角田郁雄のオーディオSUPREME
エソテリック「Grandiosoシリーズ」は外部クロックでさらなる高みへ。「K1X」×「G1X」を自宅でテスト!
2022/08/08角田郁雄
オプションでさらなるグレードアップも!Grandioso K1Xをさらに追い込む
オーディオSUPREME、今月のテーマはエソテリックGrandiosoシリーズのさらなるグレードアップについてご紹介しましょう。自宅の2階のリスニングルームでは、世界のいろいろなブランドのモデルたちを組み合わせ、仕事から離れ、趣味としてのオーディオを楽しんでいます。長く愛用できそうなモデルを選ぶことにもこだわっています。
角田氏の2Fのリスニングルームでは、仕事を離れて趣味としてのオーディオを追求している
その部屋に、2年ほど前にエソテリックの「Grandioso K1X」が加わりました。選んだ理由は、驚愕級の高精度重量級トランスポート、VRDS-ATLAS(13.5kg)と独自のディスクリート構成のMaster Sound Discrete DACを搭載したことにあります。さらに、強力な電流強化型バッファーESOTERIC-HCLDにより、従来の枠を超えた緻密かつ濃厚な音楽を堪能させてくれたからです。
エソテリックのSACD/CDプレーヤーの一体型フラグシップとなる「Grandioso K1X」。インテリアとのマッチングも考えゴールド仕上げバージョンを選択
「Grandioso K1X」は信号の流れが配慮されたその本体レイアウトにも惚れ込み、各基板に精密さも感じました。本体のデザインもエレガントで、光のあたり方で輝きが変化し、まさにオーディオマインドが掻き立てられます。さらに、一体型SACDプレーヤーであるにもかかわらず、オプションによる拡張性を備えていたことも重要な決め手となりました。
そのオプションの第1弾は、外部電源装置「Grandioso PS1」でした。これにより、左右独立でプレーヤー内部のDACとアナログ出力段に個別の高品位電源を供給します。プレーヤー内部の電源は、トランスポート用とデジタル制御用だけが動作し、外部電源が加わることで、トータルで6電源装置により動作させることになります。
Grandioso K1X専用の外部電源ユニット「Grandioso PS1」(1,320,000円/税込)
私はこの考え方に強く共感し、Grandioso PS1を導入することにしました。導入直後は明らかに解像度や空間描写性が進化し、音に厚みが増してダイナミックレンジの拡張や音の透明度、立ち上がりの向上も実感できました。
しかし、それが約1年も経過すると様子が変わってきます。音が濃厚になり、アナログ再生ともハイレゾ再生とも質感の違う、奏者の実在感に溢れた音楽を堪能させてくれます。音的には、中低域に厚みを感じさせるピラミッドバランス型の音で、高解像度であるのにもかかわらず、それを意識させない濃厚な響きを堪能させてくれます。
往年のアナログ録音によるバーンスタイン指揮、ニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団によるブラームスやベートーヴェン、マーラー等の復刻SACD盤を再生すると、あたかもアナログテープレコーダーで再生しているかのような感覚になります。
レナード・バーンスタイン指揮、ニューヨークフィルハーモニー管弦楽団「マーラー:交響曲全集」
思い返してみますと、同社はオープンリールテープレコーダーの音を今でも大切にしています。ですから、再生するCDのオリジナルマスターがデジタル録音であるか、アナログ音源であるかにかかわらず、テープレコーダー再生のような滑らかで豊潤な倍音を再現し、テープの再生限界を超える高密度でダイナミックレンジの広い、躍動感に溢れた音楽を実現しているように思えてなりません。この音には、きっとアナログ再生好きの愛好家も惚れ込むことでしょう
ディスクリートで構成、超大型のクロック・モジュールを搭載
ここまで来ると、3筐体によるシステムを完結したくなります。同社の10MHzマスタークロックジェネレーター「Grandioso G1X」を導入したくなりました。そこで1ヶ月ほどお借りし、自宅で試すことができました。
上から「Grandioso K1X」「Grandioso PS1」(ゴールド仕上げ)「Grandioso G1X」(シルバー仕上げ)。K1Xのグレードアップシステムが勢揃い
このGrandioso G1Xの大きな特徴は、完全自社開発のクロックモジュール、Master Sound Discrete Clockを搭載していることです。写真でご覧のとおり、かなり大型のユニットです。
内部には、円形のメタルキャン・タイプの水晶発振器がありますが、これは「ESOTERIC SC1」という、ゆっくりと成長させ、SCカット(Stress Compensated Cut)された水晶発振器です。オーディオ機器ではATカットによる発振器も多いですが、このSCカット水晶は恒温槽(オーブン)で温度制御され使用されます。同社では、振動(発振)を最適に制御するため、量産品としては最大のサイズの水晶を実現したとのことです。中心周波数変動も規格内のものを厳選しています。
Grandioso G1Xに搭載される「Master Sound Discrete Clock」モジュール
驚くことは、最適な温度で保温するために、真空断熱層を備えた恒温槽を開発したことです。分かりやすく説明するなら、一定の温度に保つ魔法瓶のような構造です。温度を制御するヒーターは128ステップの多段階ヒーター制御で、この細かな調整により、ヒーターON/OFF時の電源変動による発信器への影響を低減させたとのことです。発信器自体も微妙な固有特性がありますから、個別のデータ・シートに合わせて最適な温度になるよう、制御プログラムでオーブンを制御するそうです。
Grandioso G1Xの内部構造。右にクロックモジュールを搭載、温度を一定に保つ独自の技術が盛り込まれている
受注生産品のように数時間もかけてエージングされるため、1日に数台しか生産できないそうです。このクロック・モジュールから電流強化型バッファー、ESOTERIC-HCLDを使用した分配器により、高精度な10MHzクロックが出力されます。
内部配線は50Ωのインピーダンス特性を重視した同軸ケーブルで、内部は高周波測定器のように精密に製作されています。5系統のBNC出力端子がありますが、使用する端子のみをONにできることに好感を持ちます。使用状態は、フロントのLEDで表示されます。また常時クロック・モジュールに通電し、いつでも最適なパフォーマンスが得られるように、プリヒート機能も装備しています。
Grandioso G1Xの背面パネル。端子ごとに「ノーマルモード」「アダプティブ・ゼログラウンド」「OFF」を設定できる
もう一つ興味深いことがあります。それは、一般的なノーマルモードの他に、基準電位となるグラウンドを常に0Vにするアダプティブ・ゼログラウンド・モードが選択できることです。これらの技術と使用方法は、他に類を見ない内容と言えるでしょう。これらを駆動する電源部も発振回路、ヒーターなど独立した4系統で、各部との干渉を排除し実に高品位です。
奏者の実在感がさらに鮮明に。空間描写に優れた濃厚な音を体験
さて実際にセッティングして再生してみました。大きく変化したことは、
ステージが明らかに拡張し、
奏者の実在感をさらに鮮明にしたことです。
高域から低域まで再生レンジが高まった印象も受け、
一枚も二枚もベールを剥いだような、極めて透明度の高い演奏の臨場感が体験できます。
精度が高く位相ノイズ極小のクロックにより、DACの変換特性が高まり、
ノイズフロアに埋もれそうな微細音まで浮き彫りとなり、
音楽に一層の深みを感じさせます。
一般的なCDを再生すると、CDとは思えない空間描写性に優れた濃厚な音が体験できます。
次にアダプティブ・ゼログラウンド・モードに切り替えました。すると、楽器や声のアタック感がなくなり、自然な音の立ち上がりへと変貌しました。インパルス応答波形のプリリンギングとポストリンギングが排除されたような感じがします。繊細さや柔らかさが鮮明となり、
特に
イザベル・ファウストの 『シェーンベルク:ヴァイオリン協奏曲』
では膨らみのある木質感たっぷりの響きが体験できます。
ヴォーカル曲では温度感のある声質が体験できます。
イザベル・ファウスト「シェーンベルク:ヴァイオリン協奏曲」
ジャズファンなら、アナログ再生と同質か、それ以上のシンバルやブラスの響きに驚かされるかもしれません。このように、2つのモードにより音質変化が楽しめることにも感激しました。しかも、常時プリヒートしておくと、長期エージング効果によりさらに音質が向上します。この音質特性は、もちろんミュージックサーバーをUSB接続したハイレゾ再生にも反映されます。
トルド・グスタフセン・トリオ「Opening」
私は、この音、このスケールの大きな音楽にすっかり魅了されました。少し時間がかかると思いますが、末長く愛用したいので、Grandioso G1Xを導入し、システムの完結を達成したいと思うところです
エソテリック「Grandiosoシリーズ」は外部クロックでさらなる高みへ。「K1X」×「G1X」を自宅でテスト! (2/2) - PHILE WEB