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ウクライナ難民施設に紙管ユニットを次々導入、ポーランドで坂茂氏が設営支援

菅原 由依子
 

日経クロステック/日経アーキテクチュア

ロシアのウクライナ侵攻を受けて、多くの難民が国外へ逃げている。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2022年3月15日(日本時間16日)の時点でウクライナから累計約300万人が近隣国などへ流出。今後、約400万人まで難民が増えると推計している。隣国のポーランドでは既に180万人以上の難民が流入し、受け入れも限界に達しつつあるといわれている。混乱のさなか、難民支援のために日本からポーランドに駆け付けたのが、建築家の坂茂氏だ。3月11~14日、坂氏は難民受け入れ施設の設営に当たった。

ポーランドのウクライナ難民受け入れ施設では、坂茂氏が考案した、紙管を使った間仕切りシステム(PPS)を導入した。写真は2022年3月11日、設営した時の様子。写真中央に立つのが坂氏(写真:NPOボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク)

ポーランドのウクライナ難民受け入れ施設では、坂茂氏が考案した、紙管を使った間仕切りシステム(PPS)を導入した。写真は2022年3月11日、設営した時の様子。写真中央に立つのが坂氏(写真:NPOボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク)

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PPSを設営し、ウクライナ難民たちが入った後の様子(写真:Jerzy Latka)

PPSを設営し、ウクライナ難民たちが入った後の様子(写真:Jerzy Latka)

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PPSで過ごすウクライナ難民たち(写真:Jerzy Latka)

PPSで過ごすウクライナ難民たち(写真:Jerzy Latka)

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 準備は2月末から始まっていた。「テレビで難民の受け入れ施設が映ると、人々が雑魚寝している状況だった。プライバシー確保だけでなく感染症対策の観点でも、紙管ユニット(Paper Partition System、以下PPS)の必要性を感じ、すぐに支援しようと思った」と坂氏は言う。

 PPSとは坂氏が考案した、紙管の間仕切りシステムだ。これまで東日本大震災や熊本地震、九州を襲った「令和2年7月豪雨」の避難所などで数多く提供されてきた。

 今回の支援ではまず、ポーランドの建築家Hubert Trammer氏たちと共にチームを立ち上げた。坂氏とは、欧州委員会委員長のイニシアチブで設立された「New European Bauhaus」で共に委員を務めていた間柄だ。その他、坂氏の元教え子であるJerzy Latka氏がポーランドのブロツワフ工科大学で教壇に立っていたこともあり、同大学の建築学科生たちがチームに参加した。

ポーランドのウクライナ難民受け入れ施設でPPSを設営している時の様子(写真:NPOボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク)

ポーランドのウクライナ難民受け入れ施設でPPSを設営している時の様子(写真:NPOボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク)

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中央が坂氏。設営時にJerzy Latka氏、Hubert Trammer氏と撮影(写真:NPOボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク)

中央が坂氏。設営時にJerzy Latka氏、Hubert Trammer氏と撮影(写真:NPOボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク)

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旧スーパーマーケットの平面図をあらかじめ入手し、配置計画などは先に進めていた。写真は設営時の様子(写真:NPOボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク)

旧スーパーマーケットの平面図をあらかじめ入手し、配置計画などは先に進めていた。写真は設営時の様子(写真:NPOボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク)

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設営時の様子(写真:NPOボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク)

設営時の様子(写真:NPOボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク)

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 「現在、PPSを使ってトンガの噴火・津波、米国ケンタッキー州の竜巻、ハイチ地震の被災地でも同時に支援をしている。そうした活動が国内外のメディアに多く取り上げられ、認知も広がってきたため、今回のウクライナ難民支援でも話がスムーズに進んだ。チームも思っていたよりすぐに発足できた」(坂氏)

 紙管はポーランドの工場で製造されたものを提供してもらった。PPSは1ユニットの大きさが2.3m×3m、梁(はり)までの高さが約2mだ。現地の折り畳みベッドが大きかったため、日本で使用したときよりも梁の長さを20cm長くした。紙管同士の組み立て方などは、基本的に過去のPPSと変わらない。坂氏がポーランド入りするまでに、Latka氏やその学生たちが先にプロトタイプをつくり、確認した

 

旧スーパーマーケットの建物が避難所に

 PPSを設営した難民受け入れ施設は、ウクライナとの国境から程近いポーランド東部の街、ヘウムにある旧スーパーマーケットの建物が使われた。広い空間に319ユニットを並べ、3月12日夕方から入所を開始した。

 ヘウムには、ウクライナの国境に最も近い鉄道駅がある。ウクライナから鉄道で来た難民はまず全員ここで降り、入国手続きをしてその日の夜は体育館で過ごす。次の日にヘウム市内の難民受け入れ施設へ行き、短期的に滞在してからポーランド各地やEU諸国にある施設へと移動する。

手前の青い列車がウクライナから来た列車(写真:NPOボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク)

手前の青い列車がウクライナから来た列車(写真:NPOボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク)

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駅で列車から降りるウクライナ難民(写真:NPOボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク)

駅で列車から降りるウクライナ難民(写真:NPOボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク)

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 「ある意味ではハブ(結節点)の役割を持つ場所。ウクライナから来た列車が次々とこの街に着くので、ここから各国、各地の施設へ人々をどんどん移していく必要がある。難民の受け入れは自然災害のそれとは全く違うオペレーションだ。共通することは、それぞれの家族にプライバシーが必要ということだろう」と坂氏は言う。

1人で避難してきたウクライナの女性(写真:NPOボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク)

1人で避難してきたウクライナの女性(写真:NPOボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク)

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ウクライナの男性は出国がほとんど許されず、難民のほとんどは女性や子どもたちだ(写真:NPOボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク)

ウクライナの男性は出国がほとんど許されず、難民のほとんどは女性や子どもたちだ(写真:NPOボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク)

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欧州各国から届いた支援物資を保管する場所(写真:NPOボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク)

欧州各国から届いた支援物資を保管する場所(写真:NPOボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク

 

 

 

 

駅舎内にも紙管ユニット設置の要請

 PPSの設置要請は増える一方だ。ポーランド西部にあるブロツワフという街では、ブロツワフ中央駅舎にPPSを60ユニット設営した。「駅に設けたPPSに難民の女性が入ると、急に泣き出したと聞いた。それまで人の目が気になって、気が張っていたのだろう。プライベートな空間に入れた途端に安心して気が緩み、それまでのつらい思いが涙としてあふれ出したそうだ」(坂氏)

ブロツワフ中央駅の駅舎内にもPPSを設営した(写真:Maciej Bujko)

ブロツワフ中央駅の駅舎内にもPPSを設営した(写真:Maciej Bujko)

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駅舎の設営でもブロツワフ工科大学の学生たちがボランティアで参加してくれた(写真:Maciej Bujko)

駅舎の設営でもブロツワフ工科大学の学生たちがボランティアで参加してくれた(写真:Maciej Bujko)

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 坂氏はヘウムを出てから首都ワルシャワへと向かった。大都市のワルシャワには使われなくなったオフィスビルが数多くあり、解体前のビルを難民受け入れ施設として活用する例が増えている。その他、ポーランド西部のポズナン、同国南部のクラクフなどもPPS設置を要請してきているという。

ワルシャワ市内の解体前のオフィスビル。難民受け入れ施設に活用することが検討されている(写真:NPOボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク)

ワルシャワ市内の解体前のオフィスビル。難民受け入れ施設に活用することが検討されている(写真:NPOボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク)

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 支援の必要性は分かっていてもすぐに行動できる建築家はそう多くない。記者が取材で電話をかけたとき、坂氏はポーランドに向かう車中にいた。その行動力はどこから湧き出るのかと問うと、坂氏はこう答えた。「プロフェッショナルの建築家として当然のことをしているだけ。社会的な役割だと考えている

 

 

 

 

 

 

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