【防衛費増額は少なくともドイツ並みに】

 

シンクタンク国家基本問題研究所の「今週の

直言」に掲載された月刊「正論」発行人、有

元隆志の論考です。

 

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岸田文雄首相は23日のバイデン米大統領と

の首脳会談で、日本の防衛力を抜本的に強化

し、防衛費の「相当な増額」( substantial increase)

を確保する決意を伝え、共同声明にも盛り

込まれた。これまで岸田首相は防衛費につい

て「金額、結論ありきではなく、現実的な議

論の結果として必要なものを(予算に)計上

する」(1月21日の参院本会議答弁)と述べ

るにとどまっていた。それに比べると、踏み

込んだ発言とは言えるが、具体的な数字には

触れなかった。

自民党の安全保障調査会(会長・小野寺五典

元防衛相)が4月末に首相に提出した提言で

は、加盟国の防衛予算を「対国内総生産(GDP)

比2%以上」とする北大西洋条約機構(NATO)

諸国の目標を念頭に、「5年以内に必要な予算

水準の達成を目指すこと」を明記した。小野

寺氏は5月に訪米し、米政府当局者らに提言

を説明した。概ね歓迎されたが、「日本を取り

巻く安全保障環境はドイツ以上に厳しい。

2%では足りない」との感想も米側から漏れ

た。

ドイツは2021年度に470億ユーロ(約6兆

1100億円)、GDP比1.5%だった防衛予算を、

ロシアのウクライナ侵略後、GDP比2%超に引

き上げることを決めた。我が国の今年度の防

衛費は補正予算と合わせると初めて6兆円の

大台に乗ったが、GDP比1.09%に過ぎない。

自民党の提言はドイツに比べると5年以内に

GDP比2%と悠長だが、それですら与党内では

公明党が慎重姿勢を示している。政府関係者

は「バイデン大統領に『相当な増額』と明言

した以上、ドイツ並みに増やすのが最低限で

はないか」と語る。ドイツのように明確な道

筋を示していくことが岸田首相には求められ

る。

首脳会談で、岸田首相は日本で来年開催され

る先進7カ国(G7)首脳会議(サミット)を

広島市で開催する意向を伝えた。首相は共同

記者会見で「広島ほど平和へのコミットメン

トを示すのにふさわしい場所はない」と強調

した。筆者は5月16日付の本欄で「ヒロシ

マ・サミット」に反対した。核廃絶を求める

ことは重要であるが、それよりも国連安理常

任理事国であるロシアが核の脅しをし、中国

は核能力を高め、北朝鮮も核武装をしている

中で、核の抑止力の重要性がむしろ増してい

る。

安倍晋三元首相は20日、国基研の櫻井よしこ

理事長が主宰するインターネット番組「言論

テレビ」に出演し、小野寺氏が訪米した際、

「ロシアなどの核に対抗し、米国が核兵器を

使用する場合はNATOや日本とも事前に相談

する」と言われたことを紹介し、「現実から目

をそらすな、核使用について共同責任でやっ

ていこう、ということだと受け止めなければ

いけない」と語った。

「核の傘」は米国任せでなく、責任を分かち

合う覚悟が求められる。

同盟関係はお互いの信頼関係が基盤である。

バイデン大統領は「日本の防衛に完全にコミ

ットする」と表明したが、日本がそれに安住

している時代は終わったのである