プーチンの残酷さを知る元オリガルヒの訴え「次はバルト三国かポーランドが犠牲になるだろう」

プーチンを批判するロシア元石油王ミハイル・ホドルコフスキー Photo: Matej Divizna / Getty Images

プーチンを批判するロシア元石油王ミハイル・ホドルコフスキー Photo: Matej Divizna / Getty Images

 

2000年代初頭にロシアでもっとも裕福なオリガルヒの一人だったミハイル・ホドルコフスキーは、プーチンに失脚させられた過去を持つ。野党に財政支援をしていた彼は2003年に逮捕され、所有していた石油会社も奪われ、10年間の禁錮刑を経てイギリスに亡命した。

プーチンをよく知るホドルコフスキーは、「無法者」のプーチンに対してNATOはもっと厳しい態度に出るべきだと英誌で訴える。

 

NATOのリーダーは無法者と対峙する術を持たない


私は20年近くプーチン大統領と個人的に対立してきた。その結果、私はロシアで10年間投獄され、帰国すれば終身刑という警告とともにその後追放された。

誰がそんなことをしたのか、私は知っているつもりだ。だからこそ私は、ジョー・バイデン大統領やエマニュエル・マクロン大統領、ナフタリ・ベネット首相といった西側諸国の指導者たちの敗北主義的アプローチに絶望している。

彼らの行動が有権者にどう映っているのか、私には判断できない。しかし、長テーブルの端に座っているプーチンが彼らをどう見ているかは、私にはよくわかる。

彼らはモスクワに飛び、プーチンに電話をかけ、止めるように頼む。しかし、干渉はしないし、挑発しないようにする。プーチン大統領は、これらすべてを弱さとみなす。これは非常に危険なことだ。

問題の一つは、現在の西側諸国の指導者は「無法者」に対処したことがないということだ。彼らの経験と教育は政治家間の交流に関するもので、その行動原理は、有権者や国民の利益のために双方が譲歩し合うというものである。彼らにとって戦争は悪であり、武力行使は最後の手段だ。
 

01ジョージ・ソロス「プーチンと習近平は状況判断を誤り、第三次世界大戦の引き金になろうとしている」

 

規則を破り、暴力に頼るのがプーチンのやり方


一方、ウラジーミル・プーチンにはこれは当てはまらない。彼を育てた組織は、暴力に頼り、法律を無視するソ連国家保安委員会(KGB)だ。

1990年代初頭、サンクトペテルブルク市役所に勤務していた際、彼は法執行機関とギャングとの非公式なやりとりを担当していた。当時のサンクトペテルブルクは、禁酒法時代のシカゴのような場で、麻薬や石油を売っていた。

時代は変わっても、彼の問題解決法は変わらなかった。数々の過去の毒殺事件は首謀者の指示によるものだということが、スペイン検察公開のプーチンの側近と著名犯罪者の会話録の一部を読めば理解できる。

アレクサンドル・リトヴィネンコ(英拠点で反体制活動を行い、2006年に毒殺された元KGB職員)の殺害や、アレクセイ・ナリワヌイやスクリパリ父娘(英在住で反体制派の元ロシア諜報機関職員の父親が2018年に狙われた)の毒殺未遂などがそうだ。

プーチンが無法者だからこそ、このような行為が大統領の周辺では常態化しているのだ。

20年以上政権を担当し、強者のイメージと自信を得たとしても、周囲からの認識は依然として「悪党」のままだ。彼を普通の政治家として見るのは非常に大きな間違いで、ロシアのパートナーは、彼の本当の姿を理解できていない。
 

譲歩は「弱さ」と受け取られる


この悪党を長年相手にし、ロシアの刑務所で10年過ごした私の経験から言えるのは、彼らに弱さや不確かさを見せるのは非常に危険だということだ。強さをはっきり示すことなく、彼らの要求を一歩でも飲めば、それは弱さと受け取られる。

彼らの論理では、西側諸国がウクライナをロシアの手に渡さないと言いながら、実際ウクライナ陥落を許せば、それは彼らが弱いということになる。

そうすると、プーチンは、エストニア、ラトビア、リトアニア、ポーランドなど、かつてロシア帝国の一部であった隣国に目を向ける可能性が高くなる。

プーチンが頭で長く意識していたのはウクライナではなく、アメリカとの戦争だ。そして今アメリカとNATOは後退しているように見える。

このように認識している悪党は、彼だけではない。アメリカの不名誉が世界中に見せつけられるなか、他の無法者たちも自分たちの出るタイミングを伺っている。

トランスニストリア(モルドバ東部とウクライナ国境との間に位置する、ロシア軍が駐留する分離独立派の未承認国家)は再びきな臭くなっており、バルカン半島の国々は再び不安を抱えるようになった。

イランは米軍基地を攻撃している。いずれアメリカとNATOは報復に出るだろうが、その時点ですでに世界各地のカラスやハゲタカに苦しめられているだろう。プーチンもその抵抗の深刻さにはすぐには気づかないだろう。
 

リトアニア首相イングリダ・シモニーテリトアニア首相「私たちは以前から警告してきた。ウクライナ侵攻は起こるべくして起きたのだ」

 

プーチンは今後バルト三国かポーランドを侵略する


罰から逃れようとする悪党たちの習慣は、そう簡単にはおさまらない。そして、もっとひどい戦争、もっと大きな戦争が起こる可能性が高い。

もしかしたら、これは信じがたいことかもしれない。しかし、こう考えてほしい。プーチンが1999年に就任した際、チェチェン紛争を通じて彼は支持を高めた。

2008年のグルジアとの紛争では、「暫定大統領」であったドミトリー・メドベージェフをコントロールした。プーチンの命令で戦争に突入したメドベージェフ大統領は、自らの近代化政策を放棄せざるを得なくなった。

そして2013〜14年に低下していたプーチンの支持率は、その後のクリミア併合を通じて高まった。

今回のウクライナでの戦争によって、ロシア経済は過去10年間よりはるかに激しく停滞するだろう。もしプーチンがウクライナを支配することになれば、汚職と制裁によって経済は崩壊し続ける。一方、ウクライナでのゲリラ戦は止まないので、大量の棺桶がロシアに戻ってくる。そして国民感情は悪化の一途をたどるだろう。しかし2024年には選挙がある。

これに対して、プーチンはどう対応するだろうか。きっとまた「特別作戦」があるだろう。モルドバは小さすぎるので、バルト三国かポーランドになる可能性が高い。ウクライナ上空でプーチンを止めない限り、NATOは地上で戦うしかなくなる。

核兵器の使用に関しては、スターリンのような歴史的人物になることに執着しているプーチンの躁病だ。彼はクレムリンの門にロシアの創造主であるウラジーミル王子の巨大な像を設置した。彼は自滅しようとしているわけではない。そうでなければ20フィートのテーブルで取り巻きと反対側に座ることはないだろう。

彼は、それに対して何の反応もないと確信した場合にのみ核兵器を使用する。しかし、NATOがウクライナ上空の飛行禁止区域を拒否するたびに、彼の自信は増している。

私は自分の国がNATOと国際的な戦争をするのを望ましいと思わない。しかし自分の力を見せつけずに悪党と話をしていれば、そういう状態に陥りかねないだろう。

 

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