血で満腹になるまでは、ライターであぶっても離れない! 最終手段は「皮膚ごと切除」…マダニ<対策実践編>
Dr.夏秋の毒虫クリニック
野山に生息し、ヒトや動物の血液を吸って生きるマダニ。今回は、できる限り被害を防ぐ方法をお知らせしたいと思います。ぜひ前回の「基礎編」(https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20220530-OYTET50037/?from=yh)も併せてご覧ください。
食い付いたマダニを取るには…
皮膚に口器を刺し込んで吸血しているマダニは、十分に血を吸って満腹(飽血状態)になるまで離れません。少々、引っ張っても取れませんし、入浴しても落ちません。たばこやライターの火を近づけるといった方法を聞いたことがある方もいらっしゃるでしょうが、マダニが取れる前に皮膚をヤケドするので、避けてください。無理に引っ張るとマダニの口器の部分がちぎれて、皮膚の中にそのかけらが残り、違和感やしこりが長く残ることがあります。 一つの方法として、先の細いピンセットでマダニの頭部をつまんでゆっくり引っ張ると、うまく取れる場合があります。マダニ除去用の器具を用いる方法もありますが、本来はペット用に販売されているものなので、それを了解した上で使用してください。これは、コツをつかめば、かなり有効なツールであることは確かです。 ただし、上記の方法は、いずれも口器がちぎれて皮膚に残る可能性があります。最も確実なのは、マダニが食い付いた部分を局所麻酔して、皮膚ごと切除する方法です。自分で除去するのが難しい場合は、早めに皮膚科を受診して除去してもらいましょう。 なお、ワセリンなどの油脂成分をマダニにたっぷり塗って20~30分間放置し、マダニを窒息させた後にピンセットで引っ張る方法(ワセリン法、夏秋法とも呼ばれる)は、以前はお勧めしていましたが、成功率は必ずしも高くありません。しかし、麻酔処置などのしにくい乳幼児の場合は、まず試す価値があると思われます。 除去したマダニは捨てずに皮膚科などに持参すれば、専門機関で口器の状態を確認して、皮膚内にちぎれた口器の一部が残っているかどうかが分かる可能性があります。また、マダニの種類を同定することで、感染症を媒介する種類かどうか判定できる場合もあります
長そで、長ズボンと虫よけスプレーで防御
マダニが皮膚に付くのを予防するためには、野外活動の際に肌の露出を避けることが大切。長そで、長ズボンの着用が原則です。そして、マダニが寄りつかなくなる虫よけ(忌避剤)のスプレーを活用しましょう。忌避剤には主に、ディートとイカリジンという成分があります。効果はどちらもほぼ同様ですが、ディートは小児への使用回数が制限されており、イカリジンには年齢や使用回数の制限はありません。 使用方法のコツは、肌にムラなく塗り伸ばすこと。2~3時間おきに塗り直しましょう。さらに、マダニが付着しやすい足元(靴、靴下、ズボンの裾など)には、衣類の上からも虫よけ剤を噴霧しておくと、かなりの予防効果が期待できます。それぞれの薬剤の使用上の注意をよく読んだ上で、上手に利用してください。
感染症を媒介することも
マダニに刺された場合、赤みやかゆみなど、何も症状が出ない場合も多いですが、時には大きく腫れることもあります。これは通常の虫刺されと同様で、個人差がありますので、皮膚症状が出た場合は皮膚科で相談してください。 マダニで怖いのは、体内に様々な病原体を持っている場合があることです。一般に、マダニが何らかの病原体を持っている可能性(病原体保有率)はとても低いのですが、マダニの種類や刺された地域によっては、まれながら、感染症を引き起こす場合があります。したがって、刺されたマダニの種類を知ることで、感染症の発症リスクをある程度、予想することができるのです。
ウイルス感染 マダニ→猫→人
西日本では重症熱性血小板減少症候群(SFTS)というウイルス感染症が知られており、感染すると1~2週間で高熱、下痢などを生じて、血液中の白血球や血小板が減ります。現時点では有効な治療法がなく、自然回復を待つしかありません。最悪の場合、死に至ることもある恐ろしい感染症です。 SFTSはマダニに刺されたネコにも感染することがあり、2017年には、SFTSに感染して弱った野良ネコにかまれた50歳代の女性が、感染して亡くなりました。野良ネコにはむやみに近づかないようにしましょう。 西日本では日本紅斑熱というリケッチア感染症も知られています。これはマダニに刺されて2~8日で高熱と全身の発疹などが出る感染症で、テトラサイクリンという抗菌薬で治療できます。しかし、治療が遅れると重症化することがありますので、早期の診断が重要です。 また、北海道などではライム病が知られています。マダニに刺された皮膚に大きな赤みが出て、発熱や 倦怠(けんたい) 感、関節痛などがみられるのが特徴です。これはボレリアという細菌による感染症で、テトラサイクリンやペニシリンなどで治療できます。欧米では被害が多く、ハリウッド俳優のリチャード・ギアさんや、カナダ出身の人気歌手、アヴリル・ラヴィーンさん、ジャスティン・ビーバーさんなども、ライム病に苦しんだと報じられています。
予防が第一
ライム病を引き起こす細菌・ポレリアを媒介するシェルツェマダニ(メス)
日本では、マダニに刺されても過剰な心配は不要で、慌てる必要もありません。まずは皮膚科で除去してもらってください。マダニに刺されたあとに熱が出た場合は必ず医療機関に相談してください。まれとはいえ、マダニによる感染症には注意が必要です。そして何よりも、マダニに刺されないよう、野外活動の際には十分な対策をとってください。(夏秋優 皮膚科医
血で満腹になるまでは、ライターであぶっても離れない! 最終手段は「皮膚ごと切除」…マダニ<対策実践編>(読売新聞(ヨミドクター)) - Yahoo!ニュース