もうかる軍需企業の株価が急上昇

 

Text by Peter Bloom

 

ウクライナ侵攻により、人命や生活、故郷、自由が人々から奪われている。誰もが失ってばかりの戦争だ。ただひとつ、戦争を支える武器をつくる軍需企業を除いては。

ロシアによる侵攻以降、各国の企業は兵器を通してどのように「儲けて」いるのだろうか。英エセックス大学の経営学教授が「カンバセーション」に寄稿した。


 

軍需企業の株価が急上昇


ロシアのウクライナ侵攻は、その不当な攻撃ゆえに広く非難されている。ロシア帝国の復活、そして新たな世界大戦に対して恐怖を覚えることは当然だ。

一方、あまり話題にされていないことがある。軍需産業がおよそ5000億ドルの武器を両陣営に供給し、かなりの利益を得ようとしているのだ。

この戦争における防衛支出は既に膨大なものとなっている。EUは4億5000万ユーロの武器を購入し、ウクライナに輸送した。アメリカは90トン以上の軍需品と、昨年だけでも6億5000万ドルの援助をしたことに加え、さらに3億5000万ドルの軍事支援を約束した

 

 

まとめると、現時点(原記事掲載時の3月9日)で、アメリカとNATOは1万7000発の対戦車兵器と、2000発の防空ミサイル「スティンガー」を供給している。イギリス、オーストラリア、トルコ、カナダを含め、世界的な国家連合もまた、ウクライナのレジスタンスに積極的に武器を供給している。これが世界最大級の防衛関連企業に、多大に貢献しているのだ。

レイセオン社はスティンガー・ミサイルを製造し、さらにロッキード・マーティン社と共同でジャベリン対戦車ミサイルを製造した。これらはアメリカやエストニアのような国に供給されている。

S&P500指数が1%下がっているにもかかわらず、レイセオン社とロッキード社のシェアは約16%上昇し、ウクライナ侵攻以来、それぞれ3%上昇しているのだ。

また、イギリスとヨーロッパで最大の防衛関連企業、BAEシステム社は26%上昇した。売上高世界トップ5の防衛関連企業のうちでは、主に航空路線への影響が原因で、ボーイング社のシェアだけが下落している

 

 

 

戦争で儲かる国がある


西側諸国のトップ兵器企業は戦争に先駆け、利益が増大しそうであることを投資家たちに報告していた。アメリカの巨大防衛関連企業、レイセオン社の最高経営責任者であるグレゴリー・J.・ハイエスは、1月25日、以下のように業績発表を行っている

 

 

 

「先週UAEで起きたドローン攻撃に注目する必要がある……そしてもちろん、東ヨーロッパの緊張、南シナ海の緊張、こういったことはすべて、現地における軍事費のいくらかを圧迫している。そこから利益を獲得できるであろうことを、我々は最大限に期待している」

その当時でさえ、世界的な防衛産業は、2022年に7%成長することが予想されていた。アメリカの防衛コンサルタント会社、エアロ・ダイナミック・アドヴァイザリー社の最高経営責任者であるリチャード・アブラフィアが言うように、投資家にとって最大のリスクは「すべてがロシアの砂上の楼閣であると明らかになり、脅威が消滅することである」。

そのようなことが起こらなかったため、防衛企業はいくつかの方法で利益をあげている。交戦中の国に直接武器を売りつけるだけではなく、ウクライナに武器を供与している他の国に武器を供給しているのだ。軍事費の増強を宣言しているドイツやデンマークといった国からの追加要請もあるだろう。

この産業の“世界のリーダー”はアメリカであり、2016年から2020年にかけて37%の兵器を売っている。次がロシアで20%、フランスが8%、ドイツ6%、中国5%と続く。

だが武器輸出トップ5のこれらの国以上に、この戦争で利益を得る可能性がある国がいくつかある。トルコはロシアの警告に逆らい、ハイテク・ドローンなどの武器をウクライナに供給することを宣言した。ハイテク・ドローンはトルコの防衛産業に大きく寄与しており、世界市場の1%ほどを供給している。

世界中のセールスの約3%を占めるイスラエルでは、現地の新聞が「ロシアの侵攻の最初の勝者は、イスラエルの防衛産業である」と称えた。

ロシアに関して言えば、2014年に遡る西側諸国の制裁への対応として、自前の軍需産業を打ち立てている。ロシア政府は巨大な輸入代替計画を作成し、国外の兵器と軍事知識への依存度を縮小し、さらには国外への武器輸出を増大させようとしているのだ。

世界第2位の武器輸出国として、ロシアは世界中の顧客をターゲットにしている。同国の武器輸出は2016年から2020年の間に22%まで下落した。だがその主な原因は、インドへの輸出が53%減少したことだ。時を同じくして、中国、アルジェリア、エジプトといった国への輸出は劇的に強化されている。

アメリカ合衆国議会予算報告書によると、「ロシアの兵器は高価ではないだろうし、西側諸国の兵器システムと比べると操作やメンテナンスが簡単だ」という。ロシアの最大の兵器企業はミサイル製造のアルマズ-アンテイ社(売上高66億ドル)、ユナイテッド・エアクラフト社(46億ドル)、ユナイテッド・シップビルディング社(45億ドル)などだ。
 

 

 

「人殺し」に依存した経済基盤を放置してはならない


プーチンの帝国主義に直面して、成し遂げられることには限界がある。ロシアから長年の脅威に直面しているウクライナが、武装解除するという可能性はほとんど見出せない。

しかし、状況を沈静化する努力はいくつかなされてきた。たとえばNATOは、飛行禁止区域を設けるようにというウクライナ大統領ウォロディミル・ゼレンスキーの要求を、公然と拒絶した。

だがこうした努力が、兵器レベルを向上させようとする双方の巨大な経済的特権によって蝕まれている。

西側諸国とロシアが共有しているのは、大規模な軍産複合体だ。どちらの陣営も巨大兵器関連企業に依存し、その影響を受ける可能性がある。あるいは実際すでに、影響下にある。こうした影響力の強さはドローンや、洗練されたAI制御の自動兵器システムにいたるまで、新たなハイテク攻撃能力によって推進されるのだ。

最終的なゴールが事態の沈静化と持続可能な平和なら、「軍隊による攻撃」に依存した経済基盤を真剣に批判していく必要性があるだろう。

ロシアの兵器産業が原材料の入手をしづらくし、軍備に再投資するために外国へ商品を売ることがより難しい状況にすることで、アメリカは直接的な制裁を加えるとした。ジョー・バイデン大統領によるこの声明を、私は歓迎している。

そうは言っても、これは西側諸国の防衛関連企業に商機をもたらすだけかもしれない。それによって、アメリカとヨーロッパの企業に一時的な真空地帯が残され、今後の競争がかなり優位になる。その結果、世界的な兵器開発競争が拡大し、新たな戦争に備えた大きなビジネス上の特権が創出されることもありうる。

この戦争の余波として、私たちは軍需産業の権力と影響力を制限する方法を探求するべきだ。それには、特定の武器の販売を制限する国際的な同意や、防衛産業を縮小しようとする国への国際的な支援、軍備費を増強させようとロビー活動をしている軍需企業に制裁を加えることなどが含まれる。より根本的には、さらなる軍事力の展開に対抗する運動が含まれるだろう。

もちろん、簡単な答えなどない。一夜のうちに達成できることでもない。しかし儲かる経済産業としての「兵器の製造と販売」をできるだけ多く廃止しなければ、永続的な平和が訪れることはない──私たちはこの事実を、国際社会の一員として認識することが必要だ。
「世界の軍需企業」はウクライナ戦争でこれほど莫大な富を得ている | 人殺しの兵器で経済を回していいのか? | クーリエ・ジャポン (courrier.jp)
Peter Bloom, Professor of Management, University of Essex.
This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.