英紙の報道「日本の伝統文化“混浴”が一部の下心ある男性によって消滅の危機にある」

クーリエ・ジャポン

日本から「混浴」の文化がなくなってしまうかもしれない Photo: iplan/a.collectionRF Getty Images

 

 

江戸時代に生まれた日本独自の文化「混浴」。いまこの混浴が、迷惑な男性客の増加によって消滅の危機にある。湯船から女性客を探す不気味な様子は、まるで「ワニ」だと英紙「ガーディアン」が報じる。 日本には昔から、温泉場で男女がともに同じ湯舟に浸かる「混浴」という文化がある。ところが、一部の男性客による行動が不快感を招き、混浴を利用する女性が減っている。 混浴では、更衣室の引き戸がガタガタと開く音がしたら、慎み深く顔を背けて、湯気が立ち上る天井を見上げ、複雑に張り巡らされた天井の梁をじっと眺めなくてはならない。 とはいえ、そんな気遣いは不要だった。ここは群馬県の山あいに位置する140年の歴史を持つ温泉場。疲労回復の効能を持つお湯に浸かっている英紙「ガーディアン」の記者に仲間入りをしようとしていたのは、2人の男性だったからだ。 由緒のあるこの浴場は、女性専用となる1日2時間をのぞけば、男女問わず入浴が可能なのだが、混浴とは名ばかりのようだ。記者は4時間ものあいだお湯に浸かっていたが、そのあいだにやってきたのはみな男性客だった。 女性客がいなかったことが、日本メディアの「混浴に関する報道」が事実であることを裏づけているらしい。日本では、男女が同じ湯舟に浸かる「混浴」は、めったにお目にかかれない文化的風習と化してしまうおそれがあると報じられている。とりわけ、裸で入浴するよう決められている混浴ではなおさらだ。

「ワニ」の存在にご注意を

混浴が消えつつある原因として非難を浴びているのが、「ワニ」と呼ばれる迷惑行為の増加である。「ワニ」は、湯舟に長時間浸かって、女性客が入ってこないかとしきりに目を光らせている男性客についたニックネームだ。 「つねづね頭を抱えているんです」。ある温泉の経営者は朝日新聞の取材でそうこぼした。温泉業を営む人々は、一部の男性客によるそうした犯罪行為への対応に苦慮しているようだ。 そんな下心を持った男性客のせいで、たとえ身内だろうと、男性と一緒に入浴するのを嫌がる女性が増えている。そのため、温泉業界と行政当局は、新たに工夫を凝らして混浴文化を守る必要に迫られている。 男女がともに入浴できる施設は現在、推定で500ヵ所。1200ヵ所以上が存在した1993年より大幅に減っている。 「問題は男性客です」と話すのは、弁護士の小林裕彦氏だ。国内のおすすめ温泉をまとめた著書もある温泉エキスパートでもある。 「男性の入浴客が女性に『どこから来たの』と話しかけることもあります。お酒が入ったときほど、そんな行動に出ますね」と小林氏は「ガーディアン」紙に語った。 仕切りを設けて、男性客が女性客と同じお湯に浸かりながらものぞき見できないよう、配慮している浴場もある。スペースを男女別に分けられない場合には、温泉客に体の一部を覆うよう求める。 ただ、そうした制限があると、ミネラルが豊富に含まれた温泉にじっくりと浸かって得られる解放感が半減すると、温泉を純粋に愛する人は話す

 

 

中には「混浴推進」の取り組みも

青森県の酸ヶ湯温泉では、そうした窮屈さを気にする人はいないようだ。酸ヶ湯温泉には混浴の大浴場があり、男性客はひざ丈のトランクス、女性客は肩紐付きのゆったりしたワンピース型の「湯あみ」を着て入浴することもできる。これは、環境省が先頭に立つ混浴推進の取り組みの一環だ。 「これを着ていればジロジロと見られる心配はありません。のんびり浸かって温泉を楽しめます」と女性客は話す。 多数の温泉が湧いている東北地方の自治体が参加した調査では、女性の75%が「混浴に入りたくない」と回答。しかし、「入浴客全員が湯あみ着で体の一部を覆っていれば抵抗感はない」と答えた人は81%だった。 ほかの温泉地も同様の対策を取り入れている。先ごろ湯あみ着を試験的に導入したある温泉経営者は、「下心」を持った入浴客の防止効果が確認できたので、湯あみ着を定着させたいとの考えを示した。西日本のある温泉では、湯あみ着の使用を義務づけたところ、女性客が10%から80%に増加したという。 「湯あみ着の使用を奨励することで、ほかの客に見られているのではないかという不安が和らぎ、世代や性別に関係なく、混浴文化をふたたび楽しめるようになればいいなと考えています」。温泉業界の関係者は読売新聞にそう語っている。

温泉の魅力が失われつつある

男女が裸で一緒にお風呂に入る混浴が広まったのは江戸時代(1603年から1868年)で、明治時代の1890年に政府が混浴を禁止するまで続いた。伝えられるところによると、来日する外国人、とりわけ厳格なキリスト教徒のアメリカ人が日本国民の品行を誤解するのではないかと懸念したようだ。 混浴が復活したのは第2次世界大戦後だ。米軍の空襲で壊滅した都市の住民たちは、お湯が使えるところなら、どこであろうと入浴せざるを得なかった。近所の人たちの前で裸になる必要があっても、仕方がなかったのだ。 とはいえ、当局側の不安は消えなかった。東京では1964年に10歳以上の混浴を禁止。1964年と言えば、東京オリンピックが開催された年だ。2022年1月には、東京都内の公衆浴場における混浴年齢制限が7歳に引き下げられた。 30年間で約3000ヵ所の温泉を巡った小林弁護士に言わせれば、温泉での入浴マナーが悪化した原因は、他人に対する思いやりの欠如だ。これは日本の社会全体を悩ませている問題でもある。 「禁止されていなければ、自分の好きなように行動してもいいと考えられているのです」と小林弁護士は話す。 「1854年に日本が開国して外国人がやってきたとき、彼らを驚かせた日本文化のひとつが混浴でした。けれども、当時の日本人は寛容で、他人を敬う気持ちを持っていました。日本社会は安全で平和だったわけです。混浴が減ったのは、社会規範が低下している証拠なのです」 仕切りの設置と湯あみ着の使用義務は、天真爛漫な体験の共有であるべき行為の価値を損なわせるものだと、小林弁護士は続ける。 「つまり、温泉そのものの魅力が失われつつあるということです。残念でなりません」

Justin McCurry