視点を持ちましょう。その上で自分と考えがズレている原因に関心を寄せながら対話をすることで、問題は解決していくと思います。

 ここまで上司と部下の間で、考えの前提や価値観のズレによるコミュニケーション問題が起きた時の対応についてお伝えしてきましたが、本来は基本的な考え方や物事の捉え方などにズレのない状態が理想です。その状態をつくり、維持するためにも、仕事上の「当たり前」「価値観」「ルール」などを、日ごろから部下に伝えて共通認識化しておくことが重要です。

 ここで注意すべきは、上司として共通認識化すべく「発信できているか」ではなく、結果として「部下と共通認識化できているか」です。仕事上の「当たり前」「価値観」「ルール」などを共通認識化する責任は上司の側にあり、伝わっていないのは「理解できない部下が悪い」のではなく「経営者・管理者である自分の伝え方が悪い」という視点で組織マネジメントを考えましょう。そうすれば結果的に組織がうまく回るようになるはずです。

 

 

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御供田 省吾(ごくでん しょうご)氏 組織営業総研 代表

御供田 省吾(ごくでん しょうご)氏
組織営業総研 代表

キーエンス入社後、一貫してコンサルティング営業に従事。自ら考案した営業手法が「現場発の売れる仕組み」として全社的に紹介されるなど、独自の視点からのコンサルティング営業スタイルを確立。同社の営業エリア責任者を経て、日本最大級の不動産情報サイトを運営するLIFULL(旧NEXT)に入社。若手が成果を出しながら成長する組織を独自の手法でつくり上げ、次世代の現場マネジャーを輩出した。同社営業部門責任者を経て、人・組織の成長がクライアントの業績向上につながるよう支援をするコンサルタントとして組織営業総研を起業、現在に至る