孤高では生き抜けないEV大競争 ホンダが選んだ「現実主義」

ホンダの決断(3)

 

橋本 真実

日経ビジネス記者

 

これから電気自動車(EV)競争に本格参戦するホンダ。年間の世界販売が407万台(2022年3月期)と世界の自動車メーカーの中で中規模の同社が「1000万台クラブ」のトヨタ自動車や独フォルクスワーゲン(VW)と同じ土俵に上がるのは容易ではない。規模のハンディーを他社とのアライアンス(提携)で補いつつ、次世代電池など最先端技術の開発では一歩も引かない。堅実さと意地の戦略で巨人たちに食らいつく

 

 

 

 

「2階に上げて、はしごを外す」

 ホンダの開発現場でよく聞こえてくるフレーズだ。厳しい環境や後戻りできない状況に技術陣をあえて追い込み、極限の状態で知恵を絞らせる。苦しい場面に発揮される個人の力を信じる文化が、社内には今も根強く残っている。

 「社外の人から見れば、『2階じゃなくて10階だろ』と思うかもしれません」。こう話すのは、ホンダの研究開発(R&D)子会社、本田技術研究所で全固体電池の開発を率いる梅津健太氏だ。将来の電気自動車(EV)向け電池の本命と目されている全固体電池。EV競争の行方を左右する先端技術を巡り、ホンダも自主開発に力を注ぐが、そう簡単にゴールまでたどりつけるものではない。

本田技術研究所(栃木県芳賀町)では、ホンダがEVへの搭載を目指す全固体電池の研究開発が進む(写真:的野弘路)

本田技術研究所(栃木県芳賀町)では、ホンダがEVへの搭載を目指す全固体電池の研究開発が進む(写真:的野弘路)

 栃木県芳賀町にある本田技術研究所(栃木)。ある研究棟の一角で、ツンとした匂いが立ち込める中、白衣に身を包んだ研究者が材料の調合を試している。四輪車や二輪車を設計する自動車メーカーの雰囲気ではなく、まるで化学メーカーの研究室のようだ。

 ここで開発しているのが全固体電池だ。現在EVで主流となっている液体リチウムイオン電池に比べ、充電1回当たりの航続距離を伸ばせる一方、充電時間を短縮でき、安全性も高くなる。電池価格の大幅な低減にもつながる技術と期待され、自動車大手が開発競争でしのぎを削る。

 
 
 
孤高では生き抜けないEV大競争 ホンダが選んだ「現実主義」:日経ビジネス電子版 (nikkei.com)