ECMO患者が“奇跡”の出産 妻と子の命どちらを優先するか 重い選択の末に・・・「産まれてきてくれて、ありがとう」
TBSNews
新型コロナに感染し意識がない女性。意識がないまま出産に臨もうとしています。医師も「奇跡だ」と話すその一部始終です。 車いすからゆっくり立ち上がる女性。新型コロナに感染し、5か月間、意識のない状態でしたが、ある奇跡が彼女の命を救ったのです。 去年9月、女性は意識を無くし命を繋ぐ最後の砦と呼ばれるECMO=人工肺に繋がれていました。血液を体の外に一旦出し酸素を注入して戻す装置です。 そして女性のお腹には小さな命が宿っていました。治療に当たっていた森澤医師は、妊娠が女性の体に大きな負担を与えていたと言います。 聖マリアンナ医大病院救命救急センター 森澤健一郎副センター長 「妊娠の継続自体がお母さんの命を危険にさらしてしまう。赤ちゃんはお母さんから出てきて、呼吸をして頑張れるほど大きくなっていなかった」 夫は女性の回復を祈るしかありませんでした。しかし、出産予定日まであと4か月となった去年9月。医師にこう問われます。 「妻とお腹の子、どちらの命を優先するか」と。 女性の夫 「最悪の状態を考えたときに妻の命を第一優先してくださいとお願いしました。娘には悪かったけど妻を第一優先。とにかく妻だけでも生きていて欲しかったというのが本音です」 夫がその重い決断を医師に伝えたわずか15分後、それまで全く動かなかった女性に異変が起きます。急に足を動かし始めたのです。 看護師 「足まっすぐにして下さいね」 「おなか痛い?」 意識は無いまま何かを訴えているかのようです。ベッドサイドに集まってくるスタッフたち。そのうちの一人、助産師の後藤さんは思いもよらぬ光景を目にします。 聖マリアンナ医大病院 後藤淳子助産師 「診察をしたところ子宮口が全開大という状況で、赤ちゃんもすぐそこにいる状態だったので、これは下(産道)から、お産ができると」 緊急処置を始めてから、わずか15分。 聖マリアンナ医大病院 後藤淳子助産師 「赤ちゃん女の子よ、おめでとう!」 933グラムの小さな女の子が産まれました。 医療スタッフ 「強いね、君はね」 「頑張れ」 「泣いたね」 「目が開いた。ああ、かわいい」 「おめでとう、良い子だね。頑張った、頑張った」 実は病院は、女性の帝王切開での出産も検討していました。 しかし、ECMO=人工肺を付けているため、血液をサラサラにする薬が手放せず、帝王切開では大出血に繋がる恐れがありました。 そんな中で、赤ちゃんは意識のない母親の産道に降りてきたのです。 女性の夫 「(娘は)早くお母さんを助けたいという思いで出たんじゃないかなと思って」 聖マリアンナ医大病院救命救急センター 森澤健一郎副センター長 「お母さんは、赤ちゃんが自分で呼吸をして、外の世界で生きていけるぎりぎりまで引き留めたのだと思うし、赤ちゃんはお母さんを守るために出てきたのだと思います。あれは奇跡なんでしょうね」 出産後、女性の体の負担は妊娠中より軽くなり、容体は徐々に回復。ついに意識が戻りました。 出産から4か月がたった今年1月、赤ちゃんが退院する日を迎えました。 女性の夫 「4か月間お世話になりました」 車椅子に乗れるようになった女性が、退院の見送りに。初めて娘を抱くことができました。 女性の夫 「やっと会えたね。ママのお腹にいたんだよ。3600グラムだって。52センチ、すごい大きくなった。うれしい。2人で待っているからね」 ミルクをあげたりおむつをかえたり、大忙し。父と娘、2人は自宅で、女性の帰りを首を長くして待っています。 女性は、病院でリハビリを続けています。こんなメッセージを寄せてくれました。 出産した女性 「とにかく早く家に帰りたい。そのことだけを考えて、毎日少しずつでも前進できるように取り組んでいます。退院したら3人でのんびり過ごしたい」 (21日21:34