資産は2.5兆円超え。暗号通貨の天才は、寄付するために稼ぐ

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30歳の誕生日を前に、サム・バンクマン=フリードの資産は2.5兆円を超えた。「寄付するために稼ぐ」という彼が信奉する哲学、「効果的な利他主義」とは何か。 「僕の目的は効果のある寄付をすることだ」 スティーブ・ジョブズは自身のシンプルで洗練された製品にこだわっていたし、イーロン・マスクは自身の事業が人類を救うと主張している。しかし、サム・バンクマン=フリードは違う。「寄付するために稼ぐ」という信条から暗号通貨のゴールドラッシュに参戦した。始めはトレーダーとして、続いて取引所の創設者として、ただ金もちになれることがわかっていたというだけの理由で。何か別の方法で─例えばオレンジジュースの先物取引で─もっと大金をためられると思ったら、暗号通貨から手を引くか問われると、「ああ、引くね」と即答する。 バンクマン=フリードの暗号通貨取引所FTXは、トレーダーがビットコインやイーサリアムなどのデジタル資産を売買できる場で、昨年7月にはコインベース・ベンチャーズやソフトバンクなどから9億ドルを資金調達し、その評価額は180億ドルになった。また、暗号通貨投資家がひと月に手がける額面価額3兆4000億ドル分のデリバティブ取引(主に先物とオプションだ)の約10%を扱っている。FTXはこうした取引の平均0.02%を手数料として手に入れており、この1年で約7億5000万ドルのほぼリスクフリーの収益を─そして3億5000万ドルの利益を─上げている。それとは別に、バンクマン=フリードの暗号通貨取引会社のアラメダ・リサーチも、昨年、時宜を得た自社の取引によって10億ドルの利益を計上している。バンクマン=フリードは、最近ではテレビにも出演するようになり、ビットコインの価格や規制、デジタル資産の未来について自身の見解を述べている。 「業界にとってはとても奇妙で落ち着かない、はざまの時期なんだ」と語る。「世界の半数の国で先行きが極めて不透明な状態だからね」 6年前には、バンクマン=フリードはまだ1ビットコインの暗号通貨も購入したことがなかった。それが現在では、純資産額225億ドルで、マーク・ザッカーバーグを除けば、歴史上、これほど若くしてこれほど金もちになった人間はほかにいない。皮肉なのは、彼が暗号通貨の「伝道者」ではないということだ。ほとんど信者ですらない。何より金のために働く人間であり、可能な限りの大金を稼ぐことに心血を注いでいるが(方法はあまり問わない)、すべてはその大金を寄付するためだ(寄付先や寄付時期ははっきりしていない

 

 

 

「効果的利他主義」とは何か

■「効果的利他主義」とは何か 「僕の目的は効果のある寄付をすることだ」。そう語る、バンクマン=フリードの「効果的利他主義」は、シリコンバレー流のひねりを加えた慈善活動の考え方で、プリンストン大学の哲学者、ピーター・シンガーが支持しており、フェイスブックの共同創業者であるダスティン・モスコヴィッツのような人々の賛同を得ている。基本的な考え方は、証拠と理性に基づいて可能な限り絶対的に最大の善を行うことだ。通常、人は流行の理念や個人的に影響を受けた事柄に関する運動に寄付をする。一方で、効果的利他主義者はデータを見て寄付先や寄付時期を決め、その判断の基準となるのは、寄付金1ドル当たり最大多数の人が救われることや最多の所得を生み出すことといった非個人的な目標だ。ちろん、最も重要な要素のひとつは、そもそも寄付できるだけの大金を有していることである。 スタンフォード大学の法学教授を両親にもつバンクマン=フリードは、両親が西海岸の学者たちと交わす政治の議論を聞きながら育った。 2014年にMITを卒業すると、ざっくりと考えていた物理学の教授になるという考えを棚上げし、世界レベルの資産を蓄えようと仕事に取りかかった。金融業の高給職に就き、クオンツ投資会社のジェーン・ストリート・キャピタルで上場投資信託(ETF)取引を担当しながら、6桁ドル台の年俸のかなりの部分を慈善活動に注ぎ込んだ。 若くして成功を収めているバンクマン=フリードは米国で最も裕福な50人のなかでも、現金保有額が飛び抜けて少ない。スイスに銀行口座ももっていなければ、バランスの取れた株や債券の投資ポートフォリオもない。彼の資産のほぼすべては、FTX株の約半数と110億ドル超に相当するFTT 、すなわち公開市場で取引されているFTXのトークンからなる。FTTはFTX上での支払いや手数料の割引に利用でき、ギフトカードに近い。また、自身が投資しているほかの暗号通貨も、数十億ドル相当分を保有している。 そのため、これまで寄付より稼ぐほうの比重がはるかに大きくなってきたのは驚くに値しない。生涯寄付金額は2500万ドルで、有権者登録、世界の貧困緩和、人工知能(AI)の安全などの少数の慈善活動が対象となってきたが、これは換算すれば、典型的な29歳の米国人が救世軍の街頭募金バケツ(社会鍋)に15ドル押し込むのと同じだ。 「なすべきことはまだまだたくさんある」とバンクマン=フリードは認める。大口寄付は「短期的な目標ではない。長期的な目標なんだ」。 

 

 

 

サム・バンクマン=フリード

◎1992年生まれ。マサチューセッツ工科大学で物理学の学位を取得。

大学では学業よりもゲームに夢中に。

本来は物理よりも倫理や道徳に興味があったという。

22年3月現在、資産は約245億ドル(2.8兆円)と推定される。

 

 

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